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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 リュカ一家は念のため武器防具を装備してから全員でぞろぞろと五階へ上がり、扉を勢いよく開いたリュカとルヴァが寝室へと踏み込む。
 中はもぬけの殻で、引き千切られたロープだけが捨て置かれていた。ドラゴンの杖を構えたリュカが拍子抜けした様子で頭を掻く。
「……いませんね」
 室内をぐるりと見渡したルヴァが安堵した様子で微笑んだ。
「いないですねぇ、既に逃亡した後のようです。どうやら無事だったようで良かったですよー」
 にこにこと佇むルヴァへリュカが恨めしそうな視線を向ける。
「ちっとも良くないですよー、亀甲縛りのカンダタ子分が見たかったのにー。あーあ、残念」
「リュカ、私はそんな縛り方はしていませんよ。あれは慣れていないと時間がかかりますからねー」
「そもそもそんなことを知ってるあなたたちが色々とおかしいわよ……」
 冷静なビアンカのツッコミを華麗にスルーして、とぼとぼと歩き始めたリュカ。だがビアンカと子供たちはその場から動こうとしない。
 ティミーが困惑した表情でリュカを呼び止めた。
「……いいの? お父さん」
 リュカはその言葉にひとつ頷いて扉に手をかけ、小声で返事をした。
「うん、いいんだ。ひとまず一旦帰ろう」
 全員が部屋を出て不思議そうな顔でアンジェリークが口を開こうとしたとき、後ろ手で扉を閉めたリュカがシ、と人差し指を唇に当てて再び小声で話す。
「まあ見てて下さい」
 そのまま唇に指を当てながら、ニヤァ、と悪戯を思いついた子供のような表情へと変わっていく。
 やがて誰もいない筈の室内から微かな物音が聞こえ、驚いたアンジェリークがルヴァの腕にしがみつき、条件反射的にルヴァがその肩を抱き寄せていた。
 ティミーがそんなアンジェリークに微笑んで、そっと囁く。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ぼくたちがついてるから心配しないで」
 そう言ってティミーがリュカへ向けて人差し指と親指をくっつけてOKサインを出す。
 それを受けて口の端を上げたリュカが頷き、思い切り扉を開く。
 そこでアンジェリークの視界がふいに奪われた────すかさず抱き締められてルヴァの胸に額をつける格好になっていた。
「ちょっ……ルヴァ、見えないっ……」
 力一杯離れようとするものの、ぎゅうと抱き締められたまま離して貰えない。そのままの状態でルヴァがリュカへと声をかけた。
「中の様子はどうですかー?」
 もがもがと暴れるアンジェリークをがっしりと抱き締めているルヴァに笑みを送るリュカ。
「ああ、見ても大丈夫みたいですよ」
 部屋には昨日の大男がパンツと靴を履いた状態で立っており、背後のクローゼットの扉が開いていた。中に潜んでいたらしい。
 一応昨日と見た目がほぼ同じになっていたため、ルヴァはアンジェリークを解放した。息苦しかったのか、ぜいはあと呼吸を整えている。
 リュカが首をこきりと鳴らし、ドラゴンの杖に両手と顎を乗せるようにしてカンダタを見上げて気だるげに放言する。
「昨日はぼくの友達を随分と可愛がってくれたようですねー、カンダタ改めカンダタ子分さん?」
 リュカのまなざしがカンダタ子分を敵と認めた様子でぎらついた。
「それに……前にビアンカの下着盗んだの、あなたでしょ。これはたっくさんお礼をしなくちゃいけませんよねー」
「あ……! わたしのビスチェ盗んだの、コイツだったの!?」
「そうだよ。ほら左の膝下に小さな傷跡があるだろ、あのときのヤツにも同じ傷があったよ。同一人物だ」
 それを聞いてアンジェリークが汚いものでも見るかのような目つきで呟いた。
「下着泥棒だなんて気持ち悪い……真面目に働けばいいのに。暴力も振るうしほんと最ッ低」
 ルヴァの目には一瞬だけ、その言葉に傷ついたらしいカンダタ子分の悲しげな顔が映っていた。……案外本気で彼女のことを気に入っていたのかも知れない、とルヴァは思う。
 山奥の村で宝箱に入れられていたシルクのビスチェ。
 あれはビアンカがこつこつと小銭を貯めて買ったものだった。
 本来は妖精の村にしか売られていないものだが、聞けば時折温泉へとやって来る行商人に頼んで売って貰ったのだという。実は別の町で同じものを盗まれたと言っていた女性とも会っていたため、リュカとしてはビアンカが購入したビスチェ自体そもそも盗品ではないかと内心思っている。
 そしてリュカから発せられる問題発言。
「そうですよ、それにビスチェなんか盗むより履いた後のパンツのほうが実際高く売れそうじゃないか。ね、ルヴァ?」
「へっ!? わっ、私にそんなこと言われても困ります!」
 酷い話題を持ってこられたとルヴァの顔が瞬時に赤くなり、裏返った声で即否定した。
 ですよねー、とリュカ以外の全員が頷く。夫の失言による恥ずかしさで顔を真っ赤にさせたビアンカがギッと睨み上げる。
「……リュカ〜……」
 グリンガムの鞭を片手に、ビアンカがじりじりとリュカへと近付く。
「あっ、ぼくは勿論そんなことしてないよ!? なんっ、なんでそんな怒ってるのさ!」
 鞭が勢いよくしなりピシンと床を叩く。
 しかしその余りにも恐ろしい視線はリュカではなくカンダタ子分へと向けられていた。
「……アイツをボッコボコにしてくれたら、今の失言は聞かなかったことにするわ」
 リュカの張り詰めた表情がすぐさま余裕たっぷりの笑みへと変わった。
「了解。二度と盗賊なんかやれないくらいにね。ティミー、ポピー、準備いいかい」
 子供たちが武器を構えて大きく頷いたのを見て、ルヴァがアンジェリークを連れて部屋の外に出た。
「皆さんのお邪魔になってしまいますからねー、私たちは外で待っていましょう」
 後ろ手に閉めた扉に背を預けてアンジェリークの入室を阻止しながら、ルヴァはそう言って微笑んだ。
「リュカさんの戦うところ見たかったのにぃ。いいもん、こんなことしちゃうから」
 アンジェリークはつまんないと言いながらルヴァにぎゅうと抱きついて頬を寄せ、幸せそうに目を閉じた。ルヴァのほうにもまた甘い微笑みが浮かぶ。
 部屋の中からイオナズンを唱えたポピーの声が響き、派手な爆発音と振動が伝わる。
 ほぼ同時に扉にドンと衝撃が伝わり、室内から押し出されてきた熱風が扉の隙間からルヴァの背にぶつかってきて、その熱さに慌てて飛び退いた。ビアンカのメラゾーマが発動したようだ。
 雷鳴が轟くような轟音──ティミーのギガデインだ。合間に殴打するような鈍い音も聞こえてくる。ルヴァはその物騒な物音を聞かせないようにとアンジェリークの耳を塞いだ。
 そうしてそれからものの五分も経たない内に、室内からの物音はしなくなった。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち