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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

INDEX|143ページ/150ページ|

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 歌が終わり、静寂が訪れた。誰も彼もが言葉を失ったまま、ただ光の階段を見つめている。
 ふう、とゆっくり息を吐いたアンジェリークがゆるゆると瞼を持ち上げて、リュカ一家を見渡した。
「この十日間、本当に楽しかった……あなた方がマーサさんを助け出してミルドラースを倒すところ、わたしたちは見届けられないけど、遠くから無事を祈ってるわ」
 子供たちが瞳を潤ませて、アンジェリークとルヴァへしがみついた。
 その後ろではリュカが馬車へと戻って、がさごそと荷物を運び出している。
「アンジェ様もルヴァ様も、どうか、お元気でいて下さい……わたし、いつか、凄い学者さんか魔法使いになって、お二人に会いに行けるように頑張ります……!」
 アンジェリークは無言で子供たちをぎゅうと抱き締めて、口をへの字にして泣きそうな顔をしていた。
 ルヴァはさすがに長年守護聖をやってきたお陰で、心の準備──悲しみへの対処、慣れとも言える──ができており、穏やかに微笑みつつポピーの頭を撫でていた。
「それは楽しみですねー。あなたならきっとできますよ、ポピー。いつかまた逢える日を待っていますからね」
 はい、とくぐもった声がアンジェリークの服から聞こえてきた。
 続いてティミーが鼻をすすりながら額をアンジェリークの服へと押し付けていた。
「ねえ、二人ともぼくがあげた砂漠の薔薇、大事にしてよね。ぼくも大事にするから……」
 ひっく、としゃくり始めたティミーの髪をそっと撫でて、アンジェリークが小さな声で「勿論よ」と囁く。
 ルヴァもつられて少し辛そうに眉根を寄せて、ポピーと同じく頭を撫でた。
「ええ、ずっと大切にしますよティミー……」
 リュカがトランクを持ってティミーの後ろに立ち、困ったように眉尻を下げて笑っていた。
「まーた泣いたのか、二人とも」
 振り返ったティミーが叫ぶ────空色の目を真っ赤にさせて。
「泣いてないよ! ちょっと目が痛かっただけ!」
「鼻出てるぞ。ったく、伝説の勇者も所詮は子供だなあー」
 ぶにっとティミーの頬を挟んでからかうリュカ。
「お父さんだってさっき泣いてたよ、大人なのにさ!」
 頬を挟んだままでリュカの指先がティミーの涙をそっと拭っている。
「そりゃそうだよー、大事な人とお別れするのっていつだって悲しいし、寂しいもんだろ? でもさ」
 屈んでティミーと目線の高さを合わせたリュカが、穏やかに語りかけた。
「ぼくたちにはまだ、これからがあるよ。ポピーやマーリンがいつか本当にお二人の世界に行く方法を見つけるかも知れないよ。ぼくはそうなってくれたらいいなって思ってる」
 そう言って、女神像の向こうにある先程閉ざした扉へと視線を向けた。
 扉一枚を隔てて、過去から現在までを亡き父が守り、託された息子とその家族が先を目指し歩き出していく────未来へ。
「……ここから先は、ぼくらの『これから』を勝ち取るための戦いになる。お二人も元の世界でたくさんの人の『これから』を守るんだ。だから、寂しいけどここは笑ってお見送りしよう」
「……うん」
 こくりと頷いたティミーが、気恥ずかしそうに頬を掻いてアンジェリークとルヴァを見つめた。
 その視線を受けてアンジェリークがにっこりと笑顔を浮かべている。
「というわけで、はい荷物。それとルヴァ」
 リュカがトランクをルヴァに手渡す。
「はい? なんですか」
 ルヴァが返事をした瞬間に、リュカが紫のターバンを解き始めた。
「ターバン交換して下さい。その刺繍、うちのお針子に見せてやりたいんで……アンジェさんの手作りだから、だめかなぁ」
「アンジェがいいなら、私は異論ないですけど……」
 ルヴァが少し困った様子でアンジェリークへと視線を投げた。彼女は気にした様子もなくにこにこと微笑んで答えた。
「ああ、それなら試作品だから気にしないで、また作るから。でもちょっとボロボロになっちゃってるけど、いいの?」
「それ言ったらぼくのも相当ですよ。すみません、汚いけど」
 アンジェリークはトランクの中からルヴァが元々巻いていたほうのターバンを取り出した。
 見慣れた布地にルヴァが目を丸くさせる。
「おや……それは」
「グランバニアで洗っておいたの。はいルヴァ、こっちを巻いて帰りましょうね」
 アンジェリークがリュカのターバンを受け取り軽くたたんでいる間、しゅるしゅるとアンジェリーク手製のターバンを解いていくルヴァ。人前だけれど、恐らくはもう二度と逢えないであろう寂しさの前には、この際しきたりなどどうでも良く思えた。
 ビアンカが空色の目をこれでもかというほどまあるくさせて、口元を押さえ驚嘆の声を上げた。
「え、もしかしてルヴァさんの素の頭が見られるの!? 実は薄毛だったりしてー!」
 ポピーがげふっと咽たルヴァの背を撫でて、呆れた声で諌めた。
「……お母さん……それ失礼です……」
 その流れにアンジェリークがぷっと吹き出して口を開いた。
「聖地でも薄毛疑惑はあったけどね。試験中にもロザリアとその話になったくらいよ!」
「アンジェ、あとでじっくり詳しく聞かせて貰いますよー」
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち