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Green Hills 第6幕 「若葉雨」

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「セイバー!」
 士郎の声が聞こえ、アーチャーは顔を向ける。
 驚いたような顔で瞬いて、士郎に目を向けたシロウが見える。ほ、と全身の力が抜け落ちるような感覚にアーチャーは陥った。
「ほんっとに、世話が焼けるんだからー」
 凛が苦笑している。
「あ……の、俺……」
 シロウが何か言おうとするのを待たずして、がばっ、と士郎が抱き起した。
「バカ! バカバカバカバカ、この、バカセイバー!」
「あ……、うん……ごめん……」
 主に抱きしめられて荒く頭を撫でられながら、目を伏せたシロウは、ぽつり、と謝った。
「もう! 手間かけさせないでよね!」
 ご立腹の凛に、シロウは、すみません、と反省の色を見せた。
「はいはい、もう、いいから。それじゃ、私たちは――」
 凛が言いかけたところでアーチャーが立ち上がる。
「アーチャー?」
「夕食の用意をしてくる」
「え? ちょっ――」
「今日は私の当番だろう」
「そ、そうだけど、今日くら……」
 凛の言葉を聞き終わる前に、アーチャーは部屋を出ていった。
「あ、の……、バカ!」
 拳を震わせて凛が憤るのも無理はない。目覚めたシロウと二人にしてやろうと、凛は士郎を連れて部屋を出るつもりだったのだ。
「そして、この、バカ!」
「っで!」
 握った拳を、ごつ、と士郎の頭に落として、睨みつける。
「なんだよ遠坂!」
「この、朴念仁!」
「はあ?」
「あんたが抱きついてどうするのよ!」
 目くじらを立てる凛に、布団に乗り上がっていた士郎はやっと気づいたのか、シロウを解放した。
「ごめん、セイバー。つい……」
「謝るのは俺の方だよ。ごめん、なんか、心配かけたみたいだ」
 なんとなく自分が陥っていた状態をシロウは察した様子で、素直に謝る。
「そうよ! まさか眠り姫になっちゃうなんて、びっくりしたわよ、まったく!」
「はは、眠り姫って……。遠坂、ごめん。それから、ありがとう」
「セイバー……」
 凛はその表情に、ため息をついた。
 シロウは笑っている。笑っているが、どこか泣いているように見える。
「ねえ、セイバー、何を悩んでいるの?」
「悩んでなんか、いないよ」
 シロウは笑みを崩さずに言う。
「じゃあ、何を考えているの?」
「なんにも」
「……っ……この……」
 凛は拳を握りしめる。どうやったって笑みを浮かべたまま白状しないシロウに、苛立ちは頂点だ。
「だったら、どうしたいのよ!」
 ぼふ、と布団を叩いた凛の怒声に、シロウは瞬く。
「どう、って……?」
「どうにかしたいんでしょ! あんたは、どうしたいの!」
「どうにもならないよ……。何も変わらない」
 士郎は二人のやり取りを、首を捻りながら見ていた。
 どうする、どうしたい、どうにも……。
 どう、どう、どう、士郎にはさっぱり話が見えてこない。
「あの、二人とも、なんの話?」
 おずおずと口を挟むと、凛に睨まれる。
「セイバーが、どうしたいかって話よ」
「や、だから、どうしたいって、何を?」
「アーチャーとよ!」
「アーチャーと?」
 士郎はますます首を捻った。
「アーチャーとは、もうどうにかなってるんだろ? 今さら何言ってんだよ?」
 凛もシロウも唖然と士郎を見る。
「し、ししし士郎、どうにかって、なに?」
「士郎、あんた、何を知っているの?」
 二人に質問されて、士郎は思わず後退る。
「何って、好き合ってる」
 一瞬の間。
「バ、バカ、な、なに、言ってるん、だよ!」
 シロウが慌てて否定するように両手を胸の前で振る。
「あら、違うの?」
 凛がシロウを窺う。
「ち、違うに決まってるだろ!」
 否定するシロウに、二人が迫る。
「セイバー、違うのか? ほんとに?」
「ねえ、もうヤっちゃったんじゃないの?」
 シロウの顔が、火がついたように真っ赤になった。士郎が、遠坂、下品だな、と呆れている。
「あらあら、アーチャーってば、案外手が早かったのねー。衛宮くんは奥手っぽいのに」
 凛はシロウの赤面をそっちに取ったようだ。昼間は二人っきりだものね、などとニヤついている。
「ちょ、ちょっと、遠坂、なに言ってんだ! なんで、俺が奥手なんてわかるんだ!」
 凛の見立てに、聞き捨てならない、と士郎が反論する。
「そんなの、傾向と観察で導き出せる答えでしょ」
「そ、そんなこと観察するな!」
「そんなだと、チャンスを棒に振ることになるわよ、士郎もアーチャーを見習うことねー」
「べ、別に、あんな奴、見習わなくっても、俺は俺だ!」
「も、もう! 勝手に話、進めるな!」
 がば、と布団を被ってシロウは隠れてしまった。
「ちょっと、セイバー、教えてくれないと、協力もできないでしょー」
「い、いらない! なんでもないんだから、俺たちは!」
 布団の中から聞こえるくぐもった声に、凛が肩を竦める。
「照れなくてもいいわよー、なんでもないわけないじゃなーい」
「ないったら、ない!」
 これは本当にそうかもしれない、と凛は士郎と顔を見合わせて、今はそっとしておこうということになった。
「セイバー、あなたがなんでもないと思っていても、あっちはどうしようもないはずよ」
 意味深な言葉を残して、凛は士郎とともに部屋を出ていった。
「なんだよ、どうしようもないって……」
 布団から顔を出し、まだ熱い顔をパタパタと手で扇ぐ。
「なんでもないんだ……、だって、どうにもならないんだから……」
 身体を起こして布団をたたむ。ずっと眠っていたから魔力が溜まっているのか、立ち眩みがない。
「あれ? でも、ご飯も食べていないし……」
 士郎からの魔力は現界だけでほぼ消費される。日常の活動をするためには食事で魔力を補っていた。眠っていて活動していないからといって食事で補えていない魔力が溜まるはずがない。
「魔力……」
 指先で口に触れる。
「注いでくれていたんだ……」
 鼓動が速くなっていく。眠ったままの自分にアーチャーは頻繁に魔力を吹き込んでくれていたのだと、嫌でもわかる。
「もういいって、言ったのに……」
 目の奥が熱くなった。
 アーチャーの優しさがうれしいのに、胸が痛かった。



***

「セイバー、眩暈は?」
「うん、ちょっと」
「立ってるの、辛いか?」
「うん、まあ……」
 じゃあ、と言って士郎は手招きする。
「毎日でもいいんだぞ?」
「士郎が眠れないだろう、それじゃ」
「大丈夫だって、セイバーは寝相がいいから」
 布団に横になると、士郎が抱き寄せてくる。規則正しい心音が眠気を誘う。
「ごめんな、セイバー。魔力、ちゃんと送れなくて」
「……へー……き……」
 半分眠りながら答えるシロウに、おやすみ、と士郎は髪を撫でる。
「子供みたいだな、セイバーって……」
 そんなことを呟きながら、士郎も目を閉じた。
 嫌でも聞こえてくる声と気配、容易に想像がつくその光景。
「……っく……」
 歯を喰いしばりすぎて、息が漏れた。
 二、三日おきに、魔力を供給しやすくするため、主従は同衾している。
 アーチャーは、それを感じずにはいられない自分を嫌悪し、深く苦いため息をこぼす。重傷だ、と拳を額に当てて何度も叩く。
「必要なことだ。あの主従では、ああするより他……」