敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ドア
ドアがあった。まるで金庫の扉のような、金属製の重く頑丈そうなドア。敷井達が進む通路の突き当たりにそれが見える。
宇都宮が言った。「あれを開ければ変電所の施設内です」
「開ければ?」と足立。「って、鍵が掛かってるんじゃないのか」
「掛かってます。ぼくのパスで開くはずとは思いますけど」
「ふうん、けど……」
「ええ」
顔を見合わせる。そのふたりだけでなく、全員で顔を見せ合った。なるほど確かに宇都宮はこの道を通るパスを持っている。そのおかげでさっきの広間も抜けられた。とは言っても――。
「まだ、それって有効なのか?」流山が言った。これまでひそませていた声をより小さなささやきに変えて、「いや、有効だとしても……」
「うん。途端にドカーンとか、また銃でお出迎えとか」「それも今度は警告なんか抜きかもだよな。十人で銃を構えていたらどうする?」「おれ達をカメラで見てても不思議はない。つーより、見ろよ。あそこにカメラがあるじゃねえか」
皆が足を止め、ヒソヒソ声で言い合った。行く手に見えるドアの方に怖々と眼を向けながら。
これは当然のことだろう。敷井も思った。ドアを開けたら、と言うよりも、今そのドアが自分からバーンと開いて火炎放射がゴーッと噴き出してくるなんてことも充分有り得る話だ。もしもそんなことになったらどうする?
「そんなこと言ってもしょうがないだろう。行くしかないものは行くしかないんだ」
と足立が言う。敷井は「まあそうだけど」と頷いた。
「敵は周到なやつらじゃない。この道なんか爆弾で吹き飛ばしておいてもよさそうなのにそうしていない」
「うん」
と言って上を見た。この天井を崩してしまえば道は塞がれ、誰もここを通れなくなる。石崎とその僕(しもべ)にしたらそれでいいはずなのだから、別にやって来る者を待ち受ける必要はないのだ。どうせ数時間後には、彼らが勝手に無用とみなしたすべての人という人が息ができずに死ぬことになる。
つまり行く手に居る者達は、この裏道の存在も、宇都宮が逃げたのも知らない――その見込みが高いと言っていいことになる。いいことになるが、
「けれどなんにも仕掛けがないと考えるのも甘い気がするがなあ」
とまた流山が言った。足立が「そうだが」と言ってから、
「でもとにかく、開けたらドカンてこともないだろ。そんな仕掛けに意味はないと思うぞ」
「うん」
と流山。宇都宮も頷いて、
「それを信じるしかないわけですね」
言ってカードを取り出した。ドアの脇にある操作パネルのスリットに入れる。
敷井達はドア両脇の壁に張り付いた。銃剣付きのビ−ム・カービンを構え直す。
「開けますよ」
言って何やらボタンを押した。ドアが開く。宇都宮は開いた戸口の中を覗いた。
そして言った。「なんだこりゃ?」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之