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Quantum

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 それから後、試練を展開するまでの間、シャカが身を置くのは処女宮ではなく、教皇宮ということになった。それこそ寝食を共にすることとなったわけだが、思いのほかシオンという人物は人間としても興味深く、シャカの好奇心をくすぐり、気を引いた。
 まぁ、若干微妙なこともあったりしないでもなかったが、それは誰に口外する必要もないことなので自らの胸の内にしまっておけばいいこと―――とシャカは涼しい顔である。
 秘密の勅命を承ったが、その役目を果たす上で黄金聖衣をつける必要はなく、シャカは普段過ごす袈裟のようなラフな衣装でと望んだが、教皇宮というのは広く客人を招き入れるということもあり、教皇命令により少々飾り物が多い、まるでインドの花嫁たちが身に纏うような白と金を基調とした豪奢な衣装を身に付けさせられた。
 そして正体を隠すという名目で、すっぽりと頭から被らされたヴェールによって髪も顔もほとんど覆い隠された。他の者ならば視界が遮られて不便なことこの上なかっただろうが、普段から目を閉じているシャカにすれば視界が遮られても、なんの支障もきたすこともなく当たり前のように生活を送ることは可能だった。
 ただ、一つ納得しかねるのはかろうじて見えているだろう口元に赤い紅を施されること。
 さすがにシャカも腑に落ちず、文句の一つも垂れれば、教皇シオン曰く「せめて目の保養になれ」と意味の解らない理由によって強制的に続行される始末。
 「どうせ退屈であろう」ということで豪奢な衣装を彩る絢爛たる装飾の一つ一つに、曰くつきの秘術が施されたものを用意された。それは秘術というより呪詛のような不快さをシャカは感じて、怪訝にシャカが尋ねれば、教皇はしれっと「そのとおりだ」と言い放った。

「ついでだ。ひとつひとつ、その呪を消していけ。よい退屈しのぎになるだろう」

 雅やかに笑みながら、空恐ろしいことを告げる教皇。早速の呪の効果でもあるまいに、うっすら殺意が芽生えないでもないシャカであった。
 取り澄ました涼しげな佇まいで教皇の傍らに在りながら、見えぬ知恵の輪を夢中で外すように黙々とシャカは一つ、また一つと厄介な秘術を解いていた。ちゃっかり楽しんではいたものの、どういう意図があるのかとシャカは思っていたが、シオンはシオンなりに考えた対応であったのだ。
 口を開けば毒舌な乙女座を黙らせるにはちょうどいい、という至極単純な理由によるものも一つあったが、シャカの身に着させたもの全て、それとは知らずに他者の目を欺く役を果たしていたのだ。
 呪の効果そのままであっても、呪を祓ったあとでも、どちらにしてもシャカの小宇宙を変容させるというものだ。シャカの小宇宙は熱砂に立ち上る陽炎のように、夜空をそよぐオーロラのように揺らめいて、妖しくも魅了するものとなっていた。うっかりシオンは務めを忘れて見惚れることもあったが、それは秘密である。
 シャカは元々が見目良い貌をしていたので、シオンとしては半分以上隠すヴェールは少々勿体ないとは思うものの、ヴェールから僅かに覗かせる白い肌に赤く濡れた唇は妖艶ささえ醸し出し、いつの間にか楚々と教皇に傍付くシャカの存在は教皇謁見に訪れた者の心の中に神秘の者として印象付ける効果を如何なく発揮していた。しめしめ、である。


 午前中の謁見を終えたシオンは昼食を取る間もなく控えの執務室で山と重ねられた書類に黙々と目を通しては紙にペンを走らせる。シャカはといえば、せっかくの人出を無駄にするはずもないシオンによって書類の見直しやら、謁見や訪問スケジュールなどの無駄や無理がないかのチェックをやらされていた。シャカは自身のことだと時間にルーズでトンと無頓着なクセに意外にもこういったことが得意なようで、苦も無くやり遂げていたのだ。当人は『教皇専用秘書』などとこっそり命名されているなど露とも知らぬことだろうとシオンはほくそ笑んでいた。
 それはさておき。
 シオンは敢えてシャカに云わなかったけれども、教皇宮に控える者でも本当にシオンの信用に足る者以外、シャカの正体は明かしていなかった。だが、数日もすれば自身がまったく乙女座黄金聖闘士のシャカだと認識されていないことにシャカも気付いたらしく、ようやく問うてきたときには悪戯を成功させたような小さな昂揚感を感じつつ、説明を加えた。
 候補者である黄金聖闘士たちが「手抜き」をしないため、余所者でなければならないのだと。

「なぜ、そのようなまどろっこしいことが必要なのですか。それに、ムウは私がここに来たことも、教皇に会ったことも知っていますが」

 シャカはジャミールへと戻って行ったムウを思い出し、ムウだけが知っていることになるのは公平さを欠くのではないか……と口にしたのだが、シオンは些少なこととばかりに笑い飛ばした。

「ムウにはジャミールへ戻り、山と与えられた聖衣修復にあたるよう命を下しているのでな。おまえとの密談内容についてはアレが知るところではないわ」

 それでも、あの聡いムウのことだからすぐにバレるかもしれないとシャカは危惧していたが。シオンは一笑に付す。手を休め、机に張り付くようにしていた姿勢を崩し、ぎしっと椅子の背に大きく凭れ横に向いた。シオンはゆったりとかまえながら、緩やかに跳ねる髪を払い、組んでいた足を組み変えたのち、シャカに視線を定めた。

「今後どういった形で行うにしろ選考の際に他の者の手前、おまえだけ除外というわけにもいかぬだろうしな」
「ならば、最初から人前に出ることもせずに、引き篭も―――私という者を秘匿しておけばよかったのでは?」
「それではわしが面白くもなんともないだろうが」
「は?面白……って、もしもし?教皇?」
「それに一度、手痛い失敗をこいとるからのう……慎重かつ、大胆に、そして楽しまねば。人生の余興だ」
「余興って……はぁ……」

 遊び半分で選ばれし次期教皇っていいのだろうか?とシャカは至極真面目に悩んでみたが、どうにかなるわけもなく。憂鬱な溜息を吐きつつ、教皇シオンと共犯者のような気持ちになりながら、早くインドに引き篭もりたいとシャカは切に願うのだった。




作品名:Quantum 作家名:千珠