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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 広げた絨毯の上にとりあえず二人で乗ってみるものの、リュカたちと乗ったときのように浮かび上がらない。
「リュカは魔法力のある人なら誰でも動かせる、と言っていましたが……ここからどうするんでしょうかねー」
 困惑した表情でとりあえず地図を広げるルヴァ。
「全然浮かばないわね。先に目的地を決めないとだめなのかしら……」
 絨毯をめくってみたりぱたぱたと叩いているアンジェリーク。
「浮かび上がってから方向を決めるのでも問題ないそうですよ」
「そうなの? じゃあ大陸に行ったときみたいにやればいいのかも!」
 言うなりすぐに目を閉じて両手を組んだアンジェリークの体から淡い光が放たれて、それからふわりと絨毯が浮かんだ。
 ゆっくりと目を開けてみても、魔法の絨毯は浮かんだままだ。
「ちゃんと浮きましたね。では早速向こうへ行ってみましょうか」
 安心した様子でルヴァが南東の方角を指差した。
「海に出るの?」
「ええ。リュカから聞いた話ではここからちょっと南に行ったところに、地図にない小さな島々があるそうなんです。……行ってみませんか?」
「面白そう! じゃあえっと……向こうに行きたいな〜っと」
 絨毯はルヴァが指差した先へと滑らかに動き始めた。

 そして二人を乗せた魔法の絨毯は海の上を軽やかに通り過ぎていく。
 修道院から陸地沿いに南下すると、陸繋砂州がある。目的の島はその近くにあるのだとリュカが教えてくれた。
 地図に「神の塔」という名が書き込まれた陸地は元々独立しており、海辺の修道院のある大陸と砂州で繋がったものと考えられる。
「アンジェ、暑くはないですか。もし頭痛や吐き気がしてきたらすぐ知らせて下さいねー」
 直射日光がまともに降り注いでくるため、ルヴァはアンジェリークの様子を気遣う。
 うつ伏せになったアンジェリークが熱心に海の向こうへと視線を飛ばしている。
「ん、大丈夫。それよりねえ見てルヴァ、こうやって寝そべったら凄い眺めよ!」
 アンジェリークに袖を引かれてごろりとうつ伏せになり、彼女の視線の先を辿る。
 魔法の絨毯は船よりもずっと海面に近い状態で飛行するために、アンジェリークの指摘通りうつ伏せて前を見ると、まるで自分の力で空を飛んでいるかのような錯覚に陥る。
 真下に手を伸ばせばすぐに海水に触れられる位置で、海中の造礁サンゴがはっきりと見える程の素晴らしい透明度を誇る、遠浅の沖。
「……!」
 聖地にも色々な乗り物があるが、これは今までの人生の中であまり体験したことのない感覚だ、とルヴァは胸躍らせていた。
 組んだ両腕に顎を乗せて暫しその光景を堪能した後、彼はアンジェリークの横顔を見つめた。

 突然訪れたこの奇妙な世界で、心臓に悪い出来事が幾つもあったけれど、気付けば心に溜まった澱が綺麗にろ過されて、最後に残ったのはアンジェリークへの想いだけだった。
 二人の間に現れた幾つかの分岐点────それは悩ましい魅力でもって心に大きく揺さぶりをかけた。
 それでも二人が選んだ道は、結局のところ初めと何ら変わることはない。正直寂しいけれど、これでいいのだとルヴァは思う。
(何があっても私は彼女を心から愛しているし、彼女のほうもまた私を愛してくれていること。それを改めて実感できたこの数日間の旅は、とても有意義だったと言えますね)

 隣ではアンジェリークも同じように両腕を組み、顎を乗せてまっすぐ前を見ている。
 寛いだ表情でひたすら前を見ている彼女へそっと手を伸ばし、こめかみにぺたりと張り付いている髪を指で梳いた。
 アンジェリークが顔を傾けて二人の視線がかち合うと、お互いどこか照れ臭そうに微笑んだ。
「そろそろ、目的地が見えてくる頃かも知れません。何かそれっぽい島が見えたら行ってみましょう」

 それから暫くのんびりと南下を続け、アンジェリークが小さく声を上げた。
「あ、ルヴァ見て! あの辺り、なんかぽつぽつ島みたいのがあるわ」
 指差した方向に目を向ければ、サンゴ礁によって形成された小さな洋島が点在している。
 その多くは環礁の名残のようで、もっと高い場所から見下ろせば一帯が環になっていることが分かるだろう。
 その昔ここにも火山島が存在したという痕跡が、今は穏やかな白波が打ち寄せる小さな楽園として残されている。
 二人はその中の一つ、低木の生えた小さな島へと上陸した。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち