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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 ひとまず単体での攻撃力が高いメラゾーマを放って様子を見ることにした。アンジェリークの力がないので集中するのに多少の時間を要したが、これまでの経験によりかなりスムーズに唱えられた。
「焔(ほむら)よ、ここに」
 火柱がルヴァを取り囲むようにして螺旋を描き、頭上で巨大な火球になったのを確認してすぐに次の指令を飛ばす。
「──行きなさい!」
 火球はそのままカンダタへと落下し、轟音と熱波が部屋を満たした。
(さて……次は反撃に出てくるでしょうね。斧の動きに気をつけなくては)
 ルヴァは煙に隠れて攻撃してくると予測を立て、じっとカンダタのいる方角に目を凝らす。黒煙で視界が遮られる中で銀色の光が一瞬煙を裂き、ルヴァの体目掛けて振り下ろされた。
 予想通りだったため煙が裂けた瞬間後ろへと飛び退き、どうにか直撃は免れた。だがかすってはいたようで、またしても服が少し切れてしまった。痛痒さとともに一筋の血が滲む。
 そこへふわりと飛び込んできた鳥がまた光り輝き、きらきらと輝く光の粒が今度はルヴァを包み込む────今しがたつけられた傷が消え失せてしまった。
 煙が出るメラ系は斬りかかる際の隠れ蓑にもなると知り、今度は別の呪文を試すことにした。
 息を整え、真空刃の渦を起こす呪文バギクロスを唱えてみる。斧を持つ手にダメージが与えられれば、少しは力を殺ぐことができる筈だと考えたのだ。
「はやてかぜ、刃となれ」
 理力の杖の青い宝石が淡く光る。それと同時にルヴァの足元からカンダタ目掛けて真空刃が襲い掛かった。
 後ろに控えたアンジェリークの目には、空気の波が淡い青を纏っているように見えていた。ルヴァは理力の杖を十字に切って強く命じる。
「駆けなさい!」
 十字を切った際に二度目の真空の刃が九十度向きを変えてぶつかり、その衝撃で竜巻のような渦が作られた。カンダタは斧を盾のようにして顔を庇い身構えている。
 辺りに強い風が沸き起こり、小さな刃となった風が頑丈なカンダタの体に浅い傷を幾つも刻み付けた。
 刃の渦が治まった頃にぎろりとこちらを睨みつける双眸────いよいよ本気を出してくる、とルヴァは気を引き締めて早速次の詠唱に入ろうとした刹那、カンダタが斧を振り上げ向かってきた。
 その速さに避ける間もなく慌てて杖を横にして斧の柄を受け止めた。腕にびりびりと重い衝撃が伝わってくる。刃はすぐ目の前にあって、両腕を必死で伸ばして刃が当たらないように堪えた。
「くっ……!」
 じわじわと斧の刃がルヴァの顔へと近付いていく────このままでは競り負けるのは時間の問題だった。玉のような汗が額から流れ落ちた。
(ずっとこうしているわけにもいきませんし……一か八か!)
「獅子の力、玉響に宿らん!」
 ルヴァの足元から温かな風が黄や橙の色を纏って吹き渡っていく。すると競り負け始めていた腕から痺れが消え、たちまち力がみなぎって来た。一時的に筋力をほぼ倍に強化する呪文、バイキルトを発動させたのだ。
(今ならこの斧を押し返そうと思えばなんとか押し返せますが、そうするとすぐに次の攻撃が来てしまいますね……だとすれば)
 斧の柄と交差したままの杖を思い切り持ち上げる。
 カンダタの戦斧には弱点があった──刃が大きい分だけ湾曲した形になっているため、杖をそこに引っ掛ける形で持ち上げて動きを封じたのだ。
 そして次の詠唱のため息を整えた矢先、カンダタが鼻で笑ったように見えた次の瞬間、腹に猛烈な痛みが走った。両腕を上げた姿勢でいたために隙だらけだった腹部に容赦なく膝蹴りをくらったのだ。
 数歩後ろによろけた拍子に杖がぐっと下がった。ぐらりと視界がぶれて、一瞬何が起きたか理解できずにいた────アンジェリークが自分の名を叫ぶまでは。

 手にあった筈の杖がない。
 どこへ行ったかと視線を彷徨わせて、またも服がざっくり切れているのが目に映った。
 カンダタの斧は袈裟懸けに深い傷を負わせていた。呼吸はたちまち浅くなり、熱いのか冷たいのかも判別できないような感覚が瞬く間に全身を襲い、ルヴァから集中力を奪う。
 それなのに────腕に当たっていなくて良かった、腕だったら斬り落とされたに違いない。首筋の辺りが何だかぬるついて気持ちが悪い。急激に血圧が下降している感じがする……大量に出血しているのだから当然だ────などととりとめのない妙な思考に取り憑かれた。
 とどめのもう一撃が来るかと思っていたら、カンダタはその足でこともあろうにアンジェリークへと近付いていく。
「アン、ジェ……逃げて……」
 思うようにすんなりと出ない声を振り絞ってアンジェリークを見れば、彼女は目を閉じて両手を組み何かを祈っているようだった。その背には既に翼が広がり、全身を淡い金の光が包んでいる。
「……お願い、ルヴァを助けたいの。どうか力を貸して、神鳥──」
 アンジェリークの小さな声は音のない室内にはっきりと聞こえた。ふわふわと光る鳥がまたルヴァの側へとやってきて、一際強い輝きを放つ。
 光の粒がきらきらと倒れ込んだルヴァの体へと降り注いでいくが先程とは桁違いに眩しく、余りの輝きに思わず目を瞑った。光の粒はあっという間に繭のようにルヴァを優しく包み込み、傷口を少しずつ癒していく。
 知らない内にきつく寄せられていた眉が元に戻り、ルヴァの顔に穏やかな表情が戻ってきた。

 目を開けて真っ先に思い浮かんだのは、最愛の人のこと────

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち