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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 二人が食堂で朝食を済ませルイーダの酒場に着いた頃、中から賑やかな鳴き声が聞こえて恐る恐るルヴァが顔を覗かせた。
「おはようございますー……」
 そこには大小さまざまに魔物と呼ばれているであろう異形のものたちがひしめいていた。
 後ろからついてきていたらしい縞模様の猫が二人を追い越して、主であるリュカの足元へ纏わりついた。
 そこで紫ターバン姿のリュカがこちらに気付いて笑顔で駆け寄ってくる。
「おはようございます。昨日は話を聞いて下さってありがとうございました。あの……すみません、あなた方の話をしたら皆会ってみたいと煩くて……見た目は怖いかも知れませんが、気立てのいい奴らばかりですので」
 くるりと後ろを振り返り、リュカが声を張り上げた。
「皆に紹介する! ルヴァ殿とアンジェリーク殿だ、お二人は遠き異界より来られたので何かと不便もあるだろうから、ぼくとしてはできる限り力を貸したい。くれぐれも失礼のないように頼む!」
 アンジェリークの耳には様々な言葉が届いていた。多くは期待と好奇心に満ちたものだ。
「まずはぼくの親友、キラーパンサーのプックルを紹介します。来い、プックル」
 燃え立つような赤いたてがみにしなやかな体のキラーパンサーが、音もなくアンジェリークとルヴァの側へとやってきて、戦いのときとは打って変わった甘えた声で鳴いた。
「あんたが我々の言葉を知る天使か? 怪我もなかったようで何よりだ」
 ドラきちよりもずっとはっきりとして言葉が聞き取りやすいことに驚き、アンジェリークはただ頷いた。
「ありがとう、あなたの戦いぶりはルヴァから聞いたわ。とてもお強いんですってね」
 通訳することもなく平然と会話を進めたことに、リュカが呆然とした表情でアンジェリークを食い入るように見つめている。
「リュカよ、マーリンのジジイが言った通りだろう。我々の理を超えた神の御使いが来たと」
 プックルのその言葉へは苦笑いで応えるリュカ。
「そのようだね。さすがに何百年も歳食ってないね、マーリンは。じゃあ次はぼくの右腕、ピエール」
 大きな緑のゼリー状の生き物──頼むからこっちに来ないで欲しいとルヴァは内心どきどきしていた──から降り立ち、鎧の騎士が二人の前に跪き、頭を下げた。
「お初にお目にかかります、天使様。スライムナイトのピエールと申します。どうぞお見知りおきを」
 アンジェリークも膝をつき、ピエールと視線を合わせて微笑んだ。
「まあ、ご丁寧にありがとう。あなたの戦いのことも聞きました。素晴らしい剣技をお持ちなんですってね」
 彼の表情は冑に隠され窺い知ることはできないが、どうやら照れてしまったようだった。
「いえ、そんな……まだ修行中の身ですので……恐縮です。では」
 さっと身を翻し、ピエールは部屋の奥へと消えていく。
 女王候補の頃から自分を含めた守護聖たちを次々と虜にしたこの若き女王は、今この場においても魔のものたちを魅了し始めている──その事実にルヴァは畏敬の念を抱かずにはいられない。

 その後も次から次へとアンジェリークへ挨拶をしたがる魔物たちの対応に追われた。
 少しの間が空いて一息ついた頃、アンジェリークの耳にしわがれた声が聞こえた。
「リュカ、もうそろそろ切り上げんか。みなも嬉しいのは分かるが天使様にご負担をかけてはいかんじゃろうに」
 擦り切れて少々くすんだ緑色のローブに身を包んだ小柄な老人がぬっと現れて、二人の足元に恭しく跪く。
「この世界へようこそおいで下さいました、天使様に賢者様。わしはしがない魔法使いのマーリンと申します」
 深くかぶったフードの下には皺だらけの顔に落ち窪んだ瞼。そこからはっきりと見える瞳はグレーの虹彩を持っていた。
「あなたがマーリンさんね、初めまして。どうぞお顔を上げて下さい」
 アンジェリークが微笑むとマーリンは一瞬驚いたように目を丸くして、その後ゆるゆると口角を上げた。
「同胞たちがとんだご迷惑をおかけしましたな。みな悪気はないんじゃがのう、この世界でわしらの言葉を理解できる者が少ないゆえにすっかり舞い上がっておりましての。のう、リュカ」
 ほっほ、と笑ってリュカのほうを見つめるマーリン。ルヴァは深い皺に刻まれたマーリンのリュカを見つめる穏やかなまなざしが、どこか自分の父を髣髴とさせることに気がついた。
「そうだね、皆大騒ぎして嬉しそうだ。それにしても……何故アンジェリーク殿には言葉が分かるんだろう。エルヘブンの民……というわけでもなさそうなのに」
 ここへ来て魔物たちとの交流においてはさっぱり出番のなかったルヴァがようやく口を開いた。
「エルヘブンの民? その民族は魔物と交流できるのですか」
 リュカが地図を出してグランバニアからエルヘブンを指差した。
「ええ、ぼくの母の故郷なんです。ここから北、この辺りにあります」
「お母上のふるさとですか。つまりその母方の血筋のお陰で、あなたとポピーには魔物の言葉が理解できると」
 ルヴァの言葉に頷きながら、リュカの話は続いた。
「ええ……そういうことらしいです。ですが、あなたの奥方はそうではないのに、かなりはっきりと聞き取っている様子」
 きょとんと小首を傾げるアンジェリークの横で、ふむ、と頭をひとつ掻いたマーリンがおもむろに話し出す。
「なんじゃリュカ、おまえには天使様の翼が見えてはおらんのか。まるで天空人さながら、眩き美しさじゃぞ……このお姿を見れば、大いなる力を感じ取れば、我らの言葉を理解していても何ら不思議はないぞ」
 リュカが目を丸くしてアンジェリークの背を穴の開くほど見つめた。そしてゆっくりと首を傾げて見せる。
「翼なんてないじゃないか。昨日から皆がずっと天使様と言ってるのは、もしかして皆には翼が見えてるってこと?」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち