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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 そして一行はルイーダの酒場へと戻ってきた。
 ぱたぱたとポピーがカウンターへと駆け寄っていく。
「ルイーダさーん! 今日のお昼はなんですかー」
「あらお帰りなさい、ポピー様。今日はサンチョさんが皆の分のサンドイッチを置いていったわよー」
 たちまちポピーの顔がぱあっと輝いた。
 この顔を見れば誰もが微笑んでしまうであろう愛らしさだ。
「やった、サンチョのサンドイッチ! クレソンいっぱい入れてある!?」
「王女様の好物だもの、入ってないわけがないわ。それはもう、みっしりのぎゅうぎゅうよ?」
 そう言ってぱちりとウインクした拍子に長い睫毛が揺れた。
「やったーーーーっ! みっしりのぎゅうぎゅうだーっ!!!」
 大興奮で握りこぶしを突き上げてガッツポーズをとるポピーに、ルイーダが思い切り吹いた。勿論そのやりとりを側で見ていたアンジェリークとルヴァも笑いを堪え切れない。
「ふふ……ねえ、そんなに美味しいの? サンチョさんのサンドイッチって」
 アンジェリークは未だ興奮冷めやらぬ様子のポピーに声をかけた。
「うん、とってもとっても美味しいの! ね、早く皆で食べよう! マーリンお爺ちゃまも、早く来て!」
 ぐいぐいとマーリンの背を押して席へ着かせようとするポピーに、マーリンが呆れた声を出した。
「こら、年寄りをそう急かすでない。わかったわかった」

 全員が席について間もなく、食べやすくカットされたサンドとお茶が運ばれてきた。
 ポピーは両手を組んで目を閉じ、小さく何かを呟いている。アンジェリークとルヴァもそれに習い、そっと感謝の祈りを捧げた。
 アンジェリークが早速サンチョ特製サンドを手に取り一口齧ると、表面がパリッと硬めのパンの間にしっとりした厚めのハム、ポピーの好物らしいクレソンがたっぷりと挟まれ、そして酸味の効いた緑色のソースでまとめられたその味わいは絶妙のバランスを保っていた。
「んん、ポピーちゃんが絶賛するの、わかる! 今度レシピ教えてもらおうっと。このソースがすっごい気になるわー」
 またしても視線を宙に彷徨わせて味の分析を始めたアンジェリークを見て、空のトレイを胸に抱えたルイーダがにこやかに教えてくれた。
「ああ、それね。ソレルっていう野菜のペーストよ。酸っぱい葉っぱなの」
 ルヴァは知っているだろうかと言いたげなアンジェリークからの視線を受けて、ルヴァは既に一口食べていた分を慌てて飲み込んでから話し出した。
「ええと……スイバやオゼイユとも呼ばれているタデ科の多年草ですね。美味しいですがシュウ酸を多く含むので多食は厳禁、星によっては雑草扱いで誰も食べないそうですが……こうしてソースになっていると実に美味しいですねえ」
 言うだけ言ってまた一口かぶりつく。呪文を唱えるために集中し続けた頭と体は少々くたびれていて、腹の音が鳴る一歩手前だったのだ。
 皆が黙々とサンドイッチを頬張る中、ルイーダがカウンターから何かの小瓶を持ってきた。
「このハムはね、こっちの蜜をほんの少しつけても美味しいのよ。味に飽きたら試してみて」
 アンジェリークが興味津々といった様子でシロップを手に垂らし、味を確かめていた。
「……メープルシロップ? でも色も薄いし凄くさらっとしてるわ」
 ルヴァもつられて同じように舐めてみる。
「採取時期の早いメープルシロップのようですねぇ。あれは早くに採取したものほど味や香りがさらっとしていますから……こちらの世界でもサトウカエデが生えているんでしょうね」
 アンジェリークが見つけたドングリなど、自分たちの宇宙とも共通する部分があるのは興味をそそられる。
「チゾットの近くにアケルの森があってね、そこから樹液を採ってきてるの。醗酵させれば酢になるのよ」
 他国との交流がなく、決して外へ開けた国とは言えないこのグランバニアで、調味料を自力で賄える利は大きい。
 ルイーダの言葉にルヴァのまなざしがいきいきと輝きだした。
「アケル……Acer saccharum(アケル・サッカルム)の森というんですか。いやー本当に興味深い」
 今ひとつ理解できていない風のアンジェリークに、ルヴァが穏やかな顔で続けた。
「アケル・サッカルムはサトウカエデの学名なんですよー。つまりアケルの森はメープルシロップの森ってことですねー」
 そうだったんですかー、と素直に目を丸くするアンジェリーク。一方のルイーダは片手を腰に当てて唇を尖らせている。
「ほんと物知りね、お兄さん。あたしはここの兵士さんから最近教えて貰ったばかりなのに」
 だって宇宙一の知恵の守護聖だもん、とアンジェリークは内心で誇らしく思った。その妙に勝ち誇った顔がルヴァの視界に入り、照れ臭さを隠すためにサンドイッチを多めに頬張った。
 そしてそんなアンジェリークはまだ半分ほど残っているサンドイッチにメープルシロップを少し垂らして味わってみる。クレソンの辛味を和らげて、ハムの旨味をより後押しする風味に変わっていた。塩気の強いパンとの相性がとてもいい。
「わあ、こっちも美味しい……! ルヴァ、食べてみる?」
「いいんですか? ではちょっと貰いますねー」
 アンジェリークにサンドを差し出され──こういうときの彼女の疑問形は食べてみろと言っているのとほぼ同じだと思う──ぱくりと一口食べてみた。
「うん……適度な甘味が加わって、こちらもまた美味しいですねえ。ありがとう、アンジェ」
「どういたしましてー。うふふ」
 ルヴァの口の端についたソースをそっと指で拭い、翠の瞳が柔らかく笑みの形になったのを見てルヴァの顔も綻んだ。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち