敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
徹甲炸裂ビーム
「そういうことかよ。敵は〈ヤマト〉を穴だらけにして、クルーだけを殺す気なのか」
斎藤は言った。第三艦橋に残っていても仕方がないから、船の本体艦底部まで、皆で這い上がってきたところだ。
「そうでしょう。さっきおれ達が喰らったのは、おそらく〈徹甲炸裂ビーム〉とでも言うべき種類の光線です」
と部下のひとりが言う。さっき、『敵は〈ヤマト〉の秘密を奪うため船を内出血させる気なのだ』と言った男だ。
「〈ヤマト〉の外の皮一枚だけ貫いて、すぐ内側の区画だけをズタズタにするよう調整してあるんでしょう。たぶん、クルーを『殺す』と言うより、『ケガをさせる』のが狙いなんじゃないでしょうか。一度に何十人も……」
「だからおれ達はいま生きてる……死んだのは外に吸い出された者だけだな」
「そうです。たぶん、ビームを喰らった場所にいても、モロに受けるか外に吸い出されない限り、滅多に即死はしないんじゃないですかね。戦闘服は多少のケガなら真空下でも着る人間の命を護るように出来てるし……」
「そうは言ってもせいぜい15か20分が限度だぞ」
斎藤は言った。いま自分と部下達がケガのひとつもしていないのは、着ているのが耐スペース・デブリ仕様の船外作業服で、この鎧がビームの炸裂で飛んできた礫(つぶて)をすべて弾いてくれたからだ。数時間は活動できる酸素ボンベも備えている。
が、その代わりひどく重い。他の者達が着る服は軽いがしかし……。
徹甲炸裂ビーム――なるほど、あれは船の内壁を、ポップコーンの元かそれともタマゴを電子レンジでチンするみたいに加熱して、無数の焼けた破片に変えてハジケさせるように力を調整されたビームだったのかもしれない。自分が見たラボの損害状況は、今この部下の言うことを『なるほど有り得る話だ』と思わせるに足るものだった。
だとしたら、そんなものを敵が使う理由はひとつ。〈ヤマト〉をなるべく壊さずに、乗組員を殺傷することだ。特に外壁近くにいる戦闘員を――。
ビームやミサイル、宇宙魚雷を撃つ砲雷員に、スラスターを操るための機関員。彼らがいま着ているのは、動き易さを重視した船内用の戦闘服だ。緊急用の15分ほどの酸素ボンベと二酸化炭素還元パックしか持たず、生命維持装置も簡易的なもの。
それでも戦闘用だけに、たとえ穴が開いたとしても着用者を死なせない工夫がいくつもこらされている。空気が抜けた船内でケガを負ってしまっても、呼吸ができる15分の間に危機を脱せれば命が助かる望みがあるのだ。
部下が言った。「だからすぐ、行きましょう。どうせおれ達は持ち場を失くしたんだから、負傷者の救命・救助にまわるんです。急げばまだ救けられるやつが生きているはずです」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之