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Green Hills 第7幕 「薫風」

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 最期に見た夢が、あんたの背中だったから……、追いかけたくて……、追いつきたくて……、触れて、みたくて……っ……、どうしようもないのに……、俺には、……どうやったって、無理なのに……、好きに、っ――」
 突然、自分の口を手で塞いだシロウを、アーチャーは窺う。
「セイバー?」
「っ……、ぅ……」
「どうした?」
 俯いてしまったシロウの顔を覗き込むように首を傾けると、後退っていく。だが、アーチャーが片手を握っているので、それほど離れることはできなかった。
「セイバー?」
「う……、わ、忘れてくれ……」
「何をだ?」
「今、口走ったこと、全部」
「…………」
 沈黙が下りる。
「ど、どうか、してた……」
 沈黙を保っていたアーチャーが、ふ、と笑う。
「アー、チャー?」
 恐る恐る顔を上げてシロウはアーチャーを窺い見る。
「お、お前は……くくっ……」
 片腕を口元に当てながら、アーチャーは笑っている。
「えっと……」
 戸惑いながら、そんなアーチャーを見て、恥ずかしくていたたまれないのに、シロウはうれしくなってしまう。アーチャーがこんなふうに普通に笑っている姿など、見たことがないのだ。一生に一回あるかないかの奇跡だ、とシロウは前のことなどすっかり忘れてしまった。
 ひとしきり笑ったアーチャーがシロウを見つめる。
「忘れることなど、できないな」
 真っ直ぐに見つめる鈍色の瞳は、半端に乱れた白銀の髪の向こうでシロウを映している。
「え……? なんっ、で、」
 いきなり言われ、シロウがうろたえているうちに、
「ちょっ、うわ!」
 アーチャーに引き寄せられ、抱きしめられる。
「あ、あの、あのっ、アー、チャー?」
「こんな熱烈な告白をされたのは、初めてだ」
「ち、ちが! こ、告白なんて!」
 ぎゅう、と腕にこめられた力に、シロウは何も言えず、本気かどうかはわからない抵抗をしながら、またこうやって温もりを感じることができたと、どこかで安心していた。
「セイバー……」
 熱い吐息交じりの声。逃れようとしていた手から力が抜ける。その手を恐る恐るアーチャーの背中に回す。ぴく、と背中の筋肉が痙攣を起こしたのに気づいた。
「アーチャー、俺は、アーチャーに、助けられてばっかりだ……」
 シロウが何のことを言っているのかは定かではなかったが、
「何度でも助けてやる」
 アーチャーはそんなふうに答えた。



 瞼を薄く開けて、視界が暗いことにシロウは疑問を浮かべた。
(なんだろう……暗いな……)
 もしや雨が降っているのでは、と干した洗濯物が濡れているかもしれない、と身体を起こそうとするが、起きられない。
「あれ?」
 数度瞬く。視界が暗いのは、目の前の暗い色のシャツのせいだと気づいた。
「え、と……、アーチャー?」
 首をのけ反らせると、すぐにその顔が見えた。
「寝ている、のかな?」
 瞼が閉じている。
(隙だらけだなー……)
 アーチャーの昼寝姿など初めてだ、とシロウは鼓動が速くなってくるのを抑えようとするが、アーチャーにがっしりと抱きしめられていることに気づき、余計に加速していく。
「あわ……、な、何をしてるんだ、アーチャーは」
 自分の昼寝に付き合うなど、何を考えているのかと、シロウはどうにかその腕から抜け出ようとする。
「セイバー?」
「あ……」
 起こさないように、と思っていたのだが、さすがに起こしてしまい、シロウは、ごめん、と謝る。
「何がだ?」
「起こしてしまったから」
「……かまわない」
 言って額に口づけてくる。
「わ、ちょっ、ちょっと、何して!」
「嫌か?」
「う、え? え、う……、……じゃない、けど……」
 しどろもどろで答えるシロウをアーチャーはまた抱きしめる。
「あの、アーチャー、ちょ、っと、もう、起きるから……」
「もう少し」
「はい? え? も、もう少しって、え? 眠いのか?」
 シロウの見当はずれな疑問には答えず、アーチャーは、くつくつ、と笑っている。
「アーチャーも昼寝なんてするんだなぁ」
「気持ちよさそうにスヤスヤと眠っているサーヴァントにつられただけだ」
「む……」
 反論できないシロウは押し黙った。
 こんな午後が、最近では多い。
 アーチャーが一緒に寝ているというのは稀だが、居間で眠るシロウの傍に、いつもアーチャーはいる。いつまでも髪を撫でていることもあれば、肘枕で横になって寄り添っていることもある。
 どちらにしても、シロウに向ける眼差しはいつも優しいもので、触れる手もこれ以上ないくらいに優しい。
 あの日以来――縁側でシロウが勢い任せに告白してしまってから、アーチャーのしかけるスキンシップが増えた。そしてキスも増えた。
 キスは顔、手、首筋、耳、髪や肩、いろいろだ。そうして唇には濃厚なものも。
 何度もキスをした。
 シロウには理由がわからない。だから、キスの度にシロウの胸の奥が軋む。
 アーチャーは何も言わない。
 シロウのあんな告白を聞いても、咎めるでもなく怒るでもなかった。
 なぜだろう、とシロウは考えるのだが、鈍いがゆえに、これといった答えに思い当たらない。
 けれど、普通に過ごしている。アーチャーがシロウを避けることもなくなった。シロウもアーチャーには普通に接することができている。
 触れられることも、抱きしめられることも、キスをされることも、シロウは嫌ではない。
 嫌なのではないが、後ろめたい、とでもいうのだろうか。どうにもシロウは素直に受け入れられずにいるのだ。

「セイバー、魔力が不足しているだろう?」
「し、してないよ」
 スタスタとアーチャーから逃れるように廊下を主の部屋へと向かうシロウの腕を引き、アーチャーは壁に押し付けてきて、その顔の横に肘をつく。
「か、壁ドンは、女の子に、してやった方が、いいと思う」
 間近のアーチャーの瞳から逃れるように、あらぬ方を向いてシロウは窘める。
「今夜は主と一緒か?」
「う……ん、そう」
 週に二、三回は士郎の布団で寝ていることをアーチャーは知っている。魔力を流れやすくするため、そのくらいの頻度で士郎と距離を近づけて眠ることがある。
 それをアーチャーは快く思っていないようだ、とは鈍いシロウにもわかる。いつもこうして士郎の部屋に行くのを邪魔してくるのだから、そういう結論に至るのは当たり前だ。
 だが、シロウにはその理由がわからない。主から魔力をもらうためなのだから、積極的に勧めてくるのが普通だろうに、と阻止しようとするアーチャーに疑問を浮かべる。
 わざわざアーチャーが提供しなくていいのだから、それにこしたことはないはずだ。アーチャーの魔力とて無限ではないのだから、無駄に自分に注がなくても、とシロウはいつも思うが口には出せないままだ。
「だ、だから、魔力は、い、いらない、から」
「どうしたセイバー、声が震えているが?」
 深夜を過ぎて、二人のマスターはとうに寝静まっている。
 起きているのは、眠る必要のないサーヴァントだけ。だが、シロウには眠る必要がある。魔力供給量が少ないために、身体を休めて魔力を温存しなければならない。そして今夜は供給を兼ねて士郎の布団で眠る日。
 その時間を邪魔する者が目の前にいる。