敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
急上昇
「敵、隊長機らしきものが急上昇を始めました!」
ガミラス基地司令室でレーダーのオペレーターが叫ぶ。シュルツは「墜とせ!」と応えてから、
「ビーム砲台を殺る気なのか?」
「間違いなくそうでしょう。他に攻撃方法がないのはすぐわかるはずですから……」
「墜とせ!」ともう一度言った。それから別の者に、「〈カガミ〉はまだ使えんのか!」
「お待ちください。もうすぐ一基が反射可能な位置に……」
「ちっ」
と言った。重力均衡点にあった要(かなめ)の衛星が失われたため、今は〈ヤマト〉を反射衛星砲によって撃てない――とは言え、すべてのビーム反射衛星を失くしたと言うわけでもなかった。もはやほんの数基となった〈カガミ〉のひとつがこの星の上を巡りながら、もう少しで砲台からのビームを反射し〈ヤマト〉を撃つことのできる位置に達しようとしている。
まだ勝負は終わっていない。その〈カガミ〉さえ間に合えば――歯をギリギリと食い縛りながらシュルツは思った。しかし、レーダーの画面には、空をグイグイと上昇するひとつの敵を捉えたものが映っている。
戦闘機だ。あの銀色の、敵の隊長を務めるやつだ。これがビーム砲台に核を喰らわせようとして、そうしているのはすぐ見てわかる。こともあろうにわたしはこいつの眼の前で、つい先ほど〈ヤマト〉めがけてビームを撃ち放ったのだ。そうしなければひょっとして見つからずに済んだかもしれないものを……。
なのに、わざわざ自分から、こいつに位置を教えてしまった。
それだけではない。こいつが迫ってさえいなければ、あの状況で砲を撃ちはしなかったろう。まさか、〈ヤマト〉がこちらの船を盾にし、ビームを防ぐなどとは思いもよらなかった。しかしそれだって、あんなときでなかったならば――。
みすみす手には乗らなかった。そのはずだとシュルツは思った。そこを〈ヤマト〉を指揮しているやつに突かれたのだ。
なんと……と、あらためて思う。〈ヤマト〉。あの船を指揮するやつめ。なんと恐ろしい……。
だがしかし、それを言っても始まるまい。〈線〉まで突き止められねばともかく、道をまっすぐ辿って来られて見つからずに済むほどのカモフラージュなどできるわけない。ゆえにあの瞬間に、どうせ撃つしかなかったのだ。
それも最大出力で――それで要の衛星を失うことになろうとも。
わかっていてやったのだ。あの〈カガミ〉はどうせあれでおしまいだった。手加減して〈ヤマト〉を撃てば、〈ヤマト〉は命があるうちにあの副砲で〈カガミ〉を撃つ。それでおしまいとなることはわかりきっているのだから、〈カガミ〉が壊れないように出力を絞って撃つのは意味がない。
そうだ。どのみち、今このように、まだ使える衛星が〈ヤマト〉を狙える位置に来るのを待って撃つしかなくなっていたのだ。そこを突かれた。その結果なのだ。あの〈ヤマト〉を指揮するやつは、すべてを読んだ上でこれを……。
だから、あらためて思うしかない。なんと恐ろしいやつだ、と。
しかし、まだ敗けではない。頼む。なんとか間に合ってくれ。一度だ。あと一度だけ、砲が撃てればそれでいい。〈ヤマト〉めがけて、あと一度だけ、また〈最大〉でビームを撃つ。それができさえすればいい。どうせ〈ヤマト〉を沈めてしまえば、地球人類はおしまいなのだ。
そうだ。〈ヤマト〉さえ殺れればいい。それができたら、他のものは、この戦闘機にくれてやる。核でもなんでも射つがいいわとシュルツは思った。どうせこの戦いの後では用済みになるものだ。ビーム砲台などもう要らないし、基地も要らぬし遊星投擲装置も不要となるのだ。
どうせここに捨て置いて、本国まで持って帰ることもないもの――そうだ。どうせそうなのだから! だからどうか、お願いだ、間に合ってくれとシュルツは祈った。〈ヤマト〉が沈めば戦闘機どもは、自力で地球に帰れないのだ。燃料も酸素ももたずに死ぬだけなのだ。だからせいぜい何もかも、核で破壊させてやるわい。別に痛くも痒くもないわ。
「宙返りに入りました!」
敵戦闘の動きを見守っていたオペレーターが悲鳴のような声を上げた。
「速い! これではとても――」
『迎撃ができない』と言うのか!
「墜とせーっ!」
シュルツは叫んだ。力の限りに叫べば声が届くと言うものではない。わかっていても怒鳴り声を張り上げずにいられなかった。
「墜とせと言ったら、墜とせーっ!」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之