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同調率99%の少女(8) - 鎮守府Aの物語

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 流留は教えられたとおりに心を無にして落ち着かせる。心をからっぽにとはいうが易し行うは難しだ、と自身にしては柄にもない高尚な表現を頭の中で反芻していた。からっぽになったと心に思わせて無にしてみることにした。
 心の準備ができた流留は那美恵に合図をした。
「いいですよ。お願いします。」
 流留の言葉を聞いて那美恵は三千花の方を見る。流留の言葉は当然近くにいた三千花の耳にも入っていたので、那美恵と目配せをしたのち、三千花は手に持っていたタブレットのアプリの画面にて、川内の艤装の電源をオンにした。

ドクン

 流留は腰のあたりから二方向に電撃のようなものがほとばしるのを感じた。一つは頭の先へと、もう一つは下半身を通りすぎて足の指まで。那美恵の言ったとおりの感覚を得た。確かに似ており、気を抜くと高校生にもかかわらず、側に男子がいるにもかかわらず、粗相をしてしまいかねない感じだった。しかし流留はその感覚を必死に我慢する。
 その感覚がようやく収まったと思ったら、次は全身のありとあらゆる関節がギシッと痛み、よろけて片膝立ちになりかける。流留が完全に倒れこむ前にすぐ近くにいた那美恵は彼女の肩口を支えてあげるために近寄った。流留はというと、関節の痛みが収まると頭のてっぺんから踵までを、ひんやりして冷たく細長い鉄の棒を埋め込まれたような不思議な安定感を覚える。
 そして最後、流留の脳裏には突然何かの情景が大量に流れこんできた。

 それは遠い何処かの海、闇夜に照らされる一筋の光の先に向かって自身と仲間が砲撃する一人称視点の光景だったり。
 それは仲間とはぐれて小さな艦と一緒に海を漂う高空からの光景だったり。
 それは仲間が遠く離れた、点々とした光の集合体に向かって砲撃している最中、別の仲間と何かを運ぼうと死に物狂いで波をかき分けて進む第三者視点の光景だったり。
 止めに、あちこち穴ぼこだらけ、炎上している自身の身体を必死に我慢して円運動をしながら応戦するも、敵の放つ恐るべき一撃必殺の52本が次々に襲いかかり、微光射す朝の海のやや濁った海中から見た最期の光景。

 どれもこれも、今までの人生で見たことなんてない、ましてやゲームですら見聞きしたこともない、リアルすぎる光景だった。そしてありえないはずなのに、まだ顔も見ぬ、素性も知らぬ少女?たちが側に近寄ってきて親しげに並走する光景が浮かぶ。
 いつかあった過去と未来なのか。脳の記憶保持のキャパシティが限界を超えて頭が爆発しそうになり、流留は耐えられなくなって思わずよろけてしまった。
 その様子は、那美恵から見ても、今よろけた少女がどうなったかを察することが出来た。

 内田さんは、川内の艤装との同調に成功した!!
 あたしは、艦娘の艤装とやらに選ばれた!?

 タブレットで電子的にその状況をチェックしていた三千花がはっと息を飲む。
「内田さんの、川内の艤装との同調率は88.17%よ。私よりも高いわ。なみえ、これって……」
 数値を聞いて、那美恵は飛び跳ねて喜び、流留と三千花の肩を抱き寄せて更なる喜びを表した。
「うん!! 合格! 内田さんなれるんだよ! 軽巡洋艦艦娘、川内に! やったぁ〜〜!!」
 飛び跳ねて素直に明るく喜びを表す那美恵と、対照的に微笑んで静かに喜んで那美恵を見つめる三千花。そして、そんな二人を複雑な表情で見る流留がいる。まさか自分が艦娘に合格できるとは……。流留はさきほど艦娘の世界のことを知った時以上の衝撃を受けていた。
 そんな彼女の気持ちを落ち着かせる間もなく、那美恵は勧誘の攻勢を強めることにした。
「やっと出会えたよ。うちの学校で、艦娘になれる人に! あたしね、実は言うとプール掃除の時に初めてあなたを見た時に、何かピンと感じるものがあったの。直感ってやつ? 内田さんが今日見学しに来てくれたのは運命だったのかもって今、すごく嬉しいの!」
「はぁ……」
「ね!ね? 内田さん。こうして出会えたのも縁かもだし、あたしと一緒に艦娘やってみよ?」
 那美恵は興奮を抑えきれない様子で流留を艦娘へと誘いかける。珍しく、目の前の少女の様子がどうだとか、観察がままならない状態になっていた。そのため流留の表情が思わしくないことに那美恵は気づかない。

 流留は同調率というものに合格という評価を受けて戸惑う。自分が肯定の返事をしてくれると信じて熱い眼差しで見つめる那美恵が側におり、そのさらに横では冷静そうな三千花がいる。流留は妙な威圧感を(勝手に)感じていた。
 押されすぎていて何と言えばいいか混乱しかけたが、ようやく一つの言葉を絞り出した。
「とりあえず、外していいですか?」
「おぉ!?そーだねぇ。コアユニットだけ付けて同調しつづけると疲れが早いって明石さん言ってたし。」
「じゃあまたこっちで電源切ればいいのね?」
「うん。お願いねみっちゃん。」
 那美恵から合図を受けた三千花はタブレットのアプリから艤装の電源をオフにした。流留は今の今まで全身に感じていた妙な感覚がなくなり、元に戻ったのを実感する。元に戻ったはずなのに、身体が重い感じがする。そして同調する前に言われた通り、アノ感覚が下半身にかすかに残って猛烈に恥ずかしい。
 はぁ、と一息ついてベルトを外し、那美恵に艤装のコアの箱を手渡す。


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「ねぇねぇ?どうかな?艦娘、やってみない?」
 なおも尋ねてくる那美恵に、やや疲れた表情で見上げて流留は言い返してみた。
「それは……生徒会長や上級生として言ってるんですか?」
「えっ!?」
 まさかそんな返し方をしてくるとは思っておらず、那美恵は珍しく素で呆けてしまった。だがすぐにいつもの調子に戻り、言い方を変えて流留を誘う。
「いやいや。あくまでも艦娘部部員としてだよ。もちろん強制じゃないから、あたしからはあくまでも誘うことしか出来ないから、最終的な判断は内田さんに任せるよ。」
 とは言うが、流留にしてみれば、光主那美恵という人は生徒会長としての影響力が強すぎる。そして、思うように増やせない、相性があるという艦娘と艤装の関係、やっと見つけた自分(流留)という存在、きっと彼女はなんとしてでも誘ってくる気がしてならない。
 退屈を凌ぐために適当に楽しさを求めて過ごしてきたが、あくまで日常生活の範囲。ただでさえ、視聴覚室に来る前に自身に似合わぬ心かき乱される出来事があったのに、これ以上壊されたくない。艦娘なんて非常識な世界は、自分には無理だ。
 日常を壊したくなかった流留の心は決まった。