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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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衝撃降下



空の上では敵のゴンズイ戦闘機部隊が待ち構えていた。宙返りで古代はそこに突っ込んでいった。強烈なGが体にのしかかる。

視野が暗くなっていく。〈ブラック・アウト〉だ。体中の血液が下半身に集まって、眼と脳とには行き渡らなくなる現象だ。

宙返りこそ、それを最も急激に体が受ける飛び方だった。速く回ろうとすればするほど首から上の血がなくなって、限界を超えたところであの世行き。

そうと知っても、力を緩めるわけにはいかない。宙返りの頂点に〈ゼロ〉が達したときを狙って、敵がワッと一度に襲いかかってくるのは知れた話なのだ。それをスリ抜けられるかどうかは、Gに耐えていかに速い宙返りを決められるかにかかっている。

狂ったように警報が鳴る。しかし見えない。真っ暗だ。意識が消えていきそうになる。前にはただグニャグニャとした無数のひらがなのようなもの。

ミサイルとビームの雨の曳光だ。それが一斉に正面から、自分めがけてやってくるのが古代にはわかった。そしてその向こうにいる何十と言う戦闘機の群れ。

百人一首だ。

そのとき、古代は頭では何も考えていなかった。代わりにただその言葉があった。百人一首――これは同じだ。かるた取りと。脳を通さずに眼と耳から手の神経に信号を送る。それができる者が勝つ。敵より速く機を操って、取るべき札を取るように〈ひらがな〉どもを躱せばいいのだ。

〈ゼロ〉めがけて飛んでくるビームとミサイルの曳光は、百人一首の取り札のひらがな文字のようだった。それらが宇宙を切り裂く音を古代は聞いた。宇宙で音は聞こえないと言う者がいるがそれは嘘だ。光の速さで飛んでくるビームを躱せるはずがないと言う者もいるがそれも嘘だ。

古代には見え、そして聞こえた。ブラック・アウトで視力を失くした眼でも敵だけは見ることができた。自分を狙う敵パイロットの照準の輪に捉えられ、引き金が引かれ銃声とともにビームが飛んできた瞬間に、〈ゼロ〉の機体を閃かせて火線を避(よ)けることができた。

そして次の瞬間には、何もかも後方へ。〈ゴンズイ〉の群れをスリ抜けて、〈ゼロ〉は急降下に入った。

グイグイと加速。地面が迫る。ヘッドアップディスプレイのピッチスケールがマイナス九十度を示して、回る。

垂直降下だ。機が振動を始めた。ビリビリと震え、加速につれて大きくなる。

速度計の針が上がって、急降下制限速度のゲージに近づいていく。それを超えたら翼がもたず、舵が利かずに引き起こしができなくなって地面に激突してしまうか、その前に空中分解でバラバラになるかを示す目盛だ。警報と共に、〈ゼロ〉の翼が軋む音が聞こえ始める。

古代は構わず、機にひねりを入れさせながら真下に向けて突っ込んでいった。

宙返りによるGはなくなり、眼に視力が戻ってくる。むしろ今度は上半身に血が集まって視野が赤く色づいてしまう〈レッド・アウト〉になりかけているのを感じた。

そうして見える正面の風防窓に迫る光景。機がグングンと近づくにつれ、その三浦の磯のような地面の中に、まさに三浦の磯のように、フジツボや岩に貼り付く貝に似たものが無数に点在し、満潮(まんちょう)の水を被って目覚めたように活動し始めるのが見えた。多くはおそらく対空ビームに対空ミサイル発射台。

撃ってきた。しかし上からは丸見えだ。機をひねらせてさえいれば、滅多に当たるものではない。

フジツボどもの真ん中に、ひときわ大きなフジツボのお化けのようなものがいた。

対艦ビーム砲台――〈魔女〉だ。それも上からは丸見えだった。核ミサイルの照準を穴の奥にあるものに合わせる。まだ〈ヤマト〉をどうにかして狙い撃とうとしているのか、それが砲口なのであろうエボシ貝のようなものがまた熱を高めているのを、〈ゼロ〉の赤外線探知装置が感じ取っていた。

魔女め!

思った。どうしても、そこで人類を笑う気か! 昔、兄貴を笑ったように、弟のおれを笑う気か! レーダーが的を完全にロックするのにあと数秒。〈ゼロ〉がダイブの限界を超えるまでにもあと数秒。対空砲火を躱せる限界もあとわずかだ。〈ゼロ〉の機体をひねらすたびに翼が大きくたわむのを感じる。

舵が重い。ロクに利かない。次のビームを避けることはもうできないのではないかと思った。眼はいよいよ赤くかすむ。そして揺さぶる振動で、前を見ることができなくなりそう。

だが、いいや、と古代は思った。敗けない。おれは敗けないぞ! 魔女め、絶対におれは敗けない! 兄さんのようにおれは敗けない!

勝つんだ! 照準が標的をロック・オンしたのを告げた。『射て』のサインが表れる。

〈コスモゼロ〉の腹に抱かれた核ミサイル。古代はその引金を引いた。