敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ミサイル・バリア
銀色の戦闘機がバラノドン隊の攻撃をスリ抜け、九十度の衝撃降下でビーム砲台めがけてダイブし、そしてミサイルを射ち放つ。スクリーンが映し出すその一連の動きを絶望の思いで見ていたシュルツは、だがミサイルが飛んですぐ爆発四散したのを見て己が眼を疑った。一瞬、それは錯覚か見間違いなのかと思ったほどだ。
しかしやはりミサイルだろうものが空中でバラバラに散っている。オペレーターが報告した。
「迎撃成功。ミサイル・バリアが働きました」
「なんだと?」
と聞いてみたが、オペレーターも、自分で自分の言ったことが信じられぬような面持ちだった。横でガンツが、
「砲を護る最後の盾として備えてあったものです。敵のミサイルを途中で墜とす……」
「ああ」
と言った。思い出した。確かにそんなようなものが備えてあるとは聞いていたのだ。地球人が砲台の位置をもし突き止めたなら、戦闘機で急降下してミサイルを射つ。それはわかりきっているからその前に何がなんでも全部撃ち墜とさねばならない。
しかしそれが難しいのもわかっているので、最後の盾として備えつけたのが〈ミサイル・バリア・システム〉だった。その昔に音速を超えようとした飛行機がサウンド・バリア――〈音の壁〉にぶつかったように、重力場のハンマーで向かってくるミサイルを叩く。
うまくいったらお慰み。理屈はともかく、本当に役に立つとは思っていなかったシステムだった。テストによれば成功する確率は『五分がいいところ』と聞いていたが……。
「く」と言った。「首が繋がった、と言うことか」
「はい」とガンツ。「ですが、おそらく次はないと……」
「わかっている」
とシュルツは言った。敵のミサイルは空中で燃えてバラバラに散り落ちる。その弾頭は核であったに違いないが、まさかこれで起爆する造りであるわけもない。燃えているのはロケットの推進剤だ。核がたとえ無傷のまま穴に飛び込んだとしても、やはり信管は働かぬはず。
核物質は火にくべようと、花火玉に詰めてドーンと打ち上げようとそれでピカリといくものではない。助かった。なんと危ういところで……とシュルツは思いはしたが、しかしこれは首の皮やっと一枚繋がったに過ぎないこともわかっていた。
敵はまだまだ何十機も残っている。そして今のと同じ型がもう一機。
「あれだ」と言った。「あの銀色のやつだ。あれがもう一機あるだろう。墜とせ。あれを墜としさえすれば、他のはそうたいしたことはないはずだ」
「はい」
とガンツ。しかしわざわざ命じなくても、バラノドン隊は既に敵を見定めて、二機目のそれが昇ってこないうちに襲おうとしているらしい。シュルツは〈反射衛星砲〉のオペレーターに向かって言った。
「砲はまだ撃てんのか!」
「まだです。もう少し……」
と返事が返ってくる。しかしこれも言われなくても、衛星がまだ〈ヤマト〉めがけてビームを反射できる位置に届いていないのはスクリーンに示されている。『急げ』と言っても無駄なこともよくわかっていることだった。
だからもう一度、戦闘機の方を見た。もう一機の銀色のやつ。こいつだ。もうこいつだけだ。おそらくミサイル・バリアは次は効いてくれないだろう。こいつに核を射たれたら、もう今度こそおしまいだ。
しかし、しかしとシュルツは思った。〈カガミ〉だ。〈カガミ〉がその前に届いてくれさえすれば――。
それで〈ヤマト〉を撃ってやれる。今度こそやつらはおしまいだ。それでこちらの勝ちなのだ。
勝ちだ! 勝ちだとシュルツは思った。だからどうか……。
「頼む!」とシュルツは銀色のやつの〈二機目〉を見つめて叫んだ。「あいつを!」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之