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Quantum

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「いや、いい……答えなくとも。だが、今は不用意に教皇に近づくな」

 否とは云わせぬとばかりに圧力を感じてシャカは不快になりながらも、今は非常時であり、アイオロスやアイオリアのいない聖域をサガはサガなりに一身に守ろうとしているのだろうと思えば、文句も言えず、サガに従うしかないのだろうなとシャカは折り合いをつける。

「わかった。気を付けよう」

 フッとようやくサガの気が鎮まったのをシャカは感じた。先程までの鋭さに満ちた小宇宙がなりを潜めたのを察知して、シャカもまた鋭利な小宇宙を緩めた。

「君の邪魔をしたようだな、悪かった。用事も済んだので早々に帰らせてもらおう」

 あまり長居すべきではないのだろう。ここにシャカがいても、サガを不快にさせるだけだろうからとシャカは扉に向かおうと今度こそシャカを掴むサガの手に空いた手をそっと添えて、ようやく力の緩んだサガの手から逃れようとした。

「―――シャカ」

 サガの手を外すことに成功したはずだった。なのに、何故だろう。サガとの距離はひどく近いところにあった。というより、ほぼ密着しているような……気がする。
 サガはどこか感情を持て余すように一度シャカを見ていた。

「――っ!」

 思わずシャカはびくりと仰け反った。一瞬、それこそ口づけでもされるかというほどサガが唇を掠めるように顔を寄せたのだ。自然、シャカは息を詰めていた。

「……触りはなかったか?」

 耳朶に息がかかるほどの距離でサガが囁いた。ドクドクと鼓動が激しい。
 ああ、五月蠅くてかなわない――。
 きゅっと眉根を寄せつつ、問われたことの意味を考える。サガになんて言われたっけ?ああ、そうだ、触りはないかと尋ねられたはず。
 一瞬、何のことかと考えるが、恐らく先日負った怪我の具合のことなのだろうと思い、必死で答えた。

「た……体調は万全だが」
「そうか。それから―――例の件のことだが……早々に進めて欲しい」
「あぁ、わかっているからっ!」

 トンとサガの胸を押すとようやく、サガが離れた。全身が発火したように熱く感じ、のぼせたように眩みながらも必死で取り繕う。何かまだ言いたげなサガのぎこちなさに辟易しながら、居た堪れなさにシャカはサガを押し退けて扉まで駆けた。
 サガの私的空間から逃れ出るように小宇宙を開放し、別れの挨拶も告げずることなく、自らの住処であるインドへと飛んだ。
 トンと降りた足の裏は確かに赤茶けた庭の土を踏み締めているはずなのに感覚が伴わないままだ。力が抜けて、膝が崩れる。くたりと座り込んでシャカは震えた。

「なぜ……」

 きっとサガにすれば意味のない行動。そんな些細なサガの行動に振り回され、動揺している情けなさ。自分が自分でないようなシャカは混乱を覚える。それに……。

「それほどサガは会いたいのか、『アレ』に――」

 何故だろう。胸が痛い。そしてシャカは胸の奥底がひどく冷えていくような感じがした。

作品名:Quantum 作家名:千珠