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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 部屋へと戻り、アンジェリークはビアンカから渡された包みの中を見ていた。
「アンジェ、何をいただいたんですかー?」
 声をかけた瞬間ぎくりとアンジェリークの肩が揺れたのを、ルヴァが見逃すはずもなく。
「えっ、あ、あの、着替えとかハーブ石鹸とか、い、色々。さすがビアンカさんよね、女同士だと必要なものが良く分かってて助かるわ!」
 明らかに動揺している。その挙動不審ぶりが気になりもう少し問い詰めてみたい気持ちもあったが、またあとでじっくり訊ねてみることにした。
「そうですかー、良かったですねぇ。アンジェ、折角ですし中庭へ出て星空を見ませんかー?」
「わあ、いいわね! じゃあブランケットもあったほうがいいですよね?」
 部屋に用意されていた二人分のブランケットを手に取ると、ルヴァが横からそれをそっと取り上げる。
「私が持ちますよ。では、行きましょうか」

 アンジェリークにこんばんはと声をかけられた見張りの兵士がやたらと惚けた顔で彼女を見つめている──ジロジロとなんと不躾な、とは思うがこの笑顔に見惚れるのは当然だ──のをスルーして、二人は中庭へとやってきた。
 昼間の暑さが和らいで、吹きつける風に少し肌寒さを覚えた。
「アンジェ、結構風が冷えていますからブランケットを使いましょうね。ほら、上弦の月が出ていますよー」
 中空には細い上弦の月が青白く輝いていた。月の光で星の数は幾分か少ないようで、すっきりとした星空だ。
「遠くの海がキラキラして見えるわ。ルヴァ、知っている星座、あります?」
 アンジェリークはブランケットをぐるりと腰に巻いて椅子に腰掛けた。こうするとお尻が冷えない。
「うーん……やはり全く違う宇宙なんでしょうか、独特の星の並び方ですし……色もなんだかこちらのほうが鮮やかな気がします」
 ルヴァはアンジェリークの横に並び、二人の肩が冷えないようにブランケットを広げて羽織った。

 そうしてしばらく無言で夜空を眺めていたが、アンジェリークがぽつりと呟いた。
「……ほんと、一体どこなんでしょうね、ここ」
 喜とも哀ともつかない、どこか曖昧で複雑な表情のアンジェリーク。口の端に自嘲の笑みが浮かぶ。
「もしかしたら罰が当たったのかな、なんて思えてきちゃって」
 アンジェリークは座面に両足を乗せて膝を抱え込んだ。
 伏せた顔に金の髪がふわりとかかり、その表情は見えない。
「どうしてそんなこと言うんです。あなたらしくもない」
 アンジェリークの背から滑り落ちたブランケットを慌てて掛け直し、ルヴァが訊ねた。
「わたし……何だか疲れちゃってたみたいで。何もかも捨てて、あなたとどこかで暮らせたらいいのにって……そんなこと考えてたの。女王失格よね」
 膝に頬をくっつけてルヴァの顔を見つめた。髪の間から泣き笑いの表情が覗いている。
「だから……ごめんなさい。きっと罰が当たったの」
 ルヴァは愛おしくてやまない金の髪にそっと手を差し入れて、何度も優しく梳いた。
「……そんなことで罰が当たるというのなら……私なんてもうとっくに首が無くなっていると思いますよ」
 ふいに髪を梳く手を止め、一度だけ眉根を寄せた辛そうな目つきがアンジェリークを貫く。
「……夢の中で、あなたを何度も汚してしまいましたから」
 そう言って、月明かりに濡れて光る睫毛に口付けた。
「もしかしてこれって、いわゆる愛の逃避行、ってものなんでしょうかね?」
 ルヴァの茶目っ気のある声音に、アンジェリークがぷっと吹き出した。
「そうそう。あなたにはね、そうやってできるだけ笑っていて欲しいんです。大変なことは、私が全部引き受けますから……ね?」
 こつんと小さな音を立てて二人の額が寄せられた。アンジェリークの喉がひくりと震え、胸の奥からさざ波のように押し寄せてくる痛みを堪えていた。
「それにね……こんな幸せな罰なら、もう帰れなくなってもいいかなーなんて。ほら、私のほうが罰当たりでしょう?」
 ルヴァからすればここが異世界だろうとどこだろうと、アンジェリークと一緒ならそれでいい。それに今日は色々なことが一気に起こりすぎた。不安でパニックに陥って当然だと、ルヴァは思っていた。
「ありがとう、ルヴァ。……お月さまが、きれいね」
 返事の代わりに唇を塞いだ。気持ちの上では優しく触れるはずだった口づけは、思いの外激しさを伴って柔らかな唇を奪いにかかる。
 アンジェリークが息苦しさに身を捩ったとき、二人の唇がようやく離れた。
 熱い視線を据えてルヴァの囁きがアンジェリークの耳に寄せられる。
「今夜はあなたに触れてもいいですか。このまま何もなかったように眠るなんて、もう……」
 この見知らぬ世界でふいに訪れた女王と守護聖ではない状況が、幾度も見た危険な夢の内容を思い起こさせる。
 それに抗うには望みすぎていて、従うのは酷く甘美な禁断の果実と言えた。
 アンジェリークは頬を染めて俯き、ルヴァの胸に頬を寄せた。
「……ちょっと寒いから、もうお部屋に戻ります」
 再び唇に触れてしまえばまたタガが外れてしまうからと、今度は額にそうっと口づけた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち