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Green Hills 第5幕 「南風」

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「浮かれるのはわかるが、自身の魔力を考えろ」
「……ごめん……なさい……」
 謝らなくていい、と、アーチャーはシロウの額に口づける。
「立てるか?」
「……もぅ……すこ……し……」
 白い頬が朱に染まっているのは、どうしてだろうか、とアーチャーはシロウに再び口づけながら思っていた。


「満開ねー」
 すでに陽は暮れ、夜桜を見上げた凛はうっとりと呟いた。風が吹くたびに花びらが舞う。
 士郎が酔いはじめた大河の相手をしている。
 アーチャーはシロウの背もたれとなっている。
 そして、桜はシロウの給仕をしている。
 アーチャーから魔力をもらって合流したものの、シロウはあまり状態がよくないので、アーチャーの背中にもたれたままだ。
 したがって桜が弁当をせっせと皿に取り、シロウに渡している。桜はセイバー仕様の弁当を作っていた。いちいちおいしいか、と確認しながら、本当に楽しそうに給仕をしている。
「おいしいですか? 甘い玉子焼きがお好きだって先輩に聞いたから、いつもよりも甘めにしてみたんですが……」
 甘い玉子焼きじゃなく、甘い物が好きなのよ、と凛は半眼で笑う。
 どこをどうしたのかしら、と凛が首を捻るくらい、シロウは甘党だ。士郎もアーチャーも甘党ではないのだが、シロウだけは特別甘い物に目がない。
「おいしい。この味、大好き」
 満面の笑顔で頬張るシロウに、桜は顔を赤らめている。
「セイバーは甘い物に目がなくってさ。なんだって、俺とこんなに味覚が違うんだろう?」
「従兄だからって、味覚が同じとは限らないじゃなーい、バカねー、士郎はー」
 あははははー、と大河は完全に出来上がった状態だ。
「藤ねえ、もう呑むなよ……」
 花見と言えば、酒盛りでしょー、と士郎の苦言は聞いていない様子だ。
 シロウが現界して衛宮邸に住むにあたり、何かしらの設定が必要だ、と赤い主従と話し合い、ハーフの上、士郎の実の従兄という設定で落ち着いた。
 日本語の得意な外国育ち、士郎とそっくりなのは従兄の所以、と、桜も大河もはじめは訝しんだものの、アーチャーの舌先三寸で丸め込まれ、そう言われればそうかも、と決着した。今はアーチャーとともにホームステイということになっている。
 四月に入り、春休みもあと僅か。そろそろ始業式がはじまる。
 学校がはじまってしまえば、こんなゆったりした日々は送れないだろう、と凛は舞い落ちる花びらを見ながら、次の桜をまたこうして見られるのかしら、と、ふとそんなことを思っていた。



「アーチャー」
 深夜、屋根に上がったシロウは、瓦屋根を見渡す。目当ての姿がなくて、当てが外れた、と屋根を下りようとすると、
「なんだ」
「わ!」
 突然の声に驚いたシロウはたたらを踏んで足を滑らせる。
「う、うわわ!」
 屋根の上ですっ転びそうになったのをアーチャーに引き寄せられ、事なきを得た。
「まったく……、貴様、それでもサーヴァントか……」
 呆れ顔で言われ、面目ない、とシロウは反省顔で俯く。
「気をつけろ。いくつ心臓があっても足りない」
 アーチャーの呟きに、シロウは首を傾ける。
「心臓?」
「……ああ、なんでもない」
 シロウの頭を撫でてから、アーチャーは背を向けた。
 その仕草が、とても優しく感じられて、シロウはやたらとうれしくなった。
 このところ、アーチャーは優しい。睨まれることもなくなり、厭味も言われない。当番でもないのに昼食をいつも作ってくれているし、シロウが食事をする間はお茶を飲んで座卓について新聞なんぞを読んでいる。
 どうしてだ、と訊くと、茶を飲みたいだけだ、とアーチャーは答える。
 シロウにはアーチャーの真意など読めるはずもなく、そうなのか、と少し残念に思っている節がある。
 それでも目に見えるところにいて、アーチャーを感じられるということは、シロウにとってうれしいことだ。
 アーチャーとともに過ごすことが、シロウには大切な時間だと思えた。
「あ、そうだ、えっと……」
 喜んでいる場合じゃない、とシロウは気を取り直し、口を開く。
 しばらく言いそびれていたが、シロウは黙っていてはダメだと思い、アーチャーに告げることにした。サーヴァントになった理由を、会ってまで伝えたいと思ったわけを。
 こうして屋根の上にまで探しに来て、アーチャーにきちんと伝えたかった。
 また怒られたりするかもしれない、罵倒されるかもしれないと迷いもしたし、どんな反応をされるかはわからない。だが、たとえ罵られたとしても、シロウは伝えたいと思った。
「アーチャー、その……、やっと、わかったんだ……」
「何がだ?」
 訝しげに顔だけを向けたアーチャーに、緊張からかシロウの唇は微かに震える。
「こ、答え、だよ」
「もういいと言っただろう?」
「わ、わかったんだから、きちんと、言う」
 呆れ顔でアーチャーはシロウに身体ごと向き直った。
 それを認めて、アーチャーを真っ直ぐに見つめ、シロウは一つ深呼吸する。
「触れたかったんだ……、あんたに」
 はっきりと言うと、アーチャーは目を瞠って硬直している。
「えっと……あの……」
 何も反応がないことに、シロウは戸惑う。固まっていたアーチャーがようやく動き出し、シロウの頬に両手を伸ばした。逃げることもなくシロウは簡単に捕らわれる。
 そっとシロウの頬を包んで、そうか、とアーチャーは安堵の息を漏らした。
「うん……、この前、あんたに触れて、気づいた」
 こく、と頷くアーチャーの鈍色の瞳が、シロウを映す。
「あの、ア――」
 呼ぼうとした唇は塞がれて、声が出なかった。数瞬おいて、口づけられているとシロウはぼんやりと思っていた。
(何か……違う……)
 魔力をもらう時のものとは違うキス。
 そのキスは優しく、温かく、拒むことも突き飛ばすことも、シロウは思いつきもしなかった。



***

「最近はどーお?」
 屋上でのセイバー心象世界占いは、日課となっている。
「うん、ころころ天気が変わってる」
「まだ不安定ってことなのねー」
「あいつ、まだ言ってないんだな」
 士郎が憮然とパンをかじる。
「二の足を踏みたくなる気持ち、わからなくもないんだけどね……」
「どういう意味だよ、遠坂?」
「え? うん、まあ、アーチャーはほら、なんていうか、自分のやってきたことを、自分で許せていないでしょ」
「ああ、そうだな」
「だから、セイバーの真っ直ぐなところとか、清廉潔白って感じが、眩しすぎるんじゃないかな、と思うの」
「眩し……すぎる……?」
「例えば太陽の光は、身体を温めてくれるでしょ? だけど、その太陽の光を集めてしまうと、発火する。昔、虫眼鏡でやらなかった?」
 士郎は、ああ、と頷く。黒い紙に虫眼鏡を通した光を集めて焦がす実験を小学生の頃にやった覚えがある。
 あまり好きな実験ではなかった。くすぶる紙がどうしてもあの赤い光景に結びついてしまって、士郎は授業以外でやることはなかった。
「その強い光が、セイバーだって、遠坂は言いたいのか?」
「アーチャーにはね」
「そんなの、あいつらしくない」
「そーお?」