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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

INDEX|128ページ/150ページ|

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 ひとまずの約束で納得したカンダタ子分がレヌール城を去り、今度は大きくしゃくり上げるアンジェリークへと説明をし始めるルヴァ。
「アンジェ、さっきの私の言葉を覚えていますか?」
「に、煮るなり焼くなり、好きにしろってゆったぁっ……」
 だらりと両腕を下ろしたまま、拭いもせず瞳から大きな雫をぼろぼろと零し続けるアンジェリーク。その涙を指先で拭いながらルヴァは困ったような表情で話を続ける。
「ああ……そんなに泣かないで下さい。いいですか、落ち着いて良く聞いて下さいね。結論から言うとあれは勿論嘘ですよ。『口先だけなら何とでも言えます』から。……ね?」
 それからぎゅっとアンジェリークを強く抱き締めて、金の髪に頬を寄せた。
「あなたを手放す訳がないでしょう……? 誰が何と言ったって、これだけは絶対に譲れません。あなたは未来永劫、私の唯一人の片翼なんですから──」
 このとき何やら背後から「いまだーお兄ちゃん頑張れぇ!」とか「何でルヴァ様さっさとキスしないんだろう、ここが正念場なのに」だとかいう子供たちからの遠慮ない野次が耳に届いたが、ルヴァは全力で聞こえないフリを決め込んだ。
「うそ、なの……?」
 ぐすぐすと鼻をすすりながら唇をわななかせるアンジェリークに、ルヴァは笑顔で頷く。
「私は一年働くように言いました。私たちはいつ聖地に帰りますか?」
「あっ……」
 あの男がいくらアンジェリークを想い続けたとて、もう接触することは不可能なのだ。次元を超えられない限り。
 落ち着いてみれば至極当たり前なその答えにようやく考えが行き着いて、しとどに濡れた翠の瞳に輝きが戻る。まるで雨上がりの森のようだ、とルヴァはその輝きに魅入った。
「ほら、嘘も方便って言うでしょう? 彼は元々生真面目な気質のようでしたからね、真っ当に生きていつか良き伴侶に出会えるといいなあなんて思って、ついあんなことを……すみません、びっくりしちゃいましたよね」
 ルヴァの胸にぐりぐりと頭を押し付けて、アンジェリークは細い肩を震わせる。
 傷つけて酷く泣かせてしまったのに、皮肉なことにその落涙のお陰で誰よりも愛されているという実感がルヴァの胸の内を満たしていく。
「でもああ言ってしまわないと、延々と無駄なやりとりを繰り返すだけのような気がして……不安にさせてしまいましたね」
 すぐ側でリュカが大きく頷く。
「しつこい男にはああやって納得させて適当に追い払うのが一番なんですよ。基本的に自分のことしか頭になくて人の話を聞き入れませんからね」
 あんなに話が通じない経験をしたのはこれが初めてだったアンジェリークは、他にもそんな人間がいるのかと何となく薄ら寒くなってしまった。
「本当にそう思って言ったわけじゃないのね、良かったぁ。……でもリュカさんやけに詳しいですね」
「ああ、それはほら……」
 リュカの視線がちらりとビアンカに注がれる。
「うちの奥さんにもマトモなのから変なのまで色んな悪い虫が寄ってくるんで、害虫駆除係の慣れってヤツです」
 ビアンカは苦笑いをしているが子供たちもその言葉に頷いている。
「お母さんがいくら断っても諦めないときはお父さんが話をして解決しちゃうの」
 ねー、とポピーがティミーと顔を見合わせていた。
「話す前にお父さんが睨んだだけで逃げちゃう人も多いよ。カジノでは花束持ってきた男の人がいたよねー。お父さんがスロットに夢中になってたとき」
 そもそも子連れで賭博とは如何なものかとルヴァとしては思わずにいられないが、「害虫駆除」と言えるだけのその苦労は察して余りある。
 一目惚れそのものを完全に否定はしないが、相手を良く知りもしないで己の感情を押し付ける自己中心的なやり方は好ましくない。
「まあとにかく餓死はしていませんでしたし、これで一件落着ですねー」
 そしてルヴァはほっと息を吐いて口角を上げた。同じくリュカもにこりと微笑む。
「それじゃあ、海の神殿へ向かいましょうか」

 室内に残された千切れたロープをじっと見つめ、ルヴァは思考の渦に飲み込まれていた。
(地獄へと垂らされたか細い糸を、彼はどのように使うんでしょうね。私たちにはそれを知る術はありませんが……良い結果となることを祈りますよ)

 自分はお釈迦様ではないけれど────この世界で愛し愛される幸せを掴んで欲しいと、ルヴァは願った。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち