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Green Hills 第5幕 「南風」

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 電話をかけ終え、士郎は居間の時計を見ながら言う。
「うん、そうだな。あ、士郎、紙皿は、どうす……る……」
 ぐらり、とシロウの視界が傾いだ。シンクの縁を掴んで倒れ込みはしなかったが、尻餅をつく。
「は……なに……?」
 シロウは呆然と呟く。
「ああ、紙皿は、遠坂が、セイバー!」
 座り込んだシロウに、目を剥いて士郎が駆け寄る。
「どうした? どこか……」
「だい……じょうぶ、立ち、眩み……」
 立てなくなったシロウの状態で魔力不足を察知した士郎は、小さくため息をつく。
「そうだった。朝から、ちょっと動きすぎたからな……」
 士郎はそのままシロウを抱き上げた。
「し、士郎、ちょっと!」
 身長も年齢も勝っている自分を軽々と横抱きにした士郎に、シロウは泡をくっている。
「セイバーは寝てろ。あとは俺がやるから」
 士郎に横抱きのまま居間へ連れてこられ、座布団の上にそっと下ろされる。
「あの……」
「ごめんな、俺、気が回らなくて」
「大丈……夫、眠れば……すぐに、戻るよ……」
「弁当を渡したら戻ってくるから、それまで、待っててくれよな」
 そっと髪を撫でた士郎に頷き、シロウはそのまま寝入ってしまう。いつもシロウが居間で眠る時に使っている毛布を掛け、士郎は台所に入って詰めかけの弁当を完成させる。
 風呂敷で包んだところで藤村大河が居間に顔を出した。
「あれ、セイバーさん、寝ちゃったのー?」
「うん、だから静かにな、藤ねえ」
「えー! 残念ー! 一緒にお花見したかったのにー」
「目が覚めたら連れて行くから、ほら、そろそろ時間だ、行こう藤ねえ」
 まだぐずりそうな大河の背中を押して、士郎は居間を出る。
 藤村組からの差し入れであるジュースやお茶のケースを肩に担ぎ、士郎は玄関の鍵をかけた。
「ねー、士郎、セイバーさん、いいの? 一人にして」
「ああ。これ届けたら、俺はすぐに戻るよ」
「そ。じゃあ、大丈夫ね」
 大河とともに衛宮邸を出て、凛、桜、アーチャーと合流する。
「あら? セイバーは?」
「ああ、眠っちゃって」
 魔力が少なくなった、とは大声で言えないので、士郎は凛にそう答えた。それだけで凛も察している。
「朝からこき使ったの?」
「つ、使ってない! どっちかっていうと、浮かれるセイバーを宥めてた方だ」
「そう……、セイバーったら……、浮かれてたのね……」
 おかげで魔力を使いすぎるなんてバカね、と凛の目が言っている。
「楽しみにしてたからなぁ。ほんっと、小学生みたいに」
 士郎も苦笑してしまう。
「そうね、昨夜も眠れないとか言っちゃって、可愛いったらないわ! ね、アーチャー?」
 すこぶる不機嫌なアーチャーに凛はにんまりと笑う。そして、
「その荷物、放置したら許さないわよ」
 アーチャーは両手に荷物を持たされている。弁当や紙皿や紙コップやその他諸々、全てを凛はアーチャーに、お願いね、と丸投げしたのだ。
「覚えていろ、凛」
 アーチャーの恨み節もなんのその、凛は軽い足取りで坂道を下りる。
「荷物を置いたらあとは自由でいいわよー。だから、それだけは運んでね、お願い」
 可愛くおねだりをする凛に、アーチャーは肩を竦め、仕方がない、と諦めた。

「小僧、鍵を貸せ」
「は?」
 満開の桜の下に敷かれたシートに荷物を置いたアーチャーは、士郎に鍵を寄越せと手を出す。
「セイバーを連れて来る時に戸締りをしなければならないだろうが」
「いいよ。俺が行く。すぐ戻るからって、セイバーには言ったから」
「私が行く。お前は虎の面倒でも見ていろ」
「はあ? ふざけんな、俺が行くって言ってんだろ」
 互いにムッとして睨み合う。
「あの、先輩?」
「アーチャーさん?」
 桜と大河が不思議そうに二人を見ている。
「はぁ……、セイバーのこととなると、二人とも譲らないんだから……」
 凛はため息交じりに士郎の耳を掴んで引っ張る。
「あんたには即効の魔力回復なんてできないでしょ」
 こそ、と凛は士郎に告げた。
「う……」
「ここはアーチャーに任せておきなさい。魔力不足はあんたが未熟なせい、わかってるでしょ? あんたに今すぐどうこうできる術はないのよ」
「わ、わかってるよ。それでもセイバーのマスターは俺だ」
 士郎は、ぼそり、と呟く。
「ええ。あんたがいるからセイバーは現界しているの。そんなの当たり前でしょ」
 頷く士郎は納得したのか、鍵をアーチャーに渡す。
「素直に差し出せばいいものを」
 呆れ口調のアーチャーに、士郎が、ぷち、とキレた。
「てんめぇ! 鍵、返せ!」
 渡した鍵を取り返しに来た士郎から、トントンと跳び退り、アーチャーはそのまま踵を返す。
「悔しかったら、もう少しまともになれ。未熟者」
 アーチャーの捨て台詞に士郎がさらに頭に血をのぼらせる。
「ほんっとに、もう……」
 すぐに頭にくる士郎にもため息ものだが、アーチャーの厭味もたまったもんじゃないわね、と凛は額を押さえる。
「士郎、あんたも悪いのよ。朝からセイバーを休ませないから」
「あ、ああ、うん。だって……」
 楽しそうにしているから、と士郎は言い訳のように呟く。
「そうねー、うれしくなっちゃうものね、セイバーが笑っていると」
「ああ」
 頷く士郎は顔を上げ、深呼吸した。
「はっ! もー、セイバーのことはアーチャーに任せた!」
 口に出して、士郎は気持ちを切り替えた。


「まったく……」
 人の気配のないところまで来て、アーチャーは霊体化する。一気に衛宮邸まで駆けていく。家々の屋根を跳び伝い、五分とかからず衛宮邸に着いた。
 屋敷に入ると、気配は居間にある。
 居間の障子を開けると、いつものように毛布に包まったシロウの姿。つい表情筋が緩んでしまい、アーチャーは手で口元を押さえた。誰が見ているわけでもないが、どうにも微笑んでしまいそうな自分にまだ納得がいかない。
「セイバー……」
 傍らに膝をつく。赤銅色の髪をそっと撫でる。柔らかい感触、指先に絡まる毛髪が、するり、と解けていく感覚。
 ずっと、こうしていたい、と思わせる。
 白磁のような頬に触れても反応がない。昨夜はほとんど睡眠をとっていなかったようだ。ならば、魔力を提供してやればよかったな、と今さらながら思う。
 そうすれば、一晩中でも抱きしめていられたのに……。
(いや、何を考えているのか……)
 前の考えを払拭するために軽く頭を振る。無邪気な寝顔に、邪な心が洗われる気がした。
「子供か、お前は……」
 呆れ半分、可愛さ半分で、アーチャーは、やはり笑みを浮かべてしまった。
 シロウを抱き起こし、魔力を吹き込むために顎を取る。
「…………」
 親指で唇をなぞる。何度か触れた唇。魔力を注ぐために重ねた唇は、甘く柔らかく熱かった。
「このまま……」
 起きないのなら経口摂取ではなく、直に注いでやろうか、とロクでもない考えが脳裏をよぎる。
(いや……)
 意識のない者に、それは犯罪だろう、と理性が歯止めをかける。
(やるのであれば、合意がなければ……)
 無理やりはもっての外だ、と気を取り直し、シロウの口を開いて魔力を含む息を吹き込んだ。
「……っん」
 薄く瞼が開く。
「アー……チャー……」