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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

INDEX|136ページ/150ページ|

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 疾走するプックルの背の上で風を受け額をあらわにしたアンジェリークが叫ぶ。
「退きなさいっ!」
 淀んだ空気を引き裂く怒号に、ゾンビナイトたちの動きが止まる。プックルはその間を勢い良く掻い潜りルヴァの元へと辿り着いた。
 死者が忌み嫌う神聖な光を纏ったアンジェリークが近付くと、先程の迫力ある声も相まって怯えた魔物たちが後ずさっていく。
 祝福の杖を翳して目を閉じ、更に祈る。するとルヴァを包む青い光が更に強まり、傷口を塞いでいく。
 だが次の瞬間、再び傷口が開いて鮮血が溢れ出した。毒の効果を中和させない限りはいたちごっこだ。
(杖の力だけじゃどうにもならない。毒を……毒をなんとかしなくちゃ……ルヴァが……!)
 槍でずたずたに傷ついたルヴァの体の下でじわりと広がっていく深紅。
 アンジェリークは彼を喪う恐怖を前に体の震えが止まらなくなり、目を閉じて幾度も呼吸を整えた。
 神鳥を呼び出せば毒を中和してくれるかも知れないが、否応なくせり上がってくる嗚咽を堪えるのに必死で歌うどころではなかった。
(落ち着いて。落ち着くのよ……今ルヴァを助けられるのはわたしだけなんだから……)
 震える両手で祝福の杖を握り締め、必死で意識を集中させて祈った。彼の傷が全て癒えるようにと。
 杖の宝玉が再び青く輝いてアンジェリークの体を包み込んだ途端、青い光がたちまち眩い黄金へと変わっていく。
 それからゆっくりと睫毛が上がった瞬間の彼女の顔をプックルは陶然と見つめた────デモンズタワーで瀕死のリュカを守ろうと単身飛び出してきたビアンカとどこか似た、その気高いまなざしを。いきいきと芽ぐむ森の如き瞳の色が、今は黄金の色を取り込み淡い翠になって、この上なく美しい輝きを放っているのだ。
 ルヴァに群がりその身を槍で散々痛めつけていた魔物たちは、アンジェリークの気迫と神聖な気配に気圧されて逃げ腰だ。だがそこから離れようとはせず、隙あらばルヴァに近付こうとしていた。
 一歩、アンジェリークが彼らに歩み寄る。
 もう誰にもルヴァを傷つけさせはしない────そんな決死の思いを滲ませて、静かに見据えた。
「亡者がこの世で何を為せますか。然るべき場所に還りなさい!」
 一喝するアンジェリークの全身から淡い金の光が波動となり揺らめいた。
 ゾンビナイトたちの足元から同じ色の光の柱が立ち昇り、彼らの身は光の中に溶け込み跡形もなく消え去ってしまった。
 そしてその光はルヴァの体をも優しく包み込み、体内の毒素を中和していった。
 プックルがふにゃお、と変な鳴き声をあげた。ぴんと立ち上がった尻尾がびびびびび、と細かく痙攣している。
「……はっ、やりやがった! ゾンビナイトどもを浄化したぜ!」

 敵を消滅させてもなおアンジェリークは硬い表情のまま、そっとルヴァの傍らに跪く。
 祝福の杖を翳し更に傷を癒した。今度はきちんと傷口が塞がったことに心底ほっとする。
「……ルヴァ。ルヴァ、起きて」
 血飛沫のついた顔を拭いながらアンジェリークは呼びかけ続ける。顔色は青白いものの、そっと胸に耳を当てると心音を確認できた。
 彼女からは見えなかったが、そのときルヴァの片目がうっすらと開いたのをプックルは目撃していた。
(こんなときに寝たふりかよ、あくどい賢者め)
「天使よ、賢者は狸寝入り……というのかお目覚めのキス待ちらしいぞ」
 プックルの告げ口によりルヴァの魂胆があっさり暴露され、アンジェリークがさっと頬を赤らめて眉根を寄せた。
「ええー? そうなのっ? ……もう、仕方ないなぁ」
 身を屈めてそうっと唇を重ねた。彼の温かい唇に思わず泣きそうになる。
「ねえ、起きてったら……いつまでそうしてるつもり?」
 その甘い声音に苦笑いをしつつ、ルヴァがゆっくりと目を開けた。
「またあなたに助けられてしまったんで、なんだか恥ずかしくて……」
 体を起こすのを手伝いながら、元気な姿に安堵したアンジェリークが少しだけ涙ぐむ。
 しかしリュカ一家のほうに視線を走らせると、その表情が引き締まった。
「リュカさんたちのほうはまだ敵が出てきてるみたい。わたしたちも加勢しましょう」
 プックルがふんふんとルヴァの匂いを嗅ぎ、尻尾を揺らめかせた。
「そういや毒は……抜けてるようだな。もう大丈夫そうだ」
 プックルの言葉にアンジェリークがにっこりと微笑む。
「良かった。じゃあ行きましょう」
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち