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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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「マーリンお爺ちゃま、次はどうしよう」
「そうじゃのう……早速実戦投入してみるのはどうじゃ。最も大切な事は学習ではなく、実行じゃからの。この辺りの敵ならばポピーとプックルとわしがつけば問題なかろう」
 その言葉に、アンジェリークが慌てて止めに入った。実戦──即ち、また魔物との戦いになるということだ。
「えっ、えっ、実戦って……マーリンさん待って! ねえ、ポピーちゃんも止めて!」
 グレーの瞳を優しく細め、マーリンは不安そうな声のアンジェリークを諭す。
「天使様、そうご心配召されるな。わしらがついておるから、こちらの世界へいらした時のようにはさせませんぞ」
 ポピーもそれに続いてにっこりと微笑んだ。
「もうこの辺の魔物さんたちは怖くないから大丈夫。ルヴァ様は魔法の種類も覚えてらっしゃるようだし、実際に戦ってみたほうがきっと分かりやすいと思うんです。どうですか?」
「そうですねえ、あなた方がついていて下さるなら安心です。よろしくお願いします」
 ルヴァはその長身を折り曲げるようにして、丁寧なお辞儀をした。
 そこへポピーが言葉を繋いだ。
「杖はどうしますか? 他にもあるけど、良かったら持ってみて下さい」
 ひとまずいかずちの杖や天罰の杖などを持ってみるが、特にこれだという感じもないまま、理力の杖を手にするルヴァ。
「……んん? これは……なんて軽いんでしょう」
 今までのものに比べると重みを殆ど感じないことに驚き、ほんの軽い気持ちでぶんと一振りしてみた。
 するとたちまち杖から白銀の光の刃が放たれて真向かいの樹木に当たり、すっぱりと真っ二つに分かれた。それをルヴァ本人を含めた全員が驚愕の表情で見つめている。
 切り倒された樹木の上部分が周囲の枝葉をなぎ倒すようにして地面に滑り落ちた。
「……ルヴァ……? 今の、なに……?」
 それを目で追っていたアンジェリークがようやく喉から声を絞り出すと、ポピーがはっとした顔つきで言葉を紡ぐ。
「その杖は、理力の杖といって、自分の魔力を力に変えられるんです。……でも」
 ポピーは何か恐ろしいものでも見るかのような目をして、ルヴァを伺い見た。
「これはお父さんでも装備できなくて、わたしとお母さん、魔物さんたちしか装備できない筈なのに……それにあんな効果があるなんて見たことない……」

 聡明な少女からの視線が、守護聖として一般人と接したときに時折感じたことのある、未知なる存在への景仰と畏怖が絡み合ったものに変わったことに気付き、ルヴァは静かに目を伏せた。
 マーリンがルヴァの表情から何かを感じ取り、ポピーへと歩み寄った。
「それは当然じゃろう、ポピーよ。この方々は竜の神にも匹敵するほどの力を秘めておられる。──それに、だ」
 普段は柔らかく笑みの形に皺が刻まれているその顔に、今は鋭い光が宿っている。
 大好きなお爺ちゃまを怒らせてしまった、とポピーは怯えた。
「相手の立場に立たずして軽々しく人を判断するものではないぞ。この世界はとても広い、わしらが知り得ぬことなぞまだ沢山あるものじゃ。ただおまえが知らぬからといってそのような態度はどうかと、わしは思うがの」
 マーリンの痩せた手が、ポピーの両肩に置かれた。
「こんなとき、リュカなら何と言う? のう、ポピーよ」
 置かれた手に力はこもっていない。
 しかしポピーにはとてつもなく重く感じられ、じわりと涙が滲んだ。
「あ……謝りなさいって、言うと思います」
 マーリンは大きく頷いて──その通りだと言うように──両肩をぽんと叩いた。
「……わしはな、さっきのおまえのような目をしたものたちを、ようく覚えておるよ。……まなざしとはときに言葉などよりも雄弁に語るものよの」
 先程の鋭い眼光は消え去って、いつもの優しいまなざしで口の端を上げた。
「……! ルヴァ様……ごめんなさい」
 ポピーは悪気なくとはいえ傷つけるような真似をしたことに気付いて、弾かれたように深々と頭を下げる。
 俯いたまま肩を震わせている少女を不憫に思い、アンジェリークが細い肩を抱き締めた。
「ポピーちゃん顔を上げて。大丈夫よ、ルヴァはそんなの気にしてないわ。ねっ?」
 ルヴァはポピーの側へと歩み寄り、膝を折って目線を合わせた。
「そうですよー、ポピー。私ですらさっきは驚いてしまったんですから、あなたはもっと驚きましたよね」
 あはは、と頬を掻いて困り顔になるルヴァに、ポピーの肩を抱いたままのアンジェリークがぷっと吹き出した。
「いきなり目の前で木が真っ二つになるんですもの、もうびっくりしちゃったわよね! でも皆に怪我がなくて良かったわー」
 ルヴァの手がポピーの頬をしとどに伝う涙を拭った。
「ほら、泣いちゃうと目が腫れてしまいますよー。私たちにはまだ分からないことだらけなんですから、頼みますよ、ポピー先生」
 天使様は優しいなあ、ルヴァ様の手はお父さんよりずっと綺麗だなあ、なんてことを思いながらポピーはようやく笑みを浮かべて頷いた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち