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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 着いた先は潮の香りが漂う、小ぢんまりとしているが教会のような美しい建物の前だった。
「リュカさん、ここは……どこなんですか」
 アンジェリークが無くさないようにと必死で握り締めていたブーケを持ち直し、辺りに視線を泳がせている。
 連日のルーラ移動によってようやくルーラ酔いをしなくなったルヴァは、穏やかな表情のままだ。
「ここは海辺の修道院と呼ばれています。折角だからぼくも挨拶していきたいんで一緒に行きましょう」
 リュカ一家がすたすたと歩き出したのを見て、ルヴァは慌ててアンジェリークの手を取り後を追った。

 迷いのない足取りでリュカが中へと入っていき、一人の修道女に声をかけていた。
 その修道女は目尻にしわこそあるものの、規則正しい生活によって作られたであろう滑らかな肌をしていた。暫くは何やら親しげに話しこんでいたが、リュカが振り返って二人を呼んだ。
「シスター、ぼくの友達が今日結婚式を挙げたんです。それで、どこか着替える場所をお借りしてもいいですか」
 何しろ一見して結婚式直後と丸分かりの格好だ。さすがに着替えなければ衣装が汚れてしまう。
「まあ、ご結婚おめでとうございます。あなた方に神のご加護がありますように……。場所ならリュカさんが泊まっていた部屋でもいいですし、夕方まではお好きなところを使って下さい」
 この修道院へはリュカが石化する前までは度々訪れて宿泊していたという。だが長い年月が過ぎ、その間も魔物の被害は増え続けていたために、現在では夜間は施錠するようになっていた。
 ここの修道女は何も言わないが──以前より人が減ったとリュカが呟いたとき、修道女の顔が曇った点を考えるに──魔物の被害に遭ったのではとルヴァは思った。
 ビアンカがなんだか嬉しそうな顔で手に持っていたトランクケースと杖をルヴァに持たせた。
「はい、あなたたちの着替えとか小物を色々詰め込んでおいたわ。あと杖も持っておいてね。サンチョさん特製ランチもご用意しましたー!」
「ああこれはこれは、ありがとうございますー。ですが、あの……私たちはどうやって合流すれば良いんでしょうか」
 それにはリュカがルヴァを手招きして地図を広げ、説明してくれた。
「ビアンカが昔住んでいた場所が今も宿屋なんですが、そこに部屋を取っておきましたから魔法の絨毯で行ってみて下さい。明朝宿にお迎えに行きますよ。地図もお貸ししますんでそれまで自由に過ごして下さい」
 そう言って現在地とアルカパとを指し示し、鉛筆で薄く丸をつけてルヴァにこそりと囁く。
「ここの周辺はこの間言った通り凄く綺麗なんでお勧めですよ。北にはカジノのあるオラクルベリーもありますし、遊ぶにしろ食事にしろ困りませんから」
 宿をとっているなら本当はまっすぐアルカパに連れて行くほうが早い。しかし最初にルヴァを連れて山奥の村へ向かったとき、帆船や海を食い入るように見つめていたルヴァを見て、砂漠出身ゆえに海は余り身近ではないのだろうとリュカは考えたのだ。
 どうせなら旅をしている気分を存分に味わって欲しい────これも、聖地での暮らしを聞いたリュカの気遣いだった。
 ルヴァはビアンカが宿屋の娘と言っていたことをふと思い出して彼女のほうを見ると、少し恥ずかしそうに頬を赤らめてリュカへと視線を流し、ぽりぽりと頬を掻いている。
「……実はわたしたちも結婚式の後に泊まったの。料理も美味しいし、この世界の宿屋の中ではたぶん上等なほうじゃないかしら」
 そこへ、頬を膨らませたティミーが口を挟んだ。
「えーぼくも行きたいー!」
 子供たちのどちらかが言い出すとしたらティミーだろうと内心思っていたルヴァが、想像通りの結果に肩を震わせる。
「ちょっと、お兄ちゃん! 新婚さんの邪魔はしちゃだめなのよ!」
「そうよティミー。二人っきりの時間も必要なの。あんたはお邪魔!」
 まるで乙女の敵と言わんばかりの勢いでポピーとビアンカがすぐに言い返し、余りの剣幕に怯えたティミーが黙りこくった。リュカがやれやれといった様子で肩を竦める。
「ぼくたち男には今発言権はないからな、おとなしく城に戻ったほうが身のためだよ。それじゃお二人とも、また明日」
 リュカがビアンカの背を促して立ち去っていく。ポピーもそれに続いていくが、すぐに戻ってきた。
「あの、ご結婚おめでとうございますっ。今日のアンジェ様とルヴァ様、とっても綺麗でかっこよかった!」
 ポピーはそう告げるとひらりと一礼をして軽やかに踵を返していき、ティミーだけが困ったような顔で立ち尽くしている。
「……やっぱり帰っちゃうんだよね」
 ルヴァとアンジェリークが無言のまま頷くと、ため息とともにがり、と頭を掻いた。
「分かった、もう我侭は言わない。だけどこれだけは言わせて……ぼく、二人とも大好きだよ」
 寂しそうな瞳を揺らがせて、ティミーはそっと二人を抱き締めてきた。
「結婚おめでと。また明日ね」
 父親の真似をしているのか、バイバイともさようならとも言わないティミーを二人は優しく抱きとめて、ありがとうと告げた。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち