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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 一行はようやく乗船して海蝕洞を目指した。
 海蝕洞とは海岸の崖が波の浸食などによりひび割れなどのある脆い部分から崩落を繰り返してできる洞窟だ。
 入り江を北上し緩やかに進む船の後方に次々と出来上がる白い波の道を見つめながら、ルヴァはリュカへと声をかけた。
「あのー、リュカ。先程の古代呪文についてお話したいのですが……あれはどういった類の呪文なんですか」
 アルカパで読んだ本の中にもパルプンテの情報は僅かに書かれていた。だが不明な点が多すぎるのだ。
 リュカは穏やかな顔つきでルヴァのほうへと歩み寄り、隣に並び立つ。
「ああ……あれは何が起こるか誰にも分からない呪文ですよ。いいことも悪いことも起きますね、面白いでしょう?」
「皆さんの反応を見るに、余り歓迎されているようには見えませんでしたが……あなたはとても楽しそうでしたねー」
「そりゃそうですよ、場合によっては死に直結しますしね。……でもぼくはあの呪文が好きですよ。人生とパルプンテは思うようにならない!」
 けらけらと明るく笑うリュカになんとなくつられて曖昧に微笑むルヴァ。
 崖から飛び降りる、スロットに熱中する、ときに命さえも失いかねない呪文を好きだと言う────どれも強い刺激があり破滅と紙一重の行動ばかりだ。
 これは彼の幼少期からの経験が影を落としているのではないか、とルヴァはふと思案に暮れた。そんな分析をしてみたところで何かが変わるわけではないが。
 その思考はティミーの声によって掻き消される。
「お父さん、船の下になんかいるよ! すぐそこまで浮かんできてる!」
 リュカはさっと身を翻してティミーが指差した水中へと目を凝らした。船の下をうろうろと付き纏う影が幾つか見て取れて、すぐに声を張り上げた。
「確かにいるな……たぶん魔物の群れだ! 皆気をつけろ、来るぞ!」
 複数の影が船の行く手を阻むように進行方向の先へと回りこんできて、遂に海面へとその姿を現した────青い体に沢山の足を持つ軟体生物だ。
 その姿を視認してポピーが叫ぶ。
「オクトリーチが五匹います!」
 どうやら雑魚のようで、アンジェリークとルヴァを除いた一同が「なんだー」と言いながら肩の力を抜いた。
 ルヴァは魔物の名前に興味を示して目を輝かせている。
「はあ……octpusとleechですかー。タコとヒルとは実に分かりやすい名前ですねぇ、うんうん」
 リュカの口の端が上がり、悪戯っぽくウインクするその表情は実に楽しげだ。
「雑魚と分かったところで、もう一回やっちゃうよー。────パ・ル・プン・テー!」
 その瞬間ビアンカと子供たち、そしてプックルまでもが「あっ」という顔をしてリュカに非難がましい視線を向けた。

 初めはリュカの声だけが辺りに響き渡り、何も起こらなさそうに思えてほっとしたのも束の間、異変は確実に起きていた。
 続々と船の甲板へ飛び上がってきたオクトリーチの群れを前にリュカがドラゴンの杖を振り下ろそうとしたとき、アンジェリークがふらふらと近付いていきなり抱きついた。
「うわ、やめてくれよ! 危ない!」
 動きを封じられたリュカが慌ててアンジェリークを振り払った────オクトリーチに攻撃する直前だったため、危うく彼女を殴ってしまうところだった。
「ルヴァさまぁ、ぼうりょくはだめですよおー! やめてくださーい!」
「違いますよアンジェさん! 気を確かに!」
 振り払われた勢いに負け尻餅をついたアンジェリークは、抱きついたときの感触が違うことに首を傾げてきょとんとしている。
「……あれ? ちが〜う、ルヴァさまじゃな〜い。間違えちゃったあ……ルヴァさまあー、どこー?」
 舌足らずなその声は可愛らしいものの、攻撃のチャンスを潰されたリュカは困り顔をして頭を掻いている。
 戦闘中にもかかわらずアンジェリークはそのままふらふらと歩き回り、親を探す迷子のようにルヴァの名を呼び続ける。
「アンジェ、私はこっちですよー……さあこちらにいらっしゃい」
 ルヴァがアンジェリークをオクトリーチの群れから遠ざけて、安全な場所まで移動した。
「どうぞ座って下さいね。では今日は渦巻銀河の特徴などについてお話しましょうか……銀河中央の膨らんだ部分をバルジ、周りの部分をディスクと言いましてね、バルジの中央部分には巨大なブラックホールがあると言われていますが、最近発見された銀河はなんと太陽の三百兆倍を超える輝きを放っていましてね、その中心部のブラックホール、クエーサーには未だ解明されていない謎があるんです。短期間で桁外れの大きさへと成長できた仕組みについては諸説ありまして、一つは可能性としては薄いんですがこのブラックホールが『エディントン限界』という考え得る最速のペースでガスを飲み込み続けたかも知れないということ。もう一つはこのブラックホール自体がそもそも誕生したときから巨大であり、それが成長しただけという考え方……」
 彼女の両肩に手を置いて座らせ、まるで執務室にいるかのような穏やかさでにこにこと話し始めたルヴァも何やら目の焦点が定まっていない。そして話の内容も若干突飛なものだ。
「あっ、クエーサーというのはね、銀河の中心の巨大なブラックホールに大量のガスが落ち込むとき、それが加熱され途方もなく大きなエネルギーを放射することで強烈に輝く天体なんですよー」
 しかしアンジェリークはそんなルヴァの長話を少しも聞いていなかった。そのまま戦いの様子をぼーっと眺めている。
 ルヴァは少しふらつきながら数歩歩いて座り込み、再び何やらブツブツと話し出している。
「あー、プックル? まあ落ち着いてそこに座りなさい。そもそも互いを傷つける戦いなどと言うものはですねぇ……私から見れば全くもって無意味なんじゃないかと思うんですよ」
 それからくどくどとルヴァの説教が続いていたが、勿論誰も聞いていない。
「……あのー、聞いてますか? プックル……」
 ポピーが呪文の詠唱に入ろうとして、ルヴァの異変に気付いた。
「ルヴァ様、それオクトリーチです! なんでプックルに見えてるんですかーもうー!!」
 やや虚ろな瞳のルヴァにじいいいいっと見つめられたオクトリーチはすっかり怯えている。
 そしてポピーがそのまま呪文を唱えようとした矢先、ぴたりとその動きが止まった。
「えっと……あれ? 呪文なんだったっけ?」
 ポピーは度忘れしていて呪文を唱えられない。その様子を見てティミーが呆れたように声をかけた。
「何やってるんだよ、ばかだなあ。ぼくがやっつけてやるよ! ぬおおおおおーっ!」
 そう言ってティミーは力任せにオクトリーチを掴んで投げ飛ばした。
 遥か遠くに落下したらしく、ボチャンという小さな水音がした。
 周囲のてんやわんやな光景を目にしたビアンカが、腰に手を当てて叫んだ。
「もーっ、皆混乱しちゃってるじゃない! こうなったらわたしが頑張るしかないわね!」
 なんだかやれそうな気がしてビアンカが先頭に躍り出た! そして勇ましくオクトリーチに突進したものの、何かに躓いて転んでしまった。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち