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Quantum

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 フラフラと教皇宮内を出歩いたシャカは聖衣を身に着けていなかったことで以前からも聖闘士と認識されないことは度々あったけれども、想像した以上にシャカだとは気付く者がいなかったのに驚く。
 シャカらしくない衣装と小宇宙を変質させているらしい装飾の効果もあったのだろうが、ダメ押しのようなヴェールで顔を隠していたこともあって、教皇の思惑通りに皆シャカの正体を見誤っているようだった。
 それに教皇のそばを着かず離れずいたことが災いしてか、ひそひそと漏れ聞こえる声を拾うと、じつに想像たくましい、あらぬ噂がまことしやかに囁かれていた。まったくの見当違いと突っぱねられるほどシロかといえば、多少考える余地が必要だったので何とも落ち着かない気持ちになるシャカである。けれども、それは自分だけのせいではないはず、とシャカは悶々と頭を痛めるばかりだ。
 当の教皇といえば火に油を注ぐような、尾ひれどころか羽まで生えてきそうな勢いでべったりとシャカを付き添わせていた。残り僅かな(?)教皇としての人生を謳歌、余興とばかりに心底楽しんでいるようだ。
 先日も勢い余ってシャカは道を危うく踏み外しかけそうになったが、かろうじて……本当にかろうじて踏み止まることができた。あの時、運悪く何も知らず呑気に執務室に入ってきた教皇付きの従者のおかげで。いいところ(?)を邪魔された教皇シオンからは大目玉を喰らわされていたけれども、助けられたシャカとしては一言礼を言いたいところだ。
 「まぁいつでも機会はある」と怪し過ぎる微笑を湛えながら、恐ろしいことを云ってのけた教皇シオンは平和かつ真面目に今はきちんと聖域の政に務めていた。いくつかのファイルに目を通し終わった教皇がもう当然のようにシャカに向けて渡す。そして当然のようにシャカは受け取る。すっかり秘書が板についているなと密やかにシオンは心中思っているのだが、今のところシャカはまだ気付いていないようで呑気なものだと僅かに目元を細めた。受け取ったシャカはといえば、ファイルを胸に抱えたまま、ため息交じりに話しかけた。

「ところで教皇、噂話を放置しておいてよいのですか?」

 尾ひれ話のことである。
 シャカからすれば、その手の噂話は教皇にとって名誉あるどころか、とんだ醜聞ではないかと懸念するのだが。

「まったく問題ない。むしろ好都合」

 シオンは椅子でくつろぎながら、本日の予定―――事前に与えられていた勅命を果たした黄金聖闘士たちがそろそろ教皇に報告に上がるという時間に向けて準備をしようかなと切り替える。謁見には当たり前のようにシャカをいつもと同じく侍らせる予定だ。

「おまえが久しく聖域から足を遠ざけていたのも幸いしたようであるな。宮仕えの者さえ誰もおまえがバルゴのシャカだとは気付いていないようだ。すっかり騙されておる。くくっ……試しの者は謎めく神秘の者であるのが一番であるからな」

 満足そうに鼻を鳴らす教皇のことばを呆れ顔でシャカは受け止めた。シオンが立ち上がるとシャカは掛けていたローブを取り、丁寧な所作でシオンの肩に羽織らせる。フフフ……どうだ、この甲斐甲斐しさは。もう、いっぱしの嫁だ。いいだろう?思わず皆に自慢してやりたくなるくらいだとシオンは満足そうに鼻を鳴らす。ムウではこうもいかない。あれはどちらかといえば鬼嫁だからな……などと阿呆なことを教皇シオンが考えているなどとはまったく思いもしないシャカは至極真面目な顔で答える。

「そういうものでしょうか」
「素顔を隠していても、心の気高さは滲み出るもの。佇まいが美しく優雅であればなお人の心は惹きつけられる。稀有な存在として人は畏れ敬う―――そういうものである」
「教皇シオン、貴方のように、でしょうか」
「フフフ、さてそれはどうかわからぬが。この僅かの間にもシャカ、既におまえの信奉者さえ生まれているらしいと聞いたぞ」
「……さようで」

 もう、どうでもよいとばかりにぞんざいに返すが、シオンは上機嫌のままである。シャカとしてはよくわからない正体不明の呪詛、いや秘術のおかげで気味の悪い熱に苛まれているというのに…と、厄介な役目を引き受けてしまったことを早くも後悔しているシャカである。
 結構な負荷がかかっているのだ。最近では蓄積されたことで時折、熱っぽさや動悸に眩暈さえ起こすようになった。それをシオンに悟られるようなことはなかったけれども。

「戯れは終わりにしよう。そろそろあれらが来る頃だな。謁見の間に移るぞ」

 優雅な足取りで向かう教皇シオンに倣うようにシャカも被り物を整え、静かに後ろをついていく。辿りついたその先、玉座とも言える豪奢な椅子に腰かけた教皇シオンの一段下からいつものように控え目に立っていようとしたシャカの腕をシオンが掴んだ。

「シャカ、ここに」
「はい?」

 ちょいちょいと指示された場所が膝の上だったので意味が解らずシャカは首を傾げた。最近では慣らされ気味になっている過剰なスキンシップ。多少強引な要求もされたが、その時には睦言のように教皇の智慧を教示してもらえたので、シャカの危機感も薄いものとなっているが。
 ええと、今から同僚たちに会うはずなんですけど……と、シャカの頭の中ではプチパニックに陥りかける。

「シャカ、膝の上に座れ。ちょっとした演出だ。この程度で動揺するような精神では教皇は務まらぬのでな」
「……不埒なお気持ではないと?」
「むろん」

 本当だろうか…閉眼しつつも内心ではジト目になりながら、若干の危惧を抱いていても、教皇シオンの指示に従うしかないシャカだった。


作品名:Quantum 作家名:千珠