冒険の書をあなたに
ネクロマンサーとゾンビナイトの組み合わせが立て続けに現れていたリュカサイドでは、ドラゴンの杖でネクロマンサーを殴り倒しながらリュカが叫んでいた。
「ったく、なんだってこうも次から次へと……この数はちょっと異常じゃないか!?」
ギガデインで一掃しつつ、額に汗を滲ませ始めたティミーが叫んだ。
「ねえ、これってぼくらを足止めしてるんじゃないのかな! 大して強くもないのに、こんなにいっぱい……!」
そこへアンジェリークとルヴァ、プックルが駆けつけた。ルヴァがざっと周囲の様子を見渡して戦況を把握する。
「皆さん大丈夫ですか!?」
ビアンカが息を切らせながらも小さく笑みを浮かべた。
「わたしたちは大丈夫、ちょっと数が多すぎて手間取ってるけど……それよりもルヴァさんのほうが大惨事みたいだけど?」
またしても見た目がズタボロの血塗れになってしまったルヴァが、ぽりぽりと頬を掻いた。
「ああ、私ならもう大丈夫です。ちょっと毒槍にやられてしまったもので……」
ビアンカが放ったベギラゴンがゾンビナイトたちを襲う。リュカがその隙にルヴァへと声をかけてきた。
「ここはぼくらに任せて、お二人は先に扉を開いてきてくれませんか。これじゃいつまでも埒があかない!」
「分かりました。どうか無理なさらずに! ……アンジェ、行きますよ!」
リュカから最後の鍵を受け取ったルヴァがアンジェリークと共に扉へと向かった──その手を固く取り合って。
新たにまたゾンビナイトが六体ほど現れ、ティミーが「うげぇ」とうんざりした声を上げていた。
プックルが華麗な剣捌きを見せているピエールの隣へと駆けて行く。
「なかなか苦戦してるな、ピエール」
「ええ……余りここで時間を食うわけには……いかないんですけど、ねっ!」
呪文を跳ね返す効果のマホカンタを唱えられる前に、とピエールはひたすらネクロマンサーを斬り倒していた。
二人はどこか競うように速度を上げ、敵の動きを封じながら攻撃を仕掛けていった。
新規のゾンビナイトたちが扉へ向かうルヴァとアンジェリークのほうへと動き出した様子を見て、プックルがぐんと速度を上げて回り込む。
「ピエール、こっちに飛び移れ! おれのほうが早い!」
プックルの狙いを理解したピエールが猛スピードのままディディからプックルの背へと飛び移り、ディディのてっぺんを掴んで横に振り回した。
遠心力で伸びた大型のスライムでゾンビナイトたちがいっぺんに叩かれ、思い切り弾き飛ばされていく。
何体かはぐしゃりと地面に崩れ落ち、この時点でもはや原型を留めてはいなかった。
残りのゾンビナイト一体にプックルが噛み付き、止めを刺した。プックルの背から高く跳躍したピエールは上空からイオラを放つ。
そこへ体勢を立て直したディディが駆け付けてピエールを再び背に乗せ、その勢いのまま敵の懐へと突っ込んでいく。
彼の剣が残りのゾンビナイトを真っ二つに切り裂いて、敵はあっという間に殲滅した。
仲間としてずっと共に行動してきた彼らのぴたりと息の合ったコンビネーションに、リュカの顔が綻んだ。
「さっすがー頼もしいねー! ぼくらも負けてられないな、行くぞ!」
「おう!」とか「はい!」という返事が響いて、また続々と現れた魔物たちへと果敢に挑んでいくリュカ一家。
しかし────彼らの行く手を阻む敵が扉の前を固めるように現れ、その数はざっと数十は下らない。
背筋に走る寒気を堪えながらビアンカがリュカへと視線を投げた。
「リュカ、あいつらを倒さないとアンジェさんたちが危険だわ!」
扉の前を塞ぐ余りにも膨大な魔物の数に、さすがのリュカも唇を噛み締めた。
「くそっ……こんなところで根競べしてる時間はないってのに……!」
ルヴァと共に扉へと向かっていたアンジェリークはこのとき奇妙な違和感を感じ、ふと背後を振り返って思わず目を見開いた。
忽然と現れたグランバニア前国王でありリュカの父パパスが、穏やかな表情でリュカたちを眺めていた。