冒険の書をあなたに
「それでは神の御前で二人が夫婦となることの証をお見せなさい。新婦に誓いの口付けを」
その言葉にアンジェリークが少しだけ身を屈めて、シルクのヴェールがそっと上げられた。
気恥ずかしくて伏せていた睫毛をそうっと持ち上げて見てみれば、頬を染めながら真剣なまなざしをしたルヴァと視線がぶつかった。
そして彼の顔が少しずつ、ゆっくりと近付き────静かに唇が重ねられた。
酷くゆっくりな口付けは離れるのを惜しむようで、切なさすら感じられるものだった。
「ここにまた新たな夫婦が一組生まれました。皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人を神が慈しみ深く守り、助けて下さるよう祈りましょう────」
神父の声がどこか遠くに聞こえるアンジェリーク。どくどくと脈打つ心臓が余りにも煩くて堪らない。
二人で腕を組み、再び階段を一段一段下りて行った。
帰りは魔道士のローブに着替えたマーリンが先導役を務め、ゆったりとした足取りで二人の少し先を歩いていく。何か言ってくれそうな気がしてアンジェリークは前を歩く小さな背を見つめ、去り際になってその視線に気付きにこりと微笑んだマーリンは、たった一言「幸せになりなさい」と言っていた。
ふと気が付けばリュカ一家と町の人たちはその少し先で微笑んで見守っている。
通り過ぎていく間中、あちこちから祝福の声と共に二人にフラワーシャワーが浴びせられていく────ブーケと同じ香りの、白く小さな花びらが降り注いだ。
そして噴水を過ぎた辺りでリュカが口笛を鳴らした。
遠巻きに控えていた彼の仲間たちが続々と現れて、町の人々と同じように白い花びらで祝福してくれた。
アンクルは趣旨を理解できなかったのか、持たされた籠をおもむろにひっくり返して花びらが一気に落ち、気まずそうに頭を掻く姿に笑いが起きた。
そうして二人はゆっくりと城の外へと向かって歩いていった。
城の外まで出ると今度はドラきちとドラゴンキッズのコドランが空を舞い、花びらを遠慮なく降らせて飛び回っている。
こちらの季節は夏なのに、真っ青な空の下ちらちらと降り注ぐ白が雪のようで……幻想的なその眺めを、二人は一生忘れることはないだろう。
咽返りそうなほどの甘い甘いジャスミンの香りに包まれた、とても幸せなひとときを────