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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 それから暫くは細い山道を歩き続けた。
 二人で楽しくお喋りをしながら、緩やかな傾斜を上る。
「あーなんだか、あなたがまだ女王候補だった頃のようで懐かしいですねー」
 端的に言えば女王と守護聖が宇宙規模で迷子になっているという酷い状況ではあったが、アンジェリークが女王になってからはなかなかこうして二人で出歩けずにいたせいか、いささか緊張感に欠けつつてくてくと森の湖にでも行くくらいのペースでゆっくりと歩いた。
「ほんとねー。ほら見て、木漏れ日が差してて綺麗ね」
「しかし先程は驚きましたよー。葉っぱでカップを作ってくるし、ナイフに靴に、ドレスまで改造してあって」
 かねてからアンジェリークは学習能力の高い人だと思っていたルヴァだったが、それにしても妙に場慣れしている気がするのだ。こんなとき、これが普通の十七歳なら途方に暮れるばかりなんじゃないだろうか。
「そういえば言ってなかったわね。また神鳥の宇宙が狙われたら女王と補佐官は真っ先に襲われそうだから、一応聖獣の宇宙と合同で対策をしてたのよ。いくら守護聖や兵に囲まれていたって、わたしたちが人質にされていたらどうしようもないもの」
 ぴた、とルヴァの足が止まった。アンジェリークは気にも留めずにそのまま続ける。
「葉っぱのカップはね、そのときにヴィクトールが教えてくれたの。道具が何もないときは作ればいいって。覚えてて良かったわ」
 そんな重要な話を知らされていなかった上にそこでヴィクトールの名が出たことに、ルヴァの胸中は嫉妬の炎でちりちりと焦げた。
「神鳥の地の守護聖がここにいるんですけどねー……私はそんなに頼りないですか? ……確かに実戦経験などないですけど……」
 これが他の誰かの言葉だったなら、素直に良かったですねと言えた。しかし最愛の人が頼り褒めたのが別の人間とくれば──しかも自分より年上ときた──話は変わる。
 だが彼はまだ気付いていない。いくら道具を作る方法を覚えても、使う枝葉に毒があるかどうかの基礎知識がなければ結局無意味だ。アンジェリークの胸中にいつも彼への一途な愛と深い尊敬があるが故に、ここへ来て蓄えた知識と知恵を使えたのだ。
「あら、珍しい。ヤキモチだなんて」
「それはそうでしょう。幾ら執務上のこととはいえ、私というものがありながら他の人を頼るなんて、面白くないに決まってますっ」
 ルヴァがプイと分かりやすくそっぽを向くもその手はずっと繋がれたままなので、アンジェリークはくすりと微笑んだ。
 繋いだ手を引き寄せてルヴァの手にそうっと口付けると、その指先がアンジェリークの頬を優しく撫でた。
「……浮気はダメですからね、アンジェ」

 そうこうしている内に、森を抜けてぽっかりと草原が広がる場所へ出た。
 少し小高い丘になっていて、草の香りを孕んだ風が汗ばんだ肌に心地よく吹き付ける。
「アンジェ、あちらを見て下さい! お城が見えますよ」
 ルヴァの指さす方角を見ると、深い森の中に古めかしい大きな城が見える。
「あのお城まで行けば何か情報が貰えるかしら」
「どうなるか分かりませんが、ひとまず行ってみるしかなさそうですね」
 いざ城へ向かおうと二人が振り返ったそのとき、推定三メートルはある大きさの青い竜がのっそりと近付いてきて唸り声をあげた。
 即座にルヴァがアンジェリークを庇うように前へ立ちはだかる。
「ルヴァ、あの竜みたいの、こっちに来るわ……!」
 突然の事態に今にも泣き出しそうなアンジェリークに、声を潜めて告げる。
「静かに。少し気が立っているようです、騒がずにじっとして」
 視線を竜から外さずに、アンジェリークを逃がす算段を考えてみるものの、なかなか相手が動かない。
 黙っていればその内どこかへ行ってしまうかとも思ったが、どうもそうはいかないようだ。
 見たところ余り素早く動く生き物ではなさそうだ。一か八か、二手に分かれて走り抜けられないだろうか。
「アンジェ……あの生き物は余り素早くはないようですから、一気に走り抜けてしまいましょう。あなたは右から回って下さい。私がまず先に行きますから、その隙に身を隠せるところまで逃げて」
「でも……」
 アンジェリークはがちがちと震えて歯がかみ合わず、それ以上言葉が出せないでいた。
 ルヴァはそんなアンジェリークの手をぎゅっと握り、にっこりと笑った。
「大丈夫、逃げ切れますよ。またあとで落ち合いましょう。……行きますよ!」
 いつもより少し早口でそう告げると、竜の左側へと回り込むように勢い良く駆け出した。
 竜は特に動く様子もなく、ルヴァのほうを見ていた。これならいける、とアンジェリークも右側へ駆け出す。
 ちらりとアンジェリークが駆け出したことを確認して、あと一息で逃げ切れると思った矢先、アンジェリークの足がぴたりと止まった。
(……しまった、二匹目が!)
 よりによって二匹目はアンジェリークの前に立ち塞がっていて、彼女は青褪めた顔で後ずさりしていた。
作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち