二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに

INDEX|129ページ/150ページ|

次のページ前のページ
 

 一行はルーラで再びエルヘブンへと移動して、地図を片手にリュカが説明を始める。
「ここから船で神殿を目指します。魔物が強くなると思うのでお二人には念のためプックルとピエールを護衛につけますね。プックル、ピエール! 来い!」
 名を呼ばれてプックルが馬車からにゅっと顔を出した。そのまますとんと下りて来たところでルヴァが声をかけた。
「頼もしいですねえ。よろしくお願いしますね、プックル」
 プックルの尻尾がゆらゆらと揺れて、ルヴァの目にもご機嫌な様子が伺える。
「この辺のやつらなんておれたちの敵じゃないさ。おれとピエールで守ってやるから安心していいぞ」
 その言葉へはアンジェリークがたてがみを撫でてお礼を言っていた。
 続いて馬車から出てきたピエールが、二人の前でスライム──彼(?)はディディという名だそうだ──から降りて膝を折った。
「僭越ながらお二人の護衛を努めさせて頂きます。どうぞ我々にお任せ下さい」

 そうしてリュカ一家を先頭に、アンジェリークたち一行は馬車の後方を歩き始めた。
 暫し歩くと帆船が見えてきた。もう少しで乗り込めると安堵した矢先にリュカ一家が一斉に武器を構え始めた。
 ビアンカが振り返り声を張り上げる。
「敵襲よ、見慣れない三匹がこっちに向かってきてる!」
 ルヴァがリュカたちの視線の先を追うと、剣と盾を持ち鎧兜に身を包んだ青い竜の群れが視界に飛び込んできた。
 ディディに飛び乗り剣を構えたピエールがじっと彼らの動きを追いながら、アンジェリークに囁く。
「あれは……リザードマンという竜人族の戦士たちです。本来は魔界で城や神殿の警護をしている種族の筈なのに……彼らもこちらへ来てしまっているとは」
 悔しそうな口ぶりのピエールに対してアンジェリークが言葉を返した。
「こちらと魔界との境目が薄れてきたせいでより強い魔物たちが押し寄せてきている、ってこと?」
「はい」
 小さく頷くピエールの姿とアンジェリークの話で、ルヴァも事の流れを大まかに掴んだ。
 アンジェリークが竜人族の姿を見つめながら、更にピエールへと問い掛ける。
「ねえ、ずっと気になっていたんだけど……あなた方はミルドラースを倒したらどうなっちゃうの? 元の世界に戻るの?」
「彼らも我々も元は魔界の生き物ですが、我々は主に邪気を払って貰ったものですから……ミルドラースの脅威が去った後は邪気を持たないものだけがこの世界に生き残るでしょうね。今はこちらの世界へ漏れ出てきた暗黒の力のお陰で、邪気の強い魔物も動き回れていますが……その代わり邪気のない者は暗黒の世界では生き辛くなる筈です」
 アンジェリークの前方に進み出たピエールとは対照的に、プックルが姿勢を低くして後方へと回り込んだ。
「おれは何があろうと生まれ育ったこっちに残る。前にも言ったが死ぬまで側にいるって決めたんだ──おい、こっちにも来たぜ」
 プックルとピエールが同時に上空を見上げた。紅蓮の色を纏った怪鳥が空を旋回しながらこちらの様子を伺っているのを見てプックルが唸る。
「火喰い鳥が三羽だ。先制して来るぞ!」
「ルヴァ、上! 火喰い鳥が三羽来たって」
 アンジェリークが早口でそう告げるとすぐにルヴァの手を取り集中し始めたのを見て、ルヴァもまた杖を構えて詠唱体制を整える。
「火喰い鳥、ですか。見るからに炎に耐性がありそうですねぇ……では」
 目を閉じてアンジェリークから流れ込む魔力に意識を任せるルヴァ。
(やはりアンジェの力は心地良いですねー……)
 上空から大きく羽ばたく音がして、一羽の火喰い鳥が急降下しながら火炎の息を吐いてきたそのとき、一瞬アンジェリークの翼が大きく広がり、一行を抱き締めるかのように見えた。
 黄金の輝きがきらきらと全員に降り注ぎ、全身を柔らかく包む────炎の戦士との戦いで見せた呪文、フバーハだ。
 実戦におけるアンジェリークの能力を初めて目にしたプックルが感嘆の声を上げていた。
「ほーお、一言も詠唱なしで呪文発動か。天使ってのは凄いもんだな」
 ピエールもその言葉に頷いていた。
「私もこれ程詠唱の早い詠み手には出会ったことがありませんね。竜の神と並ぶお力というのは事実その通りのようです」
 ちょうどそこへ、ルヴァの詠唱が響き渡った。
「凍つる牙よ、穿ちなさい!」
 地を這う青い冷気がぱきぱきと音を立てて凍てついていき、氷柱が枝葉茂る大樹のように伸びて火喰い鳥へと向かっていく。
 先制攻撃をしてきた一羽は低く飛んでいたために易々と貫かれ、そのまま地面へと墜落した。
 一羽が氷柱をかわして飛び回っていたが、巨大な氷の冷たさをものともせずに駆け上ったプックルが火喰い鳥の首に噛み付いたまま着地し、息絶えた火喰い鳥がさらさらと砂になり掻き消えた。
「ディディ、跳べ!」
 ピエールの指示でディディが高く跳躍し、彼の剣が弧を描いて火喰い鳥を真っ二つに切り裂いた。切り裂かれた火喰い鳥はすぐに砂と化し、風に流されていった。
 マヒャドを食らい地面で弱々しく藻掻いている残り一羽へ、ルヴァが静かに理力の杖を向ける。大きく一振りした杖の先から刃となった光がまっすぐに飛び出して、弱った火喰い鳥にとどめを刺す。
 アンジェリークはルヴァの険しい横顔を見つめ、重ねた手に力を込めた。
「……お疲れ様、ルヴァ」
 アンジェリークの声に複雑な表情を浮かべ曖昧に笑うルヴァ。
「直接屠る感覚はないのでまだ耐えられますが……やはりこういったことは気分のいいものではありませんね」
 微かに震える手をさすりながらその指先に目を落とすルヴァを見て、ピエールが口を開いた。
「天使様、賢者様にお伝え下さいますか。何も気にすることはないと」
「……直接言ってあげて。きっとそのほうがいいわ」
 そう言ってアンジェリークがルヴァとピエールの手を取り、意識を集中させた。背に翼が現れたとき、ルヴァの耳に聞き慣れない若い声が届く────ピエールの声だ。
「賢者様、どうかご自分を責めたりなさいませぬよう。命尽きた魔物はそこで朽ちますが、その魂は一度魔界へ還り再び生を受けます。我々はそれを永遠に繰り返す存在ですから」
「しかし……」
 それでも、と言いかけたルヴァの言葉を遮り、ピエールの言葉は続く。
「生き物の骨を断ち血を浴びる生々しさは確かに楽しいものではありません。騎士である私ですらそう思います。恐らくは我が主もそうでしょう」
「……」
「ですが、それをしなければ先へは進めない世界です。仮に平和だとて肉や魚を食らうならば同じことです」
 殺さなければ殺される世界。ピエールの言っていることは至極真っ当で、正論だと思ったルヴァが小さく頷く。
「ええ……あなたの仰る通りですね。私たちはいつだって何がしかの命を奪いながら生きている────」
 どれだけ頭で理解していても消えない違和感が、良心の呵責との狭間でルヴァを苛む。
 そんなルヴァの苦悶の表情を見たピエールが頭を下げた。
「出過ぎた発言をお許し下さい。もしお辛いのでしたら、馬車で休まれますか」
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち