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Quantum

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「―――シャカ、行こう」
「え?ちょっ……」

 何故だか、アイオリアを掴んでいたはずのシャカは、今度は逆にぐいと強引に腕を掴まれ、ずんずんと先行こうとするアイオリアに引っ張られた。有無を言わさぬ強引さに辟易しながらも、若干の申し訳なさというか、後ろ暗さのような気持ちを感じてしまったシャカは、その手を強く拒めないでいた。
 まだ他の者たちと話をしたいと思っていたシャカの思惑を他所に、アイオリアは結局、処女宮まで辿り着いてから、ようやくシャカの手を離した。

「……っかしいよな、俺。わけわかんないこと云って。子供じみたことしてるって判ってる。何でだろう、すごく気持ちが悪くて、厭な感じがして……もう、何年も経つというのに」

 大きなため息をついて、やり場のない感情を持て余しているようなアイオリアにシャカはどう声をかけるべきかと考えあぐねる。

「今更どうしたのだ、アイオリア。正直、私は驚いている。たぶん、ミロたちも。君はずっと変わりないようにみえていたのだが」
「おまえはインドに引っ込んでいたから、知らないだけ。ミロとはあんまり深刻な話はしないし。他の連中とだって似たり寄ったりだ」
「私はさておき。皆とは親しくしていたように見えたが」
「そう思っていたさ、俺も……でも、そうじゃなかった」

 アイオリアは柱に背を預け、ズルズルと引き摺り堕ちるように座り込むと、頭を抱えた。

「みんな蘇って……よかったと思う。でも、どうしても埋められなかった。割り切っていたつもりだったけれど、俺の中では裏切ったあいつらと、シャカ……おまえたちとの距離が違い過ぎて……態度に出そうになることも間々あった。バカらしいくらい気に障って。放っておこうって思えば思うほど気に入らなくて……目について、食って掛かってしまいそうになったり。未だにあの時、何故あいつらは…って。いい歳して、情けないよな……まったく」

 アイオリアの傷が思いのほか深いことに今更ながらシャカは気付き、途方に暮れる。アテナと青銅聖闘士たちとの諍いから始まり、露見したサガの悪事。そして聖戦では敵方として復活した半数の黄金聖闘士たち。アテナのためとはいえ確かに拳を交えた。
 シャカにすれば過ぎたことであり、件の因縁とて半分は仕掛けたようなものだから、特にこれといって感じ入ることはなかったけれども、アイオリアは違っていたのだろう。
 謂われなき罪を押し付けられた兄アイオロスと同様に長年、針の筵に座り続けたアイオリアの心情など推し量るようなことをシャカは非情とも云えるほど、まったくしなかったし、蘇りの機会を得たあとも、聖域から拠点を再びインドへと移したため、じっくりとあの頃のことをアイオリアと話すこともなかった。
 きっとそれはシャカだけではなく、他の者たちも同じだったのだろう。一つ輪に見える黄金聖闘士たちの絆は本当はまやかしで、とっくの昔に解れてしまっていたのかもしれないことに危機感を覚える。

「なぁ、シャカ。俺は上手に皆を騙せていただろうか」
「アイオリア……」

 今になって暴かれていくのだろうか。
 思った以上に厄介なことになりそうな気配にシャカは胸の奥に黒いシミのような物が広がるのを感じながら、アイオリアの言葉に息を呑む。

「軽蔑しているのだろう、俺を」

 シャカを見上げるアイオリアの諦めたような、疲れた瞳。いつも真っ直ぐで、ともすれば暑苦しさすら感じるほどの力強さが今はみられない。

「いや……違う、アイオリア。そういう話なら、むしろよくやっているほうではないかと思う」

 自由に跳ねるアイオリアの頭髪に手を触れれば、僅かに揺らいだ両の眼をアイオリアは閉じた。嫌がりそうなものだが、そのままアイオリアは受け入れ、撫でられるままだ。なんだか、捨てられた犬のようだと思うシャカである。まぁ、この場合は獅子というべきか。

「……ただ少し気になるのはシオン教皇のこともサガたちと等しく思うのか、ということだ。どうなのかね、君は?」

 聖戦の前哨戦ではシオンもまた敵として現れたのだ。そして、今はアテナに請われるまま、再び教皇として身を置いている。

「―――等しいっていうわけではないが……不信感がないといえば嘘になる。だがアテナの命に従わないと……」
「不本意かね、シオンが教皇という立場にあるのが」
「いや、そういうんじゃない。シオンは教皇としてきっと誰よりも相応しいと思う。でも今回はあの不審者を招き入れての結果だろう?身からでた錆というか、なんというか」

 さわさわと撫でていた手を引っ込めようとすれば、アイオリアが追うようになんとも残念そうな眼差しを向けてきた。やめたまえ、その目は卑怯だぞ……鼻鳴きしそうなアイオリアに危うく絆されそうになる。

「なるほど。そこが引っかかると?思うのだが、意に沿わぬというのならば、必ずしも従う必要はないのではないのかね?」
「え、それってどういう……」
「今回に限っていえばだが。他の者に追わせればいいのではないか?行方をくらまし、ましてや素性の知れぬ者を闇雲に探し回る必要などなかろうと思うがな、私は。それに果報は寝て待てともいうであろう?」
「呆れた……。じゃあ、インドに帰っておまえは引き篭もるつもりか」
「その予定だが」



作品名:Quantum 作家名:千珠