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Green Hills 第5幕 「南風」

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 そっと肩に触れた凛に、士郎は首を振る。
「眩しかった。アーチャーから流れてくるセイバーは、すごく眩しくて、手の届かないような存在で……。欲しくて堪らないのに、アーチャーは触れてはダメだって、汚しちゃダメだって、自分で自分を縛って……」
「そうよね、セイバーはすごく眩しいもの、私たちにも。そうでしょ?」
 こく、と頷く赤銅色を凛は、よしよし、と撫でた。
「やっぱり見守っていましょ。あの不器用な二人を」
 私たちはマスターなんだから、と凛は力強い声で言った。



「あとはー……、カボチャが三個と、……っえ? カボチャ、三個っ?」
 メモを二度見してシロウは確認する。
「遠坂は……、何を作る気だろう?」
 首を捻る。
 今朝、買い出ししておいてね、とメモを渡された。今、そのメモを手にしたままシロウは考え込む。
 メモといってもノートの片面を埋め尽くす内容で、何に使うのか、一升瓶指定で醤油だとかの調味料と、根菜が山ほど記入されている。
「持って帰れるかな……」
 少々不安に思いつつ、メモの通りカボチャをカゴに入れた。一気に重みが増す。
「何を作る気なんだろー、すごい気になるー」
 不安ながらも根菜や、イモ類をカゴに入れ、どんどん重量を増していく買い物カゴに、ますますシロウは不安が増す。
「終わったかセイバー」
 不意にかけられた声に、びく、と肩が揺れた。振り返ると、その反応に不機嫌そうにこちらを見るアーチャーがいる。
「あ、あの、えっと……一応……」
 メモとカゴを見比べ、アーチャーが確認している。
「こんなに買い込んで、何を作る気だ、凛は……」
「アーチャーも知らないのか?」
 こく、と頷くアーチャーに、
「大丈夫なのかな、こんなに買って……」
 何かに使うのだろう、とアーチャーはそっけなく言い、レジに向かう。
「そっちもすごいな……」
 シロウはほぼ野菜、アーチャーは調味料と液体の物。よくもまあ重量級ばかりを集めた、というような買い出しだった。
「家までもつのか、この袋……」
 両手に四つの買い物袋を持って歩き出す。
「貸せ」
 少し前を歩いていたアーチャーが突然振り返り、シロウの両手から買い物袋を一つずつ引き取ってしまった。
「え? あ、ちょっ、待てよ、も、持てるって!」
 アーチャーも両手に荷物を持っているのだ、さらにシロウの荷物まで引き取って、とんでもない重量になっているはずだ。
「アーチャー、待ってって」
 小走りで追いつくが、
「途中でぶっ倒れられても困る」
「こ、こんなんで、倒れないって」
 自慢ではないが、シロウは魔力量の少なさではおそらく一級品のサーヴァントだ。アーチャーの言うことにも一理ある。この荷物の上に倒れたシロウを運ぶのは、異様でもあることだし、できれば避けたい事態だ。
「お前は家に辿り着くことだけを考えておけばいい」
 こちらを見て言うアーチャーの、やや下がった目尻にシロウは鼓動を跳ね上げた。
「よ、余計な、お世話だ……」
 悪態は勢いがなく、呟きのようだった。
「素直に感謝でもすれば、可愛いのだがな」
「かわっ……、そ、そんなわけが、あるか」
 シロウの不貞腐れた声に、アーチャーは、ふ、と笑っただけだった。


 並んで歩くサーヴァントが二体、それを遠くから窺うマスターが二人。
「なに……あれ……」
「見ているのも恥ずかしいんだが……」
 凛が二人に依頼した買い出しは、実は学校の調理実習で使うものなのだ。
 二人の様子を見守るだけにしよう、ということになったものの、昼間は学校で二人の様子は見ることができない。
 ならば、と凛が家庭科の教師に調理実習の材料の購入を任せてくれと、わざわざ引き受けたのだ。それを二人に依頼し、こっそりそれを見届けることにした。
 バレるかと思ったが、さいわいなことに、シロウは魔力が少ないため、少し離れれば気づかない。ネックだったアーチャーもなぜかこちらの気配には気づかなかった。
「ラッキーだったわね。アーチャーにもバレなかったわ」
 凛は意外だ、と拍子抜けしている。見つかった場合の百の言い訳を考えていた自分の時間を返してほしいと言いたくなってしまう。
「なあ、やっぱり……、アーチャーも、なんだなぁ……」
「はい? 何が?」
 士郎の言葉の意味がわからず、凛は首を傾げる。
「いや、だから……。セイバーはさ、ずっとアーチャーを目指してたからわかるんだけど、アーチャーはセイバーに、その……」
 士郎は複雑な表情を浮かべる。
 今さらながら士郎は気づいたらしい。よりにもよって、自分の未来の可能性たちがお互いを意識し合っているなど、どこの喜劇だろうと遠くを見つめてしまいたくなってきたようだ。
「まさか士郎も、ってこと、ないわよね……?」
 凛の疑いの眼差しに、
「た、確かにセイバーは大事だけど、家族みたいなものだ!」
 と士郎は噛みつく。
「そうよねぇー」
 凛は同意しながら、問題は解決したわね、と士郎に笑いかけた。
「セイバーの情緒不安定は、やっぱり恋煩い、ってことね」
「あのー、恋煩いって言葉はちょっと……」
 否定したい士郎だったが、他に的確な言葉が見当たらず、肯定するしかなかった。


「アーチャー、ありがとう」
「何がだ?」
「荷物を、持ってくれて」
「言っただろう。倒れられても困ると」
「あ、う、うん」
「予防措置だと思え」
 買い物袋をとりあえず居間へ入れて、凛の帰りを待つことになった。冷蔵するものもないので、放置で問題ない、とはアーチャーの意見。
「は……」
 少々疲れたシロウは、座卓に身体を預けた。
「眠るのなら横になれ」
 首根っこを引っ張られて、いきなり倒される。畳でも倒れれば痛い、と身構えたシロウだが、座布団が敷かれていて、杞憂に終わった。
 アーチャーの顔が真上にある。いつかも畳に押し付けられた。不思議と今はあの時のような恐怖は感じない。だが、やけに顔が熱くなる、とシロウはうろたえる。
「ね、眠るほどじゃ、ないから……」
 アーチャーの顔をじっと見ていると、少しだが表情があるように見えた。
「そうか」
 短く言って頭を撫で、居間を出ていったアーチャーをただ見送り、もう少しここにいてほしかった、と思っている自分にシロウは驚きを隠せない。
 そして、前のアーチャーの表情が、照れているように見えたのは、気のせいだろうかと、やや速い鼓動に戸惑いながら、座布団に顔を埋めた。



***

「セイバー、これ詰めておいてくれるか?」
「りょーかーい」
 衛宮邸の主従は朝から台所で大忙しだ。
 そして、シロウは朝からテンションが高い。いや、正確には前夜から浮かれている。
 時刻は午後二時過ぎ、今日は午後から花見の予定なのだ。
「そろそろ藤ねえが帰ってくるから、出発は三時前だな。桜に連絡してくる」
 士郎は後を頼む、と電話をかけに台所を出た。
 シロウはせっせと重箱に料理を詰め込んでいく。居候の凛はアーチャーとともに間桐家でやはり花見の準備中だ。あちらも料理自慢が揃っているため、おそらくレベルの高いお弁当が出来上がるのだろう。
「セイバー、三時に出るってことになった。まだ余裕があるな」