敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
いいニュース、悪いニュース
「新たな情報が入りました。いいニュースと悪いニュースです」
地球の地下の防衛軍司令本部。会議室で情報局の分析官がそう告げる。
藤堂は聞いた。「どちらから教えてくれるのだ」
「悪いニュースです。四つの変電所のうち、西と東と南の三ヶ所が〈石崎の僕(しもべ)〉によって完全に破壊されているのが判明しました。技術部隊が復旧作業を始めましたが、数時間のうちに通電を回復できる望みは薄い……施設はブービートラップだらけで、現在はその排除に手こずっている状況とのことです」
会議室内に絶望の呻きが満ちた。藤堂は言った。
「北の変電所は無事なのか」
「それがいいニュースではあります。〈石崎の僕〉達はどうやら戦力を〈北〉一点に集中させるため、他の三ヶ所を破壊したものと考えられます。今は全員で北変電所に立て籠り、来る者を迎え撃つ構えなのだと……ならば変電設備には手を付けていないでしょう。事が終わればすぐに電気を元に戻せるようにしてさえいるはずです」
「『街の人間がみな死んだら』と言うことだな」
「はい。明日から自分達だけ、電気を使って酸素も吸える、そんな世界を造るんだ、という考えでいるわけですから。彼らが電気を止めるのは今日一日だけのことです。おそらく極めて固い護りを敷いているはずですが、しかしそれを突き破れば街に電力を戻せるものと見てよかろうと存じます」
「うむ」
と応えた。他の者達もみな頷く。
分析官は続けて、「それと、石崎の所在ですが……」
「どこにいるかわかったのか」
「いいえ。ですが〈僕〉と共に北変電所にいるものと見ていいでしょう。この状況ではあの石崎も、自分だけが愛人を連れてどこか他所(よそ)に隠れているというわけにはいかぬはずです」
「だろうな」
「ですからこちらも、全兵力を北変電所に向ければいいことになります。数はこちらが百倍にもなるはずですので、出せる限りの兵力を投じ、ただひたすら突撃をかけて護りを崩す。何しろ時間がありませんので、他に方法がありません。多大な犠牲を出すことにもなりますが、それを厭うてもいられない……」
「わかっている。やむを得まいな」
「さらに、重火器による支援もできません。変電所の施設を破壊したならば、それだけ電力を戻すのが難しくなってしまいますから……もっとも、戦車砲で撃ったところで施設の壁は簡単に破れるような造りでなく、ロケットランチャーなどを喰らってこちらが殺られるだけでもありはするのですが。それでも万が一にでも砲弾が中に飛び込んで炸裂するようなリスクは冒せません。突撃する兵士にも、火器の使用は制限しなければなりません」
結局、いいニュースなどひとつもないようだった。
「まあそうだろうが、ではどうするんだ」
とひとりが発言する。情報局員は応えて言った。
「はっきり言いましょう。銃剣です」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之