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Green Hills 第8幕 「夏灯」

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「凛に塗ろうとした私を、止めたな」
 かーっと熱がシロウの頭の天辺まで突き抜ける。首筋まで真っ赤にしてシロウは俯いた。
「あれは……、触れるな、ということか?」
 気づいていたのか、とシロウは唇を噛む。何か言い訳をしなければ、と思うものの、何も言葉が浮かんでこない。
 アーチャーは嫌悪を感じたかもしれない、と顔が上げられない。
 あの時、なんの躊躇もなしに凛の背中に触れようとしたアーチャーを見たくなかった。
 彼らは主従だ、凛にアーチャーが触れることなど日常茶飯事で、聖杯戦争の時など彼女を抱えて跳び回っていた。
 それを知っていても、それが通常なのだとわかっていても、凛の素肌に触れるのを目の当たりにするのは、シロウにはどうしても耐えられなかった。
「セイバー?」
 俯いてしまったシロウの顔を覗き込むようにアーチャーは身を屈める。
「……ごめんなさい」
 結局シロウには謝ることしかできない。勝手なことを思ってと、アーチャーを不快にさせて、と。だが、アーチャーは突然の謝罪に目を丸くする。
 覗き込んだシロウの表情は、ひどく思い詰めたもの。
「何を謝る」
「……だって、遠坂は……アーチャーの、主で……、なのに、俺……」
「配慮が足りなかったな。以後、気をつける」
「え?」
 驚いて顔を上げたシロウの目尻に口づけ、アーチャーは笑う。
「ぁ……」
 アーチャーのうれしそうな笑顔が、シロウにもうれしかった。
 だからだろうか。うん、と頷き、シロウは、ちゅ、と軽いキスをして、驚くアーチャーに笑った。
 アーチャーは、周囲の視線からシロウを隔離し、シロウに日焼け止めを塗り、魔力を提供し、ついでに幸福感を味わった。
 これが凛の言った“いいこと尽くし”であることは、言うまでもない。


 凛に連れられ、正しくは荷物持ちに引っ張っていかれ、アーチャーが食糧を手に戻ると、シロウの手を握って熱心に話しかける見知らぬ男がいる。いや、その周りに男女が群れている。
「士郎は何してるのよ!」
「衛宮士郎はどこに行った!」
 主従同時に毒を吐く。
「セイバー、お待た、せ……」
 ひっ、と息を呑んだ士郎が、仁王立ちの主従の背後から現れたが、そのまま数歩、後退る。
「貴様の役割はなんだ!」
 アーチャーの鋭い詰問。
「セ、セイバーと、る、留守番」
 頭ごなしに怒鳴られても士郎は反発せずに素直に答える。それほどアーチャーの醸し出す雰囲気が危険だったからだ。
「だったらどうして、あんな状態になってるのよ!」
 凛が顎でしゃくって示す。こちらの魔術師も同様、危険な空気を発している。
「あんなって、え……」
 言われた士郎も唖然とする。
「か、かき氷買ってきただけで、五分も経ってないぞ」
「狙ってたわね」
「ああ」
 赤い主従は今にも武装しそうな勢いだ。
「一般人に何する気だ……」
 これはどうにかしなければ、ここに血の雨が降ることになる。士郎は二人のわきをすり抜け、シロウに群がる男女の中に割って入る。
「あのー、すみませんけど、上がらないでもらえますかー」
 当たり障りなく言いながら、さっさっと、シートに乗り上がっていた男女を散らしていく。おろおろしていたシロウが、主の帰還にほっと息を吐いた。
「セイバー、ちゃんと言わないとダメだぞ」
「ごめん。言ったんだけど、聞いてくれなくて」
 シュンとして謝るシロウに、イチゴ味のかき氷を差し出す。
「暑いだろ? ちゃんと日陰にいないと、辛くなるぞ?」
 太陽が動きパラソルの影も移動している。今、シロウは炎天下だ。
「うん、でも、さっきアーチャーから貰ったから平気」
 魔力があれば、酷い日焼けもどうにかなる、とシロウは笑う。
 そっか、と士郎はフードを被った頭を撫でる。
「士郎ったら」
「あれではどちらが年上かわからんな」
 赤い主従の怒気はおさまったようだ。ほのぼの主従に毒気を抜かれ、二人の許に歩き出した。
 結局、周囲の男女七人、計十四人とは食べ物や飲み物を分けあったりして、一緒に楽しむことになった。
 そして、誰が言い出したのか、この砂浜にはビーチバレーのコートが設置されているために、ビーチバレーをしようということになり、真夏の太陽の下、まるで運動部の夏合宿のような地獄の競技と化していった。
 ヒートアップしたのは、遠坂凛。年上のギャルもOLも大学生も何もかも関係なしに檄を飛ばし、顎で使った。おかげで女性陣の完璧なはずだった化粧はドロドロ、男性陣はフラフラ。
 ピンシャンしているのは魔術師凛と魔術師見習い士郎、そして黒いサーヴァントと白いサーヴァントだ。ネットを挟み、マスター対サーヴァントが残り、十四人の他メンバーはすでに砂上に沈んでいる。
 当たり前の話だ、サーヴァントは人間ではない。そして、二人のマスターも身体能力の高さは並ではない。
「手加減しないわよ、アーチャー」
「のぞむところだ、凛」
「セイバー、覚悟しろ」
「士郎には負けないよ」
 凛のサーブはシロウに簡単に拾われ、アーチャーの容赦ないアタックが士郎を襲う。
「っいで! てめ、俺にだけ、キツくないか!」
 士郎がどうにか返したが、凛に繋げられず、相手コートにボールが飛んでいく。
「当たり前だ、小僧」
 ニヤリと口端を上げるアーチャーに、士郎は歯噛みして構える。士郎の返したヘロヘロボールをシロウが拾ったが、
「う、っわ!」
 ボールは高く上がって、アーチャーに繋げることはできず、ネットをどうにか越えただけだ。
「セイバー?」
 シロウの声にアーチャーが振り返ると、倒れた大学生に足を取られたシロウがずっこけている。
「もらったわ!」
 チャンスボール、とばかりに凛のアタックが炸裂した。アーチャーがシロウに気を取られている間に凛にあっさり打たせてしまった。
「っく、隙をついてくるとは……」
 砂にめり込んだボールを片手で掴み、アーチャーは歯噛みする。
「当たり前でしょ。勝つためには色々な好機を見逃さないようにしなきゃね」
 肩にかかる黒髪を払い、勝ち誇った顔で凛は笑う。そんな凛に舌を打ったものの、アーチャーは背を向けて、シロウの許へ歩み寄る。
「セイバー、大丈――」
 手を差し伸べたアーチャーのこめかみに青筋が立つ。
「貴っ様!」
 ずぼ、とまるで砂に手を突っ込むように、大学生の頭を掴んだアーチャーは、いったん砂に埋め、それをそのまま引き上げた。
「アーチャーっ?」
 その様子に凛がネットを潜って走り寄る。
「何やってるのよ!」
「抱きついていた」
「は?」
 傍らで尻餅をついたままのシロウは、呆然としている。何が起きたのか、自分でもわかっていないようだ。
「一般人に手を上げちゃダメよ。セイバー、ケガはないのね?」
 こく、とシロウが頷くので、凛はほっと息を吐き、アーチャーの腕を軽く叩く。
「はいはい、落ち着いて。セイバーはなんともないみたいだから」
 アーチャーはムッとしたまま大学生を放した。すぐにシロウの前に片膝をつく。
「セイバー、大丈夫か?」
 頷くシロウはアーチャーに立たされたものの、珍しく不機嫌な顔をしている。
「セイバー?」
 アーチャーが顔を覗き込むと、
「ここ、舐められた」