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Green Hills 第10幕 「冬霞」

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(どうしたって、このサーヴァント二人はラブラブだし、士郎も離れ離れにはしたくないってずっと思っているし、今はいいバランス関係にあって……)
 士郎とアーチャーが聖杯戦争の時のようにいがみ合うこともない、それぞれの考え方で意見の相違はあるが、互いに認めつつある。
 そして何よりもシロウに対する二人の溺愛ぶりが半端ではない。過保護過ぎよ、と自分のことは棚に上げて凛が何度つっこんだことか。
 シロウはシロウでその鈍さをいかんなく発揮しているので、過保護だとか、かまわれ過ぎだとかまで思い至らない。
(なんなのかしら、ほんと……)
 呆れて思いながら、次元の違うエミヤシロウ三人に囲まれている状況が、可笑しくなってきて凛は笑いだした。
「凛?」
「ふふ……、ははっ、な、なんだか、可笑しくなってきちゃった!」
「……凛、やはり少し、休んだ方がいいな」
 夜中を過ぎると人はテンションがおかしくなる。アーチャーは呆れつつ、凛に休むよう促すも、
「だ、だって、私、三人のエミヤシロウと暮らしているのよ? なんだか、可笑しくて……」
 笑いながら言う凛に、アーチャーはため息をつく。
「私とセイバーは人ではないだろう」
「でもエミヤシロウに変わりはないじゃない」
「まあ……、そうだが」
「不思議よねぇ……、あなたたちは、全然違う」
 ようやく笑いがおさまって、凛は静かな口調で言う。
「一番の異質はセイバーだな」
「そうかしら、アーチャーも相当異質よ?」
「そうでもない。どの世界であっても衛宮士郎が私のようになる確率の方がはるかに高い。セイバーは……、アレは最も異質だ」
「そうなの?」
「奇跡に近い」
「何よ、惚気?」
「いや、そういうわけでは……」
「ふふ。謙遜しなくっていいわよ」
 からかうような口調ではなく、凛は真摯だ。
「だから、あなたは触れられなかったのね」
 アーチャーは驚いたように凛を見つめる。
「壊してしまいそうで、穢してしまいそうで。セイバーは、なんていうか、……純白すぎるから」
 凛は頬杖をついて笑う。
「私も尻込みするくらい、セイバーは純粋なの。アーチャーの気持ち、少しはわかるわよ」
「凛……」
 だから大切にしてよね、と凛は立ち上がり、家主の様子を見に行くわ、と居間を出ていった。
 残されたアーチャーはティーカップを片付け、隣の部屋に戻る。
「セイバー……」
 柔らかい髪を撫で、まだ熱い額にそっと口づける。
「そうだな、お前は、奇跡だ……、だから――」
 離したくない、とこぼれかけた言葉をアーチャーは飲み込んだ。
 主たちの決断に委ねようと決めた。自分たちはそれに従おうと話し合った。
 あの時、シロウは泣いたりはしなかった。ただアーチャーの胸に顔を埋め、しばらく動かなかっただけ。
 たくさんの言葉を飲み込もうとしているとアーチャーにはわかった。気持ちを静めようと、必死に自分を奮い立たせようとしていると……。
 そんなシロウを何も言わずに抱きしめていた。
 アーチャーも結局は縋りつきたかったのかもしれない。離したくないと、こぼれそうな言葉をアーチャーも押し込めていた。
 座に還るまで一分一秒でも長く、腕の中に留めておきたい。主に何を言われようがかまわない。迫る別れの日までを数える焦燥の中で、ただ少しでも傍にいられるだけで安堵できる。
「だめだな……」
 弱気になっていては、とアーチャーは少しだけ笑みを浮かべた。



「熱は下がったが自宅待機か、面倒な」
 不機嫌な顔のアーチャーが遠慮もなく言う。
「仕方がないだろ、インフルエンザは感染症なんだから」
「ふん」
 洗面器とタオルを持って、台所に向かったアーチャーに、なんだよ、と士郎は不貞腐れる。
 確かにインフルエンザなどに罹り、シロウにまで高熱を出させている。アーチャーが怒りたくなるのもわかるのだが、やはり、アーチャーに小言を言われるのは癪だった。
 高校三年生の三学期は一月の末で終わってしまう。その残り僅かな高校生活もほとんどの生徒が受験やら就職試験やらで登校していない。
 そんな中でも、いや、そんな、人生がある程度決まる大事な時期だからこそ、インフルエンザウイルスをまき散らすわけにはいかないので、士郎はあと二日、自宅療養だ。
 しかし、熱が下がってしまえば寝ていることもないので、家事を普通にしている。居間に立ち寄ってシロウの様子を見ようとしたら、アーチャーと鉢合わせしてしまった。
 いや、鉢合わせというよりも、アーチャーはシロウにべったり付き添っているので、いるところに来てしまった、ということになる。
「セイバーは、どうだ?」
「まだ熱がある」
 居間の隣の部屋でシロウは眠っている。枕元に座って士郎はその顔を覗き込む。眉根を寄せて、寝苦しそうだった。
 士郎の熱は下がったのだが、シロウはいまだ熱が下がらない。
「早くよくなるといいんだけどな……」
 そっと額に手を載せる。
「……士、郎?」
「セイバー? 大丈夫か? 何か、食べたいものとか、えっと、飲みたいものとかは?」
「士郎……」
「ん? なんだ?」
「だいじょぅ、ぶか……?」
 熱に浮かされるシロウに心配されて、まったく、と士郎は笑う。
「俺はもう平気だ。次はセイバーがよくなる番だぞ」
「そ、か……、よか……」
 すぅ、と再び眠りに落ちたシロウに、罪悪感が湧く。
「なんで、熱、引かないんだよ……」
 誰にともなく愚痴ってしまう。
「おい」
 ムッとして顔を上げると、アーチャーに濡れタオルを放り投げられ、受け取る。
「そこにいろ」
「は? それは、あんたの――」
「魔力が足りていない。譲歩してやる、そこにいろ」
 アーチャーに頭ごなしに命じられ、頷くことしかできない。
「買い出しに行ってくる。しっかり看病しろ、わかったな」
 言い置いて、アーチャーは出ていった。
「偉そうに……」
 つい、こぼしたものの、アーチャーがずっとシロウの看病をしていて、魔力の状態も把握している。奴の言うことは正しい、とわかっているので、士郎は言われた通りにシロウの側にいることにする。
「魔力が足りてないから、治らないのか?」
 だったら、とシロウの布団に入って、抱き寄せる。
「病み上がりで少ないかもしれないけど、足しにはなるよな」
 呟いて目を閉じる。
「セイバー、早くよくなれよ、アーチャーがすごく心配してる」
 アーチャーが何よりもシロウを大切に思っていることを士郎もわかっている。だから、どんなことでも協力できるならやっておきたい。
「セイバー、ごめんな」
 熱など出して、とシロウの髪をそっと撫でた。


 ひく、と目尻が引き攣る。びきびき、と青筋が立つ。
「衛宮士郎……」
 吐かれた声は、肚の底から湧き出たように低い。
 アーチャーが屋敷に戻った時だ、異常はないかと気配を探り、ハッとした。
 もしや、と半信半疑で居間の障子を開け、開いたままの襖の向こうの光景を目にして、ぷち、と血管だか何かの緒だかが切れた。
 買い物袋を台所に置き、静かに近づく。
 BGMを流すなら恐怖映画でよくある感じのものだろう。
「っぅ――」
 顔面を覆われて、士郎は声が出せない。