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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 パパスはゆっくりとプックルのたてがみを撫でて、そこで初めて何とも言いようのない表情を見せた。
(あのときはおまえさんにも、辛い目に遭わせてしまったな)
「いいんだ、おれは平気さ」
(これからもリュカの友達でいてやってくれ。私はもう、親としてあの子に何もしてやれないから)
 ぐいぐいとパパスの手に頭を押し付けるようにして、プックルが喉を鳴らす。
「うん、約束する。ずっとあいつらの側にいるよ……もう行くのか?」
(ああ……もとより出て来るつもりはなかったんだ。亡者が手助けなど、本来あってはならんことだ)
 プックルの頭をぽんぽんと叩いて、笑おうと口角をぐっと上げかけたパパスの顔が、くしゃりと歪んだ。
(まだ修行が足りんのだろうな……つい出しゃばってしまった)
 過酷な運命を背負った一人息子を守りきれなかった無念の思いが、パパスの表情にありありと浮かんでいた。
 できるなら、ここまで気丈に頑張ってきた息子を労って、あと一息だと背中をそっと押してやりたい。
 してあげたかったことは沢山ある。もう立派な大人になった彼には必要ないのかもしれないが、それでも……側にいたかった想いだけが、まだパパスの中で消化できないままだ。
(たった六年しかあの子の側にいられなかったんだ。これくらいの手助けなら、神はお赦しになるだろうか……)
 悲しげなパパスの表情をプックルは透き通る瞳でじっと見つめていた。
「人間の親ってのは大抵そういうもんなんだろ? そりゃしょうがねえよ。それよりさ、あんたまでおれの言葉が分かるようになっちまってるな」
(この場所の力もあるんだろうが、そもそも今は人間と魔物の間にいるようなものだからなあ。だが不思議なものだな。マーサとリュカはこんなふうにおまえたちと会話をしていたのかと、死して実感できるとは)
 ぽん、と軽やかにプックルの背を叩いた後、パパスはすっと立ち上がった。
(さあ、大きな力が来るからビアンカちゃんを守ってきてくれるか。あの子にも宜しく伝えておいてくれ)
 ゴロゴロと喉を鳴らしたプックルを促してから、パパスはアンジェリークたちのところへと歩いてきた。
(神に近き方々よ、私の後ろにいて下さい)
 アンジェリークはこくりと頷きルヴァの腕を取りパパスの後方へと下がる。
 パパスは剣を地面に立てた姿勢で、両手を柄に乗せてじっとリュカを見つめている。
 場所移動してから動こうとしないアンジェリークに、不思議そうな目を向けたルヴァへ小声で説明をする。
「今ね、わたしたちの前にパパスさんが立っているの。今から何か起きるみたい」
「あー、そうだったんですか。だからリュカがあんなに……。でも、お話ができたようで良かったですよね」
 そう言って小さく微笑んだ。

 先に詠唱を終えたビアンカが、扉の方を向いたリュカにバイキルトをかけた。
「ありがと、愛してるよー!」
 ぱちりとウインクをして微笑むリュカの余裕に、半ば呆れたようにひらひらと手を振って答えた。
「はいはいわたしもよ。頑張ってね、リュカ!」
 彼の邪魔にならないようにさっと後方へ避けた頃、ビアンカの側にプックルとピエールもやってきた。
 子供たちの詠唱も終わり、それぞれの手から光が迸っている。
「準備いいよお父さん!」
「わたしも、準備オッケーです!」
 リュカは構えた剣を真っ直ぐに上向けた。リュカのまなざしが緩やかに猛者の瞳へと変わりゆく。
「よし……来い!」
 放たれた二つの上級魔法が天へと翳されたパパスの剣へと向かう。
 先程のパパスの力がそうさせているのか、大きな呪文はばちばちと爆ぜつつもリュカを襲うことなく剣に吸い込まれた。
 そこでリュカはゆっくりと剣を胸の前まで真っ直ぐに下げ、ふっと息を吐いた。
 仄かな光を纏ったパパスの剣に視線を落とした僅かな間だけ唇を噛み、そして顎を引いた。
 それからすっと横に剣を構えたリュカが、扉の前にいまだたむろしている魔物たちへ向かって勢い良く駆け出していき、大きく跳躍して剣を振り下ろした。
 十字型に輝く苛烈な光は朱赤の色を纏い、真っすぐに迸る。扉の前の魔物たちは至近距離から放たれた光に触れた途端、なす術もなく次々とその姿を消した。
 十字の光はそのまま扉へ衝突するかと思いきや、扉に触れるかどうかの辺りで優しく掻き消えていった。
 魔物の気配が一瞬途絶えた隙に、リュカがすかさず叫ぶ。
「走れ! 扉を閉めるぞ!」
 扉の脇に退避していたアンジェリークとルヴァもその声にはっとなり、慌てて扉へ駆け寄って鍵を差し込んだ。

 鍵を差し込んだ途端、扉はとても軽やかに開かれていく。
 その空間にはどこか懐かしい、それでいて厳かな空気が辺りに漂っていた。
 額に浮かんだ汗を拭い、ルヴァの体を気遣うアンジェリーク。
 その後ろからパトリシアの蹄の音と共にガラガラと馬車が近付いてきた────リュカたちだ。

 ばん、と音を立てて扉が閉められた────魔物の気配も、パパスの姿も、もうどこにもなかった。
 だが扉が閉まる寸前、何とはなしに振り返ったアンジェリークとビアンカだけが、扉の向こうで微笑みながら手を振るパパスの姿を見た。
「お義父様……」
 ビアンカの耳に、とても懐かしい声で「リュカを宜しく頼むよ」と聞こえた気がして振り返った、その一瞬の出来事だった。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち