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Green Hills 第8幕 「夏灯」

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 軍手をはめながら、このバカップルめ、と思わずにはいられなかった。


 士郎とアーチャーが一番被害の酷いリビングの片付けに勤しみ、ようやく目途が立ってきていた。リビングは主に力仕事となったので、セイバーを書斎に行かせてよかった、と凛は自身の采配に胸を撫で下ろす。
「そろそろ休憩かしらね」
 時計を確認すると午後三時半。凛はキッチンへ入り、湯を沸かしてお茶の準備をはじめる。
「士郎、アーチャー、そろそろ休憩しましょ。あ、セイバー呼んでこないと」
 凛が言い終わる前にアーチャーがリビングを出た。
「お願いねー」
 凛の声に片手を上げて応えたアーチャーに凛は、ふふ、と笑う。
「ねえ、士郎、すぐに戻ってくると思う?」
「ん? そりゃ、すぐに戻るだろ、セイバーは甘い物には目がないし」
「んふふー。ちょっと、見に行ってみない?」
「見に行く?」
「こっそりね」
 凛に連れられ、士郎も書斎へ向かった。


 扉を開け放ったままの書斎に入ると、すでに部屋の中はきちんと整頓されていた。
「セイバー、休憩だそうだ……」
 返事がないことに部屋を見渡したアーチャーは、ああ、と納得する。
 書斎の椅子に腰を下ろし、窓辺につっぷすような格好でシロウは眠っていた。開け放った窓から夏の風が緩く吹き込んでいる。
 その傍らまで近づき、風に揺れる赤銅色の髪に触れる。少し汗をかいているのか、湿った髪が額に張り付いていた。
「セイバー、そろそろ起きろ。凛がお茶を淹れてくれている」
 静かに起こすアーチャーの声に、シロウの睫毛が震える。
「ん……」
 僅かに覗く琥珀色に、ふ、とアーチャーの口元が緩んだ。
「起きろ、お前の好きなケーキを用意してくれている」
「アー、チャー……?」
 ぼんやりと目を開けたシロウは真っ直ぐに手を伸ばす。
 驚きながらもアーチャーは、腰を屈め、シロウの手に捕らわれた。
「どうした?」
 首に腕を回すシロウに訊く。
「まだ……ねむ……ぃ……」
 アーチャーに抱きついて、シロウはまた瞼を閉じる。
「セイバー、凛が――」
 すぅ、と寝息が聞こえ、アーチャーは諦めてため息をつく。戸口を振り返ると、二人のマスターが苦笑している。
「二人の分は置いておくから、先にいただくわよー」
 凛が士郎を伴って書斎を離れ、アーチャーはそっとシロウを抱き上げた。アーチャーに身体を預けきったシロウは穏やかな寝息を立てている。
 部屋の隅のカウチソファに向かったものの、シロウが腕を離さないことに気づき、アーチャーはシロウを抱えたまま腰を下ろす。
「まったく……」
 シロウを抱きこんだまま目を閉じる。アーチャーにも知らず笑みが浮かんでいた。


「見せつけてくれちゃって。セイバーの優先順位は、ケーキよりもアーチャーなのね」
 呆れながら言う凛に、士郎は苦笑いだ。
「早く慣れなさいよ」
「あー、うん」
 相槌を打つものの、士郎は照れ臭さを拭いきれない。
 ただ、同時にうれしいと思ってもいるのだ。シロウがとても幸せそうに笑うので、士郎はそれだけで救われた気がしている。
「遠坂、やっぱりさ……、ずっと一緒にいてもらいたいな、って思う」
 カップをソーサーに置き、士郎は、ぽつり、とこぼした。
「ええ、そうね。そう、だけど……、そう上手くいくかは、わからないわね」
「ああ」
 二人は今、自分たちのサーヴァントの今後のことを考え始めているのだ。
「結果がわからないもの。賭けでしかないわ」
「やっぱり、そうだよな」
 士郎はアーチャーを思い出していた。いつもシロウを優しく見つめている。その眼差しが優しければ優しいほど、やるせなくなってしまう。
 シロウにとってもアーチャーは特別なようだが、アーチャーにとってのシロウは、何よりも大切で離しがたいものなのだと士郎は知っている。
 だから士郎は一緒にいさせてやりたいと思う。
 賭けなどという、あやふやなものではなく、確実な方法を取ってやりたいと思っている。
「春までに、答え出さなきゃな」
 士郎の呟きに、凛も静かに頷いた。



***

 どうしてクーラーがないのよー、と扇風機を独り占めした凛は文句を言いながら涼んでいる。
「だったら家にいればいいじゃないか」
「呼び出したのは誰よ」
 あ、と士郎は思い出して口を閉ざす。
「来てみたら呼び出した本人はいないし、セイバーは寝ちゃったし、この家は、お客に冷たい麦茶も出さないのかー」
 凛は扇風機に向かって非難囂々だ。
 士郎に相談があると言われて衛宮邸に来たものの、出迎えたのはシロウ一人。たった今出かけた、と言われ、凛は士郎が戻るまで待たされていたのだ。
 その間にシロウは昼寝の時間となり、アーチャーが部屋へ連れて行ったはいいが、そのアーチャーは戻ってくる様子もなく、話し相手もいない凛は、ひとり居間でテレビの番をしていた。
「わ、悪かったって、急に呼び出されてさ」
「あんた、私を呼び出しておいて、他の人の呼び出しに応じたの?」
 じと、と凛に睨まれて、士郎は、すみません、と素直に謝った。
「それで? なによ、相談って?」
 士郎はやっと本題に入れた、とほっと息をついた。
 これ、と凛に三つ折りのリーフレットを渡す。
「急に行けなくなったんだってさ」
 士郎が凛に相談を持ち掛けたのは、夏休みも残り一週間という頃合い。
「藤ねえが四人で二部屋予約していたらしいんだ。だけど、みんな急に仕事が入って、キャンセル料がかかるから行ってくれないかって言われてさ……」
「ふーん。あまり聞いたことのない海水浴場ねー」
 旅館のリーフレットを見ていた凛はじっと士郎を上目で見つめる。
「な、なんだよ……」
「お誘い、なの?」
 ぐ、と士郎は詰まった。
「う……、あー……、えっと……」
「何よ、はっきりしなさいよ」
「ぇっ……と……」
 挙動のおかしい士郎をしばらく見ていて飽きたのか、凛は大きなため息をつく。
「行ってあげてもいいわよ。仕方がないから」
「ほんとかっ?」
 士郎の顔がパッと明るくなる。
「っく……」
 思わず凛はあらぬ方を向いて唇を噛みしめた。アレやアレとおんなじ笑い方しないでよ、との呟きは士郎には届かなかったようで、士郎はとにかく、よかったぁ、と胸を撫で下ろしている。
「そんなにうれしい?」
 凛が訊くと、大きく頷く士郎。
「だって、行けないなんて、今さら藤ねえに言ったら、どんな目に合わされるかわからないからさ!」
 そっちか、と思わず凛はつっこんでしまう。
 この鈍感、とは言わずと知れたエミヤシロウなので、もうその使い古されたつっこみはしないでおこうと凛の中で決まっている。
 そして翌日、各々のサーヴァントを連れて、一泊の海水浴旅行となった。

 宿に着くまでは順調だったのだが、荷物を置いて着替える間にひと悶着となった。アーチャーが水着は不可と言い出したのだ。
「あのさー……、上に何か羽織れば……」
 士郎が半眼で言うが、アーチャーは全く聞いていない。
「ちょっと、何してるのよ!」