敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
氷山空母
〈ヤマト〉戦術科室では、科員達が立体プロジェクターが映すガミラスの対艦ビーム衛星と思(おぼ)しきものの像を囲んで分析作業に取り組んでいた。新見の副官である二尉が、頭に着けたインターカムで艦橋からの新見の言葉を受けながら、
「やっぱりこの四枚のパネルが怪しいわけですね。これがなんなのかって言う……」
『そうなんだけど』と新見の声。
「太陽光発電パネルとは思えない。それに大体、冥王星の周りってのは、小さな石や氷のカケラがたくさん浮かんでいるはずでしょう。こんなもの広げていたらあっという間に穴だらけになりそうなものなんだけど……」
『そうでしょう。絶対、何か意味があるに違いないのよ。普段はこれを小さくすぼめてたたんでいて、ビームを撃つときだけ広げる』
「そういうことなんでしょうねえ。しかし、どう考えても、こんなパネルにビームの発射機能があると思えませんが」
『それもわかってる』
「わかりました」
と副戦術長は言った。『わからないということがわかりました』とでも言いたげな難しい表情だった。
「それじゃまず、こいつがなんなのか探ってみると同時に、地球に似たものがないかを探す。〈ビームを発射するパネル〉なんてものが過去に発案されていないか。あるいは、〈人工衛星の変わった使用法〉だとか……」
『そんなところね。じゃあお願い』
言って新見は艦内通信を切った。
「よし。みんな話は聞いたな。それじゃあ――」
副戦術長は部下の顔を眺め渡した。
「班をふたつに分けよう。A班は引き続いてこのパネルが何かを分析するチームだ。B班には過去に地球の科学者がこれと似たものを考えてないか資料を漁ってもらう。たとえば〈氷山空母〉のような、ボツを喰らった奇想天外兵器の類(たぐい)だ」
「ははは」
と、科員らが苦笑する。しかし案外、そんなとこから答が見つかるかもしれないとこの二尉は考えていた。
地球では古来、変な科学者が、変な兵器をいろいろいろいろ御国(おくに)のためにと考案してきた。巨大な氷で船を造って飛行機を離着艦させる〈氷山空母〉とか、コウモリに焼夷弾を持たせて飛ばす〈コウモリ爆弾〉とか……ガミラスとのこの戦争でも、防衛軍には内外から妙な兵器のアイデアが山のように寄せられている。だからひょっとして、地球でこの衛星ビームと同じものを過去に考えた人間がいて、軍に開発を訴えたものの不採用に終わっている、なんてことがないとも限らない。そのものズバリでなくても何かヒントが得られるかもしれない。
衛星として星の周りに張り巡らせて自在に敵を狙えるが、何か大きな欠陥を抱え、船に積むことのできない兵器――沖田艦長はこの奇妙な四枚羽根には必ず弱点があると言われたと言う。それを見つけて突けば勝てると。
そうだ、と思った。それをやるのがおれ達だ。今こそ〈ヤマト〉戦術科の力が問われるときなのだ。
「この敵には、死角がないかのように見える。だが、そんなはずはない。必ずどこかに死角がある……」彼は言った。「見つけるんだ、なんとしても」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之