冒険の書をあなたに
城外ではリュカたちが一家総出で待ち構えていた。
どこか満足そうに笑ったリュカがアンジェリークへと訊ねる。
「驚きましたか?」
「驚いたなんてものじゃないです。もう……なんて言ったらいいの……!」
涙声になりながらも微笑むアンジェリークの肩を、ルヴァがそっと抱き寄せた。
リュカが二人の手を取り、穏やかな瞳でじっと見つめている。
「この世界の思い出に、ぼくたち一家からのお祝いです。ご結婚おめでとう」
そこにビアンカの手も重なった。
「ルヴァさんもアンジェさんも、とっても素敵よ。これからもずっと二人仲良くいてね」
ルヴァはリュカとビアンカの手を固く握り締めながら、噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「本当に……あなた方には何とお礼を言っていいのか。こんなに思い出に残る式を挙げて下さって、ありがとうございました」
アンジェリークと視線を交わして、リュカ一家に改めて二人で頭を下げかけて、リュカに苦笑いで止められた。
「もー、そういうのやめて下さいよー。グランバニアでしか味わえない式にするって、言ったでしょう? こんな魔物だらけの結婚式、よそでは絶対にありませんよ。だから、ちゃんとしたのはいつかお二人で挙げて下さい」
「この世界でしか」ではなく「グランバニアでしか」とリュカが言った通り、こんなことができるのは彼の治世の間だけだろう、とルヴァは笑った────その目尻に光る粒を小さく作りながら。
隣を見ればアンジェリークもまた、美しい翠の瞳が濡れた宝石と化していた。
「世界で、ううん……きっと宇宙で一番、素敵な式だったと思うわ」
ふ、とリュカの表情が挑戦的な色を帯びた。
「喜ぶのはまだ早いですよ? お式の後にはお待ちかね、ハネムーンがあるでしょう?」
アンジェリークがぽかんとした表情になる。全く想定していなかったためだ。
「これもぼくたちからのお祝いですんで、心置きなく『仲良く』してきて下さい!」
リュカが魔法の絨毯を手にして二人の肩に手を置いた途端に移動呪文ルーラが唱えられ、あれと思う間もなくぐにゃりと体がねじくれる感覚に襲われた。