敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
不良物件
核爆発の衝撃は地震となって地中深くのガミラス基地に伝わっていた。とは言っても爆心から遠く離れてさして強い揺れともならず、電子機器が影響を受けることもなかったが。
シュルツは床の揺れよりも、映像パネルのいくつかが真っ白になり強い光を放ったのに顔をしかめた。核の閃光はカメラを通した画(え)で見ても眼を灼(や)きそうなほどに眩(まぶ)しいものだった。
オペレーターが告げる。「ミサイル発射台の消滅を確認。おそらく跡形もないでしょう」
「まあそうだろうな。だが、いいさ。ドリルミサイルはあるだけ射ってしまったのだろう」
「はい。ほぼすべてを射ち尽くした後でした」
「ならいい。どうせ用無しだったものだ」
シュルツは言った。今この星にあるものは、すべてがすでに無用と判断されたものだと言える。〈ヤマト〉を待ち受けるにおいて、避難させるべきものは人に限らず物でもなんでも船に積み込み、星の外に出してしまった。残っているのは〈ヤマト〉と戦うためにどうしても必要なものと、運び出すにも出しようがなく、『波動砲で星ごと消し飛ばされたとしても構わない』としたものだけだ。
「あのミサイルは、地球人の絶滅を見たらどうせここに捨てていく気でいたものだ。失くしたところで惜しくはない」
「それはその通りです」ガンツが言った。「本国も役に立たんミサイルなどより対艦ビーム砲台をもう一基置かせてくれていたならば、今〈ヤマト〉をもっと楽に迎え討ててやれたものを……」
「ククク」
と、司令室内の何人かが苦笑した。無理もないとシュルツは思った。〈ヤマト〉めがけていま射ってやった数百の〈ドリルミサイル〉は、本国が地球の地下都市攻略のため、一方的に送りつけてきたものだった。『やめてくれ、こんなものは場所ふさぎになるだけだ』とこちらがどれだけ言っても聞いてくれぬまま――。
地球人が〈地下農牧場技術〉などと言うものを持っていて、放射能で汚染してやるより先に地中に潜ってしまうというのは、本国では想定外のことだった。慌ててドリルミサイルを大量に送りつけてきて、『これで地下を撃て』と言う。だがそんなこと言われても、地球はなかなか手強(てごわ)くてそう近づけたものではない。地下東京を攻めようとしたら一発も放たぬうちに船を何隻も殺られてしまい、危うく拿捕さえされかねないところだった。
決して地球人どもに波動エンジンを積んだ船を拿捕されることがあってはならぬ。そのリスクは冒してもならぬ――それが絶対命令だ。ゆえにドリルミサイルは、使うに使えぬ兵器としてこの星にずっと置いてあった。本国の一体どんなボンクラが『これを使え』と言ってくるのかと皆がボヤいていたのだった。〈ヤマト〉が潜む海中めがけて射ち放ったのは、いい機会だから使ってしまえという考えもあったのだ。
「さて」とシュルツは言った。「どうかな。これでやつらが基地を潰したものとでも誤認してくれれば助かるのだが……」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之