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Quantum

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「くくっ!面白い反応が見られたな」
「ご満悦のようで何よりです……教皇」

 ぐったりと、いつにも増して疲労感が半端ないシャカである。そこにベッドがあれば、そのままダイブしたくなるほどの心境だ。いや、万一ベッドにダイブしようものなら、それこそ据え膳になりかねないなと襟を正す。

「ああ」
「……本当に人が悪い」

 順に訪れた一部の同僚たち。教皇の企みに加担してから実際に会うのは今日が初めてだった。面と向かい合うわけではなかったが、シャカにすれば恥辱極まりない再会。
 幸か不幸か、相手がシャカだと気付いた者は皆無だったが、「いかにも」な状態で、時折悪戯に身体に触れる教皇シオンの手が如何ともしがたいものだった。
 真面目に報告に上がった同僚たちにも同情心さえ芽生えた。勅命を終えて戻ってみれば、正体不明の新参者が教皇の傍に侍っている事態に明らかに動揺する者もいれば、好奇の眼差しを向ける者もいた。なるべく平常心でいようと必死に精神を宥めている者も。そして過剰な反応も見せるものもいた。

「すっかり脳内でおまえを丸裸にしておる者もいたのう……血気盛んなことで良い」
「………こっそり人の頭を覗き見ですか?まぁ、その愚か者の名をあとでぜひとも教えていただきたい。きっちりと躾――教育的指導をせねばならないので」
「今、しつけと言わなんだか?まぁよいが。それからな、人聞きの悪い云い方をするでない。覗き見ではないぞ?ダダ漏れだっただけだ。舐め回すようなあからさまなソレ。見ていてもわかっただろうに」
「いえ、さっぱり」

 呆れたように肩を上下させた教皇シオンはそれでも愉快そうに話を続けながら、時折シャカの身体を弄るものだから、油断も隙もあったものではない。シャカはその手を封じようと必死に追い縋る。とっくに謁見は終えていたので、いつまでもシャカを膝上に乗せておく必要もないはずなのだが、未だシャカはその場所から解放されていない。なんの罰なのだろうか。

「―――フフッ…それに、みたか?シャカ。サガの反応を」
「あれは……やりすぎです。教皇、あなたはわざと煽って……もしかして、虐めているのでは?」
「まさか!」

 久方ぶりに見たサガは黄金に輝くジェミニを纏い、威風堂々とかつ優雅に淀みなく進み出でる姿は真の王者のようで、シャカは思わず見惚れた。他の者たちにはない何かをサガはやはり備えていると感じたのだった。そして、玉座近くまできたところでサガは片膝をつき、一度深々と頭を垂れたのち、次の瞬間、鋭い眼差しを二人に放ったのだ。

 ―――お戯れは時と場所をお選びください、教皇。
 ここは神聖なる聖域の間でございましょう。
 
 身を焼くような眼差しと諫めの言葉。教皇を前にしてその峻烈さにシャカは小さく驚いていたが、教皇シオンは愉快そうに高笑いを放った。そして、わざと煽るかのようによりシャカに密着し、恐らくサガの位置から見れば口づけているかのような姿勢を取ったのだ。さしものシャカも驚き、慌てて押し返し、教皇シオンから離れようとしたのだが。反対に目一杯抱き締められた。

『ほう、なにが気に入らぬのか、サガ。ならば―――この玉座を二度、奪うがよい。そしておまえが思う正義を布くがいい』

 挑発とも侮蔑ともとれる教皇の言葉に沈黙したサガの目はいっそう険しいものとなり、射抜くように教皇を睨み続けていたのが印象的だった。神のごとくとまで謳われるサガはそこには微塵も感じられなかった。
 一触即発とでも言った雰囲気で、猛る感情を無理やり押し込めたようなサガは勅命の結果を淡々と一通り報告したあと、無言で教皇の間を去ったのだ。
 そのあとにアイオロスが訪れ、サガ同様に彼も教皇の不埒な行為を諫めはしたが、サガほどに激しいものではなく、余裕さえ感じるやんわりとしたものだった。






作品名:Quantum 作家名:千珠