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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 食堂には既にリュカ王とビアンカ王妃、オジロンとドリス親子が着席しており、二人は全員に感謝を伝えて席に着いた。そして和やかな晩餐会が始まる。

 深い森に囲まれ、城から程近いところに海もあるため海産物もそれなりに採れるグランバニアは、豊富な食材に恵まれた土地だ。野兎や雉、チゾット鹿──この辺りの険しい岩山にのみ生息しているそうだ──を使った煮込みがこの国の伝統的な料理だという。使われる肉は各家庭の好みで色々違いがあるが、罠を仕掛けておけるため野兎がごく一般的らしい。

 リュカが旅装束から着替えてラフながらきちんとした衣装を身に纏い、柔和な笑みを浮かべている。
「ルヴァ殿が白身魚のパイ包み焼きがお好きと伺いましたので、今日はそれを作らせました。ゆっくりと旅の疲れを取って下さい」
 穏やかなリュカの言葉に、ルヴァは深々と頭を下げた。
「ああこれは、本当にお気遣いありがとうございます。何もかも良くしていただいて……」
 ふと横のアンジェリークを見やると、嬉しそうに黙々と食べ進みつつじっと何かを考えているような目をしている。恐らくは味の分析をしているのだろう。
 ゆったりとした時間の流れの中で終始和やかな雰囲気に、突如異世界へと飛ばされ今後の不安を抱えた二人の胸中も穏やかになっていった。

 サンチョと呼ばれた小太りの男が子供たちを連れて退出していき、オジロンとドリスも彼らの私室へと引き上げた後、食後のお茶を嗜んでいたリュカが穏やかなまなざしで口を開いた。
「そういえばお二人は違う世界から来られたとか。もし差し支えなければ、どういった経緯かお聞かせ願えませんか」
「わたしも知りたい! ね、どんなところから来たの?」
 ビアンカがずいっと身を乗り出して青い目を輝かせた。
 この女性の瞳は炎の守護聖にやや近い、淡いブルーだ。
「ええとですね。私たちはとある星の聖地と呼ばれるところで生活をしていまして……」
 どのように説明をしたらいいだろうと慎重に言葉を選びつつ、ルヴァはぽつぽつと語った。
「私たちはサクリアという、こちらで言う魔力のようなものを使って宇宙の均衡を守っていましてね。その力がある内は皆、外界とは違う時間軸の中で過ごします」
 サクリアがある内は。
 口に出すと酷く侘しいその言葉に、二人の間に厳然と横たわるその事実に心が重くなる。
「ふうん、聖地かぁ……なんか偉い人が住んでそうな響きね。ウチュウとかよく分からないけど、あなたたちが苦労してるのはなんとなく分かったわ」
 ビアンカの当たらずも遠からずといった無邪気な指摘は、ルヴァとアンジェリークの頬を緩ませた。

 ルヴァはそれから、一冊の見慣れない本を開いたとき光の中に包まれ、気付けば森の中にいたことを話した。それまで黙って話を聞いていたリュカが顎に手を宛がい、真剣な面持ちでじっと二人を見つめ柔らかい声で言葉を紡ぐ。
「今朝方、天空より光が落ちてきたと報告を受けました。恐らくあなた方がこちらへいらしたときではないかと思います。それならお二人が軽装なのも筋が通りますね」
 リュカの甘く爽やかでありながら落ち着いた声音は、黒曜石の瞳と同じようにささくれ立つ心が一気に凪いでいくような印象を与える。
 その言葉へルヴァとアンジェリークが深く頷いて、ルヴァが続けて一つ一つ慎重に──とは言っても割と普段通りなのだが──注意を払い、言葉を繋いだ。
「ええ、恐らくその通りでしょう。ですので私たちはできるだけ早く元の世界に戻るための方法を探さねばなりません。それで……今後のことを考えて私はこの世界の魔法について少々勉強したいので、もし可能でしたらそういった類の本をお借りできればと」
 サクリアを魔力へとうまく変換することができ、それで魔法を駆使できれば、少なくとも今よりはアンジェリークを守れるとルヴァは考えた。いつまでも無力なままでいるつもりなどないのだ。
「それでしたらマーリンに持ってこさせましょう。彼は元人間ですが少々好奇心が旺盛なもので、あれから天使が降りてきたとそれはもう大騒ぎしてまして……。良かったら明日会ってやって下さい。彼の言葉は僕が通訳しますから」
 二人を安堵させるような口ぶりで、リュカがにこりと愛嬌のある優しい笑顔を浮かべた。
「ぼくたちに出来ることがあればお手伝いしますから、どうぞ何でも仰って下さい」
 その隣で実に楽しげな表情のビアンカが話し始めた。
「わたしたちも本当はリュカのお母さんを助けに行かなきゃならないんだけど、もうちょっと準備を整えてからのほうがいいし。いい機会だからあなた方が元の世界に戻れるように手を貸すわ。いいでしょ、リュカ」
 それになんか面白そうだし、と続けたビアンカの頬を軽くつねるリュカに、ルヴァとアンジェリークが顔を見合わせて笑いを堪えた。
「いったーい! ちょっとリュカ、年下の癖に生意気なんだからっ」
 ビアンカがアンジェリークにも引けをとらない白肌を押さえ、涙目でリュカを睨んでいる。
「何言ってるのビアンカ。君を助けるのに二年掛かったんだから、ぼくら実質同い年になってるじゃないか。全く……いつまでもお姉さんぶって」
 幼馴染だという彼らの歯切れのいい軽快な会話に、とうとう二人は堪えきれずに吹き出してしまった。
「あははは、いやいや仲がよろしくていいですねえ。あの子たちが朗らかに育ったのも分かります」
「それにお二人ってとっても若々しいですものね。羨ましいわ」
「なんですかアンジェ、まさかあなたまで私がおじさんだって言うんですか」
 こちらも負けずにアンジェリークの柔らかい両の頬を左右にそっと引っ張った。いひゃい、と小さい声が聞こえたがルヴァは聞こえないふりを決め込んだ。
「まあまあ。……あの子たちがあんないい子に育ったのは、ぼくらではなくてサンチョのお陰なんですよ」
 それまでの笑いを静かに引っ込めて、リュカとビアンカの顔が翳った。それを見たルヴァの表情も僅かに真剣なものに変わる。
「……と、いいますと?」
 先程の言葉といい、子供たちの年齢からすると若すぎる印象の夫婦。ルヴァはずっとこの家族に何か引っかかるものを感じていた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち