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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 翌日、朝食を済ませた二人は再びルイーダの酒場へと訪れていた。そこには夜勤を終え交代の時間を迎えた兵士と、サンチョが遅めの朝食を摂っていた。
 その姿を見てルヴァが声をかけようと近付いていく。
「おや、あなたは……サンチョ殿、でしたね。おはようございます」
「これはルヴァ様にアンジェリーク様、おはようございます。食べながらで申し訳ございません」
 通常であればサンチョは城外にある自宅で食事を賄っている。
 だがここ数日は対ミルドラース戦へ向けての準備で慌しく、いちいち城の外へと行っていられないためルイーダの酒場で食事を済ませていた。
 ルヴァはルイーダに目覚めの効果のハーブティーを二人分頼み、サンチョの横に並んだ。
「あーいえいえ、どうぞごゆっくり。私たちもお茶を頂きますのでー」
 リュカは夜明け早々に仲間たちを引き連れて、洞窟へと出かけていったのだとサンチョがすまなそうに頭を下げる。
「坊っちゃ……いえ、リュカ王の母君マーサ様の救出には、圧倒的に戦力が足りませんのでね。リュカ王自ら仲間の強化に時間を割いておられます」
 ルヴァは臣下ではなく仲間と呼ぶ、若き国王とサンチョの気質をとても好ましいと思う。
 だが本来であれば一国の王が自ら戦いの先頭に立つなど有り得ない話だ。
「先代のパパス王も攫われたマーサ様を助けるため、生まれたばかりの坊っちゃんを連れ旅に出られて……血は争えないものだとつくづく感じます」
 先代の王が旅に出たとき、このサンチョが供をしたのだと聞いている。初老と言ってもいい年齢の彼の遠いまなざしは、その頃を思い返しているからだろうか。
 ルヴァは蒸らし終わったハーブティーをカップに注ぎ、アンジェリークの前に置きながらちらとサンチョを見やる。
「これが人間同士の争いなら、王は兵を率いて後ろに控えていればいいんでしょうけどね。あなた方の戦いには人為らざるものの介入があり、目的を成し遂げるためには人の力だけでは果たし得ないのでしょう。そして、リュカ殿はこの戦いにおいての要石」
 手早く食事を取り終えてナプキンで口を拭ったサンチョが大きく頷いた。
「仰る通りです。世間では勇者と崇められているのはご子息のティミー様ですが、リュカ王は既に大魔王ミルドラースの野望をも食い止めるおつもりのようですからね。……ああ、そろそろ教会へ行かなくては! ではお先に失礼しますよ」
 サンチョは慌しく一礼をして酒場を後にしていき、彼の姿が見えなくなった頃それまで黙って話に耳を傾けていたアンジェリークが口を開いた。
「ミルドラース……なんだか、とても嫌な感じがする名前ね」
 アンジェリークは変な寒気がすると言って両腕をさすった。
「寒いですかー? 何か羽織るものでも持ってきましょうか」
「ううん、大丈夫。それより今日は何をするの? まだお部屋に本はあったけど」
 ぴたりとルヴァのほうへ体を寄せて、長い睫毛に縁取られた翠の瞳がじいっとルヴァを見つめた。アンジェリークにしてみれば、寒いならくっついてしまえばいいのだ。
「ええと今日はですね、呪文の種類などはあらかた調べ終わりましたんで、早速実践へ移ろうと思いましてね」
 ルヴァはいつもの流れでアンジェリークの金の髪を愛おしげに撫でている。
「それならマーリンさん呼んで来ましょうか?」
 アンジェリークがモンスター爺さんのところへ行こうとしたとき、ルイーダが薬草酒を彼女の隣に置いた。驚いて横を見ればいつの間にかマーリンが座っている。
「その必要はありません。わしはいつでもここにおりますからの」
 しわがれた声がアンジェリークに届く。
「わ、びっくりした……おはようございます、マーリンさん」
 ルヴァはアンジェリークの向こう側に座るマーリンをひょっこり覗くようにして話しかける。
「おはようございますー。読み終わった本をお返ししますね。とても面白かったです、ありがとうございました」
 にこりと微笑むルヴァに、深い皺を一層くしゃくしゃにしてマーリンは笑った。
「やはりもう読んでしまわれたか! そうなるじゃろうと思ったわい、ほっほっ」
 その様子にくすりと微笑んで、アンジェリークが目を細めた。
「もう読んじゃったのかって笑ってらっしゃるわよ、ルヴァ」
「あはは……お見通しでしたかー」
 ルヴァは照れ臭そうに頬を掻いてぺこりと頭を下げる。返された本を受け取りながらマーリンが目を細めた。
「ポピーは今、朝の見回りに出かけておりましてな。そろそろ戻ってくるじゃろうから、ここで……いや、このほうが良いか──ドラきち!」
 マーリンに名を呼ばれ、ドラきちがぱたぱたと飛んできた。
「城の前でポピーと合流することとしよう。ドラきちよ、良いな。ポピーに伝言を頼むぞ」
「わかっター。お城ノ前で待チ合わせ、でイイんダね?」
「そうじゃ。この三人がそっちに向かうと言ってくれい」
「うン、伝エてクルねー! ねーねー天使サマ、アとで撫でなデシてネ?」
 くるりとアンジェリークを振り返り、キーキーと鳴いたあと──ルヴァには鳴き声しか聞こえない──ぱたぱたとどこかへ飛んでいった。

 マーリンは近くに置いてあった大きな袋を担いだ。
「さて……外へ行くとするかの」
 それを見て、ルヴァが顎に手を添えて考える仕草を見せた。
「マーリン殿、その袋はなんでしょうか」
 ニヤ、とマーリンの口の端が上がった。そのいかにも魔法使いらしい少々皮肉っぽい笑みもどこか悪戯を企む少年のようで、悪い気はしないとアンジェリークは思う。
「これから賢者様が使う杖どもじゃ。既に魔力が込められておるから、いきなり呪文を唱えるよりは扱い易いですからな。だが覚悟なされよ、ほっほっ」
 へえ、とアンジェリークが袋からはみ出ている杖をしげしげと眺めた。
「ルヴァが使うための杖なんですってー。ドラきちはポピーちゃんのところにお城の前で合流しようって伝えに行ったみたい」
 ルヴァは頷いてカップに残っていたハーブティーを飲み干して席を立ち、マーリンの代わりに杖の入った袋を持った。アンジェリークもそれに続き、先に歩き始めたマーリンを追って城の外へと向かった。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち