敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
プランB
『いいえ、やはり基地そのものではなかったようです』
と山本が告げる声が、〈糸電話〉で古代の耳に入ってきた。
『あそこから射っていたのはどうやら全部が〈ドリルミサイル〉だったらしい……』
「ドリルミサイル?」古代は言った。「なんだそりゃあ?」
『ええと……一尉も見たでしょう。ほら、いつか沖縄で……』
「知ってるよ! そういう意味で言ったんじゃない。どうして敵がそんなもんここで使うかと聞いてるんだよ」
『わかりません。あれはそもそも、あの沖縄のときのように、雷撃機で特攻かけて初めて地下の要塞に届くようなもののはずです』
「そうだろ」
と言った。あのときおれをつけていたのはどうやら潜宙艦らしい。そこから雷撃機が飛び出して大気圏に突っ込んできて、あのドリルミサイルを射った。それで基地を殺りはしたが、すぐその後に地球軍の追撃を受け、母艦もろとも自爆同然に吹き飛んだとか。発進前の〈ヤマト〉を空母で狙ったことも後で聞いたが、そんなことができたのも、〈ヤマト〉を護る沖縄基地が失われて迎撃できず、波動エンジンの始動前で〈ヤマト〉が動けなかったからと聞く。
つまり、〈ドリルミサイル〉と言うのはおそらく、使うとしたら自殺覚悟のカミカゼ兵器ということなのだ。ガミラスがあんなものを持っていると知るならば地球はただちに対策を講じ、沖縄基地が殺られることも、〈ヤマト〉めがけて射たれることもなかったのではないかという話だった。
そうだ。今この星で〈ヤマト〉を狙う変なカクカクビーム砲と同様に実はヘッポコ兵器なのに違いない。敵はあの二度以外には、マンガみたいなあのミサイルを使ったことはないらしい。それも当然なのだろう。地下都市めがけて射てるならボカスカ射っているはずだ。それをしないということは、やりたくてもできなかったということだと思うしかない。
「それをなんでこんなところで……」
『さあ』と山本。『それより、どうしますか。〈ココダ〉ももう終わりですが』
「そうだな」
と言った。基地を探して飛べと言われた範囲はどうやらまわり終えてしまった。しかし何も見つからなかった。〈白夜の圏に在るはず〉と考えたのは間違いでどこか他所(よそ)に置かれているか、それとも〈ゼロ〉や〈タイガー〉の探査能力では見つけられぬほど巧妙なカモフラージュがされているか。
どちらにしてもこの作戦は失敗ということになる。
「けど」と言った。「作戦は、こういう場合も考えてないわけでもなかったはずだな」
『はい。ただちに〈プランB〉に移行する手はずになっていました』
「プランB」言ったものの、「どんなんだっけ」
『「基地がダメなら対艦ビーム発射砲台を見つけて叩け」』
「うん」と言った。
『確かに、今は基地以上に殺らねばならぬ施設と言えます』
「そうね」
『おそらく、たとえ見つけても〈ヤマト〉で攻撃は無理でしょう。我々が見つけて叩かなければ、〈ヤマト〉はあれに沈められます』
「かもね」
『ビーム砲台――〈魔女〉を潰すことができたら、基地の位置が芋ヅルで判明するかもしれません。その見込みは充分にあります』
「だよね」
『ですから、作戦に従うなら、〈魔女〉を討ちに向かうべきです』
「うん」とまた古代は言った。「けど、それってどうすりゃいいんだ」
『さあ』と山本。『わかりません』
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之