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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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「アンジェ……!」
 急いで身を起こし、アンジェリークの姿を探した。見れば壁際に張り付くようにしてカンダタと対峙している。
「大人しく来い。あいつを殺すぞ」
 カンダタがゆっくりと一歩近付くと、既に逃げ場のないアンジェリークが睨みつけながら毅然と言い返していた。
「ルヴァは死なせません。わたしも────あなたと一緒には行かないわ」
 カンダタの左手が彼女の胸倉を掴み軽々と持ち上げた。アンジェリークの顔が苦痛に歪む。
「言うことを聞け、また殴られたいのか」
 そのまま強く壁に叩きつけられながらも、アンジェリークは気丈にも睨むのをやめない。
 アンジェリークが身を挺して時間を稼いでくれている。早く助けなくては────ルヴァは焦る気持ちを抑え込み、静かに呪文の詠唱体制に入った。
「わたしに命令できるのはっ……この宇宙で、ルヴァ唯一人だけよっ!」
 ルヴァは呼吸を整え、一度だけゆっくりと瞬きをした後すぐにカンダタを視界に捉えた。
「──凍つる牙よ、穿ちなさい!」
 アンジェリークの叫びと入れ替わるようにルヴァの声が響き、呪文が発動した────ヒャド系上位呪文、マヒャドである。
 カンダタの足元を青い冷気が這い、直後に巨大な氷柱が次々と巨体を貫く。動きは止まっているが、まだ立ち上がりそうな気配があった。
 その隙を突いてアンジェリークが猛ダッシュでルヴァのもとへと駆け寄る。
(もう一撃……!)
 もう一度マヒャドを放とうと意識を集中させたとき、彼の頭の中でふと本に書かれていた古代呪文の詠唱がよぎった。その閃きは言葉となってそのまま口から溢れ迸っていく。
「来たれ────凍つる、槍!」
 叫んで杖を思い切り床に打ち付けると、カンダタの周囲を囲むように床に青い輝きを放つ魔法陣が迸り、遥か頭上に冷気が集まる。それはすぐに大きな氷の槍となり、逃げ場がないほどの勢いで降り注ぎ────カンダタの動きを完全に封じた。
 伝説上では存在している最上位呪文、マヒャデドス。マヒャドより多くの力を必要とするが効果が術者の魔力に大きく左右されてしまうため、今では魔界でも使用されることがなくなってしまった呪文。
 さすがにアンジェリークの力なしでの連撃は疲れた────と、肩で大きく息をしながらルヴァは座り込み、額の汗を拭った。
(しかしこれで……しばらくは目覚めないでしょう)

「ルヴァ……!」
 ぎゅむう、とルヴァの頭を思い切り抱きかかえるアンジェリークの体が微かに震えていたことに気付いて、その背をそっと抱き締めた。
「あの、アンジェ……苦しいです……」
 割と豊満な胸に包まれて、ルヴァは心地よさと邪念と窒息の懸念に苛まれた。
「だってっ……し、心配したんだからぁ……!」
 腕の力を緩めた途端に大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙が零れ落ち、大きくしゃくり上げるアンジェリークをルヴァは優しいまなざしで見つめ、両手で涙を拭った。
「でもあなたが助けて下さいましたよ。さすがは女王陛下」
 女王陛下、と呼ばれ少し不服そうに唇を突き出すアンジェリーク。その耳元でこそりと囁いた。
「……ありがとう、私の大事な大事な奥さん」
 その言葉にアンジェリークは照れ臭そうにゆるゆると笑みを浮かべ、小さく頷く。
「しかしですね、えー……私の予想では、たぶんまだあの人元気だと思うんですよ。もし宿まで追いかけてきたら力を貸してくれますか、アンジェ」
「当然よ。だから最初に力を合わせたほうがいいって言ったのに! ほんと頑固なんだからー」
 ぷんすかと文句を垂れつつも、その顔には笑みが溢れたままだ。
 彼女から差し出された手を取り甲に唇を寄せた。
「あはは、そうでしたね……すみません。こんな私にだって少しはあなたを守れるんじゃないか、って思っていたんです。できませんでしたけど」
 ぽりぽりと頬を掻いて片眉を上げるルヴァを、アンジェリークは呆けた顔で見ていた。
「……あれだけ体張ってしっかり倒しておいて、わたしを守れなかったですって? ルヴァったらおかしなこと言うのね」

 ルヴァはアンジェリークを先に部屋から出し、念のためぐったりと気絶しているカンダタのパンツ(最後の砦)をナイフで切り──自分も決して見たくはないがアンジェリークのほうがもっと見たくないだろう──全裸にして、覆面と靴と戦斧を窓から放り投げた。戦斧はできればどこか遠くに隠したかったのだが、ルヴァには重すぎて窓から投げ捨てるのが精一杯だった。
 カンダタの手荷物の中には何故かロープもあり、ついでだからと後ろ手に縛り上げておいた。更にアンジェリークが足枷をはめられたと言っていたので、お返しにそれも見つけて腕にはめ(足には嵌まらなかった)、良心的なルヴァはその鍵を小机の引き出しに置いてきた。
「よし……と。これで目覚めてもすぐには追ってこられないでしょう」
 幾ら普段がパンツ一丁スタイルとはいえ、さすがにこの状態で町の中まで追いかけてはこない筈────明朝リュカたちと合流するまで足止めができればそれでいいのだ。ぱんぱんと埃を払って立ち上がる。
「ルヴァー、まだー?」
 待ちきれずに扉を開けてひょっこりと顔を覗かせかけたアンジェリークを再び外に押しやった。
「あっ、アンジェ。中は見ちゃだめです、目が腐っちゃいますからね。さあ宿に帰りますよー」
 全裸で縛り上げられているむさ苦しい大男など見せたくない。
 はあい、と返事をするアンジェリークにそっと口付けて、仲良く手を繋いで城を後にした。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち