敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ドリルミサイルふたたび
それは〈ヤマト〉のクルー達が、すでに知る物体だった。
〈ドリルミサイル〉――〈ヤマト〉が地球で旧戦艦〈大和〉の皮をまだ被っていた頃に、飛び立つ前に破壊すべくガミラス空母が放った兵器。それと同じ物が今、垂直に氷に杭を打つようにして進んでいる。硬い岩盤も掘り抜くドリルの刃にとっては、冥王星の窒素とメタンと一酸化炭素の氷も何ほどと言うものではなかった。
それが無数――前回、地球で〈ヤマト〉を襲ったのは、途中で迎撃されたものを含めて数は百二十だった。一基一基が大きく巨鯨ほどもあり、大型空母でもその数を積むのがやっとだったのだろう。本来は地中の要塞を攻撃するための兵器なのは疑いない。もしまともに一発でも喰らっていたら、あのとき〈ヤマト〉は粉々にされていたに違いない。
その同じミサイルが、ふたたび、今度は直上から、海中の〈ヤマト〉めがけて突き進む。池の魚を獲るべく突かれる百の銛のひとつひとつが、今度はすべてドリルミサイルだ。
冥王星の氷原は、数キロメートル四方に渡ってドリルが掘った穴だらけになっていた。まるである種のチーズを切った断面を見るようだった。
ひとつひとつの穴ボコの中に、チーズを食べる虫のようなミサイルが。〈ヤマト〉はその虫どもが進む真下の海中にいた。一発でも当たったならば爆発でやられるだけのことでは済まない。そこからドッとマイナス数十度の水が艦内に流れ込むだろう。そうなったら命はない。
と、ついに最初の一基目が、氷の地盤を掘り抜いた。後はドリルやエンジンの力を借りるまでもなく、みずからの重さによって水中を下に向かって沈むだけだ。
さらに二基目、三基目と、ミサイルの雨が次々と、〈ヤマト〉に降りかかろうとしていた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之