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Green Hills 第9幕 「無月」

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 待てよ、と凛は顎に手を当てて考え込む。
「無くはない、わね……」
 ちら、と宙を見据える。むむ、と唸りながら凛は認めざるを得ないエミヤシロウという特性を見出した。
 士郎にしても、非常に理解しがたいが己が従者にしても、なんだかわからないけれど、いじりたくなる可愛さを持っている、と凛はひとり頷く。
「セイバーはそこを全面に押し出してきちゃった、ってところか……」
 シロウが愛される所以に辿り着いた凛は、どこかスッキリした気分で、フ、と息を吐く。
「仕方ないわねー」
 こちらに来たら少し注意をしておこう、と思いつつ凛は担当業務に戻った。


「とーさかー」
 図書室内の凛に廊下の窓から手を振る色白の男、そしてその背後の色黒の男。オ○ロじゃないのよ、と嘆きの声は心に留める。
「は……」
 額を指先で押さえて、凛はため息をつく。
「そうよね……、自覚がないのはわかっていたことだし、今さらってことでもないわよね……」
 眩暈を振り払いながら、ちらり、と目を向けると、いまだ手を振る白い男。どーしたー、とか、とーさかー、とか、もういい加減、黙れ、とぶん殴ってやりたくなる。
 つかつかつか、と廊下の窓へ向かい、やっと来た、とばかりに笑顔になる白の男・シロウの鼻をいきなり抓んだ。
「ふがっ!」
「大きな声で呼ばなくっても、聞こえているわよ、セイバー」
「と、遠坂、や、やめっ! ご、ごめんなさいぃっ」
 意味がわからずとも謝るのは、衛宮士郎であったころの名残か。
「凛」
 窘めるように言った黒の男・アーチャーが鼻を抓む手を掴んだので、仕方なく凛はぱっと手を放す。
「なんだよー」
 鼻を押さえて恨みがましく上目で睨むシロウに、凛は、フン、と鼻息を荒く吐く。
「目立ち過ぎよ」
「目立つ?」
 小首を傾げるシロウに、ああ、もう、と凛の苛立ちがまた募る。
 その仕草一つで、今、ここにいる女子の目が一気にハートになったのがわからないのか、と凛は拳を握る。
「どうしたって、目立つんだから、もうちょっと、おとなしくしてなさい」
「俺、なんにもしてないけど……」
 学校に来て屋台を見て回って、校舎に入ってきただけだ、とシロウは憮然としている。
「そうだな、セイバーは、もう少し自覚した方がいい」
「あんたもよ」
 シロウを窘めたアーチャーも凛に鋭くつっこまれる。
「なぜ私が――」
「二人が目立つって言ってるの。揃ってうろついていれば、目立たないわけないじゃない。その身長で、そのルックスで、そのっ……、まあ、しばらく、ここで休憩していけばいいわ。ほとぼりもすぐに冷めるだろうし」
「休憩?」
「うちのクラスは喫茶店なの。インスタントだけどコーヒー、紅茶、緑茶、ジュースとお菓子くらいならあるから、隅っこで座っていたらいいわよ」
 凛に招き入れられるまま、二人は図書室に入る。大きな図書机にテーブルクロスを掛け、それらしくしているが、居並ぶ本がそのまま見えて、どこかちぐはぐに思える。
「ああ、ブックカフェ形式よ。本を読み放題。ゆっくりしながらお茶もできる。そのかわり、おしゃべりは厳禁」
 凛が不可解な顔のシロウに説明して、一番奥の席に案内した。
「何にする?」
 凛がオーダーを取る。
「アイスコーヒー、ガムシロ多めで」
「コーヒーはホットだけよ」
「うぅ、じゃあ、ホットでいいよ」
 ちょっと汗かいたのに、とシロウはがっかりしている。
「アーチャーは?」
「私もコーヒーでいい」
「了解。っじゃない、かしこまりました」
 頭を下げた凛に、二人は、びく、と肩を揺らす。
「何よ」
 下げた頭のままの凛に、上目で睨まれる。
「と、遠坂が、急に、頭、下げるから……」
「ウエイトレスなの、仕方ないでしょ」
 小声で言った凛は身体を起こし、スタスタとバックヤードらしきところへ入っていった。
 その姿を見送りながら、確かに白っぽいエプロンをしていた、とシロウは思い至る。
「びっくりした……」
 アーチャーに目を向けると、頷いている。
「でも、目立ちすぎるってさぁ……、俺じゃなくてアーチャーのことじゃないのかな?」
「なぜだ?」
「だってアーチャーは、誰がどう見ても、カッコいいからさー」
 屈託なく笑うシロウに、アーチャーは目を瞠ったまま固まってしまう。
「身長もだし、体つきもすっごくバランスいいし、男女問わず、カッコいいなって、思うはずだ」
 机に頬杖をつき、シロウは夢でも見ているかのように話す。シロウにとってアーチャーは理想であり、追いかける存在だった。今もそれは変わらないのだろう、どうしてもアーチャーがシロウの中では一番優れている者になってしまう。
「ん? あれ? アーチャー? どうかしたか? おーい?」
 微動だにしないアーチャーにようやく気づき、シロウは目の前で手を振ってみる。
 ぱちん、と催眠から覚めたように一つ瞬いて、アーチャーは、は、とため息をついた。
「アーチャー、大丈夫か?」
 向かいの机から覗き込むようにこちらを窺うシロウに、問題ない、と答える。
 まったく、この鈍感め、とは口に出さず、アーチャーは立ち上がる。
「アーチャー?」
「本を見繕ってくる」
 言い置いて書棚へアーチャーは向かった。
「…………」
 どこに行くというわけでもない。アーチャーは本を取りに行っただけだ。なのに、去っていく背中を見送っているだけというのは、取り残された感じが否めない。
「はぁ……」
 シロウはチェックのテーブルクロスに視線を落とした。
 ずっと追いかけた背中は今、手の届くところにあって、触れようと思えばいつでも触れることができる。
 けれどシロウが自分から触れたのは両手の指が余る程度。
 いつもアーチャーが触れてくる。だから機を逸している、とも言えなくはないが、なかなか自分からは触れられない。
 怖いわけではないし、触れたいと思っている。
 だが、触れてしまえば、捕まえてしまえば、その手を離せなくなるとわかっているから、手を伸ばすことをためらう。
「どうしたの?」
 上から降ってきた声に、びく、としてシロウは顔を上げた。
「浮かない顔ね」
 トレイを持った凛が小首を傾げている。
「なんでもないよ」
 シロウは、にこ、と笑う。
「無理なんてしなくていいわよ。セイバーはウソつけないでしょ」
「う……、ごめん」
 くすり、と笑って凛がコーヒーを二つ置く。シロウの座る前と、アーチャーの座っていた椅子の前ではなく、角を挟んだ横に。
「遠坂、アーチャーはあっちに――」
「少し詰めてもらった方が、お客さんがたくさん入るから移動するわね」
 アーチャーの椅子を動かしながら、凛はテキパキと説明する。
「言いたいこと言わないと、損するわよ。向かい合わせじゃ話しにくいでしょ? こうしておくわね」
「あの……」
 それにしても近すぎではないでしょうか、とシロウが言う間もなく、凛はスタスタと去っていった。
「あのー……」
 この椅子の距離では膝が当たってしまうんですが、とシロウは凛を見遣ったり、机の下を確認したりして、そわそわしてしまう。
「もう来ていたのか」
 数冊の本を持ったアーチャーの目が、先ほど座っていた椅子が移動していることに気づいたようだ。
「これは――」