敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ガンシップ
「当たりますかね」
ガンツが言った。モニターのスクリーンには穴だらけになっている冥王星の地表が映し出されている。そこから水がビュウビュウと噴水のように噴き出して数キロの高さにまで昇り、雪となって舞い散っていた。それほどまでに水圧が高く、星の重力が低く、大気の薄さのために抵抗が小さいのだ。見ようによっては壮観で美しい光景だった。
ひとつひとつが〈ヤマト〉に向けて放ったドリルの開けた穴。うちひとつでも直撃すれば〈ヤマト〉はオダブツであろう。超高圧で極低温の水に潰され乗組員はひとり残らず一瞬にして氷漬けだ。後は潜って船を引き揚げ、波動砲を無傷で回収。中をじっくり調べてやれると言うもの。
とは言え――。
「まず無理だろうな」
シュルツが言った。ミサイルの発射管制オペレーターに眼を向ける。相手は「はい」と頷いて、
「命中は難しいでしょう。当たってもそこで信管が働くかどうか。直撃でない限り、おそらく〈ヤマト〉は……」
「傷もつかない」ガンツは言った。「それは地球であれが発進するときを狙ったので証明済みです。まして〈ドリルミサイル〉は、水中で使う武器ではない。地中で爆発したときに最大限の威力を発揮するよう造られているのであり、水の中では充分な破壊力を持ち得ません」
「うむ」
とシュルツ。ガンツは続けて、
「それでも直撃させられたらと思うのですが……」
「それも無理だと言うのだろう」
「はい」
と言った。オペレーターにまた眼を向ける。彼は頷き、
「あのミサイルは水中では向きをまったく変えられません。信管は働かないし、外から信号を送ることも、深度に合わせて起爆するような設定もできません。時限タイマーで当てずっぽうに爆発させるしかありませんから、まず直撃となる望みは……」
「ゼロに等しい」シュルツは言った。「だが、いいのだ。それでいい。〈ヤマト〉は今、戦う力を回復させようとしてるのだろう。それを邪魔してやるだけでいいのだ」
スクリーンには三隻の船が映っている。カロンに隠していた戦艦だ。〈ヤマト〉がいずれ出てくるだろう氷の薄い場所の上に到着したところだった。
この三隻は一辺が数キロになる三角形を作ってその地のまわりを囲み、それぞれが砲を真横に向けて旋回し始める。〈ヤマト〉がいつ出てきても三方向からビームを浴びせられる手はずだ。
コンパスで円を描くように同じ場所のまわりをグルグル回りながら、砲を真横に向け続け、獲物がそこに来たらドカドカと撃ちまくる。一点集中の〈ガンシップ戦術〉。古来、砲艦というものが持てる力を最大限に発揮するのがこの戦法だ。それを三隻の戦艦で〈ヤマト〉に対してやろうと言うのだ。
一糸乱れぬその動きには、ガンツも勝利の確信を持たないではいられなかった。司令室の誰もが思いは同じなようだ。全員が笑みをたたえて画面を見ている。
「どうせ出口はひとつしかない」シュルツが言った。「〈ヤマト〉はまた同じ場所から出てくるさ。そうするしかないのだから……それほど長く潜っていられるものとも思えん。そのときこそやつの最期だ」
「はい、確かに」ガンツは言った。「これならば、いかに〈ヤマト〉が強かろうと……」
「勝てる」とシュルツは言った。「だが、それだけでないぞ。もうひとつ……」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之