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Green Hills 第10幕 「冬霞」

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 アーチャーはテキパキと動き出す。凛も先ほどのことなどなかったように、シロウの状態を確認する。
 居間の隣の部屋に布団を敷き、シロウを寝かせて様子を見ることになった。サーヴァントが風邪などひくとは思えない、と凛は色々な可能性を考えては打ち消し、アーチャーが夕食を作る間、シロウの側で試行錯誤を続けていた。
 だが、シロウの発熱は、家主の帰還で解明されることとなる。
 バイトから戻った士郎は居間に入るなり、座卓に突っ伏した。
「士郎どうしたの?」
「なんか、あつい」
 シロウと同じようなことを言って、潤んだ琥珀で凛を見る。
「う……」
 アーチャーと同じようにたじろいで、凛は士郎の額に手を付けた。
「熱……」
 シロウと同じだ、と凛は納得した。
「アーチャー」
 呼ぶと、濡れタオルを持ったアーチャーが襖を開ける。
「熱の原因、わかったわ。コレよ」
 士郎を指さした凛に、アーチャーも納得したように頷いた。
「同調率が高いとはいえ、発熱まで一緒になんて、セイバーも災難ね……」
「まったくだ……」
 呆れたため息をつくアーチャーに、凛は目を据わらせる。
「な、なんだ」
 思わず身構えながらアーチャーは凛を見返す。
「それに便乗したくせに」
「ち、違う、あれはだな、」
「はーいはい、そうねー、熱でセイバーがおかしくなっちゃったのよねー」
「く……、り、凛も、見ればわかる」
 捨て台詞を吐いて、アーチャーは台所に入った。


 額に載せたタオルを替えると、ぼんやりと士郎が目を開けた。
「と、ぉ……さか……?」
「どう? まだ辛い?」
「ん……もう……」
 身体を起こした士郎を慌てて凛は寝かせようとする。
「わるい、とお、さか……」
「いいのよ。あんたがよくならないと、セイバーもよくならないわ。だから、早く治してしまいなさい」
「セイ、バーが?」
 驚いて、立ち上がろうとする士郎の肩を掴んで凛は止める。
「大丈夫よ、アーチャーが看てる。居間の隣の部屋に布団を敷いて」
「居間の、隣?」
「ええ。セイバーの部屋はこの部屋を通らないとダメでしょ? だからアーチャーがあっちで看るって。あんたに負担がかからないように気を遣ってくれたのよ。それに、士郎の体調が思わしくないと魔力にも影響するでしょ。だから、アーチャーがセイバーの傍にいるって。まあ、それだけじゃないでしょうけどねー」
 凛がにやにやと笑うと、士郎も少しだけ笑顔を見せる。
「そか、そっ、か……」
「だから、あんたは、ゆっくり寝てなさい。私たちが今日は泊まるから、ね?」
「わかった、ありがと、な、遠坂」
 おとなしく布団に横になった士郎の額に濡れタオルを置き、そっと赤銅色の髪を撫でる。すう、と眠りに落ちた士郎は少し呼吸が楽になってきているようだ。
 凛は士郎の看病をしつつ、アーチャーの気持ちがわかった気がした。
(まー、仕方ないか、これじゃ、理性も飛ぶわねー。しかも、あのセイバーだし、許してやるか……)
 凛は自らの従者に、同情の余地あり、と、ひとり頷いた。


「アーチャー……、あつ、い」
「ああ。衛宮士郎が熱を出している。インフルエンザのようだ。その影響をお前も受けている」
「おれ……きえ、るの……?」
「何を言っている、そんなわけが――」
「……ゃ……だ……アー、チャ、そ……な、の……ぃ、や、だ……」
 伸ばされたシロウの手を握ってアーチャーは口づける。
「そんなわけがない、衛宮士郎が回復すれば、熱も引く」
「け……ど、まりょ……く……な、い……」
 士郎から流れる魔力が滞っている。士郎も今は高熱を出しているため、シロウへ流れるはずの魔力が少なくなっているのだ。
「私の魔力をいくらでもやる。あと二ヶ月、ここにいると決めただろう」
「ぅ、ん……」
 こくん、と頷いたシロウに、アーチャーも頷き、自らの舌の端を噛み切った。
「飲め」
 シロウの肩を抱き、項を支えて、アーチャーは口づける。
「ん? んっ、ん」
 血の味に気づいたシロウが口を離そうともがくが、抱き込んで動きを押さえつける。
 こくん、とシロウの喉が鳴る。おとなしくアーチャーの魔力を受け取りはじめたシロウが、傷ついた舌を舐める。
「っ!」
 その痛みにアーチャーは眉間にシワを刻んだ。傷を癒すように舐めるシロウの髪を梳き、大丈夫だと、まだ消えたりしない、まだそんなことはさせないと、小さく震える身体を抱きしめていた。


 静かに開いた襖にアーチャーが目を向けると、凛がごめん、とジェスチャーしている。
 凛が謝るのも無理はない。まるで跳びかかってきたシロウを受け止めたような格好のアーチャーは、シロウに襲われたと言っても誰も疑いようがない状態だ。アーチャーがシロウに腕を回していなければ、シロウが下手人ととられても仕方のないような状況になっている。
 凛の気遣いに肩を竦め、アーチャーは小さく笑う。
「今、眠った。しばらくは起きないだろう」
 アーチャーの腕に抱かれたままでシロウは穏やかな寝息を立てている。
「えっと、邪魔、しちゃった?」
 すぐに退散しそうな凛を、困ったマスターだ、とアーチャーは苦笑しながらシロウを布団に寝かせる。
「いいの?」
「我々も少し休息しなければな。凛も油断をすれば倒れるぞ」
「それも、そうね」
 じゃあ、お茶でも淹れましょう、ということになり、凛が台所に立つ。時刻は夜中の二時過ぎ。普段なら寝静まっている刻限だ。
「セイバーはどうしたの? 眠れなかったのかしら?」
 前のアーチャーの言い方が気になっていた。まるで眠ろうとしなかったような言い方だった。
 アーチャーの座る前にティーカップを置いて、凛も座る。
「少し、な」
 目を伏せたアーチャーに凛は首を傾げる。
「眠ってしまえば、座に戻ってしまうのではないかと……、不安だったようだ」
「そんなの、無理でしょ。契約がまだ切れていないのに」
 凛は紅茶を飲みながら正論を口にする。
「ああ、そうなのだが……。魔力が滞っている、衛宮士郎が高熱のせいだろうな、少ない魔力が、ほとんど今は流れていない。だから、このまま、消えてしまうのではないかと、言っ――」
「アーチャー? どうしたの?」
 紅茶を口に含んでアーチャーは痛みに口を閉ざした。
「いや、沁みただけだ」
「沁みる? 紅茶が?」
「ああ。血で補ったのでな」
 短い受け答えで凛は理解したようだ。そういうこと、と目を据わらせる。
 お熱いことで、と呆れる主を気にするふうもなく、僅かに舌先を出して眉間にシワを寄せたアーチャーに、思わず凛は赤くなってしまった。
(この……っ、なんなのよ、エミヤシロウって……)
 どいつもこいつも、アレもアレもアレも、いちいちこちらをドギマギさせるんじゃないわよ、とは口に出さず、むう、として紅茶を口に運ぶ。
 基本的に鈍感で、自分のことには(特に魅力には)全く興味がなくて、他の奴らのことばかり考えている。
 アーチャーはセイバーを、シロウはアーチャーと別の意味で士郎を、士郎はシロウと別の意味でアーチャーを……。
 綺麗な三角形ができるわね、と凛は相関図を思い浮かべる。