冒険の書をあなたに
暫くぼーっと戦いを見ていたリュカが、残っているオクトリーチへ体当たり──というのか、思い切り倒れ込んだというべきか──をして、下敷きになったオクトリーチがぺしゃんこに潰れて砂と化した。
そうこうするうちにルヴァはすっかり訳が分からなくなって、思わずアンジェリークに抱きついた。
「アンジェ、愛してます……」
幸せそうな表情でそのまま頬に額に唇にとめちゃくちゃに口付けをし始めたルヴァへアンジェリークは抵抗を試みるものの、がっしりと抱きすくめられて身動きが取れない。
「んぅっ……もうっ、ルヴァ! どうしたのよ一体っ、離してったら! ばか! えっちー!」
暴れるアンジェリークを気にも留めずに更にエスカレートしたルヴァの手がするりとスカートをたくし上げた途端、彼女は渾身の力でルヴァを突き飛ばして彼の横腹に祝福の杖を思い切り打ち当てた。
「いっ……!」
思わぬ痛みに顔をしかめたルヴァがふと見れば、アンジェリークが頬を赤く染め上げて涙目で睨んでいた。
「ア、アンジェ……? あの、一体私は今何を……って、えええええええっ!? すっすみません!」
自分の手がアンジェリークのスカートをたくし上げていることに気付き、慌てて手を引っ込めた。
「ルヴァ、正気に戻ってくれた……? 痛いことしてごめんなさい」
「あ、い、いえ……いいんですよー。自分でも何が何だか分からなくなっていましたので……それより本当にすみませんでした。早くこの戦いを終わらせないといけませんねえ、これは本当に恐ろしい事態です」
敵味方全てが混乱に陥ると戦闘どころではなくなるのだと実感したルヴァとアンジェリークは、急いで呪文の詠唱体制に入った。
「爆ぜよ、閃爍(せんしゃく)の星───!」
残っているオクトリーチがバラバラに離れているのを見て、ルヴァは大爆発を引き起こす呪文、イオナズンを放つ。
二人が重ねた手から強風が舞い起こり、上空に渦を巻き吸い込まれていく。風が止みしんと無音になった刹那、眩く一閃して大きな爆発が起こった。その耳を聾する爆音はオクトリーチたちを跡形もなく消し飛ばし、それが止んだ頃には魔物の姿はどこにもなかった。