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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 それから一行は城内へ戻り──プックルは馬車の中でお休み──城の跳ね橋が上がった頃に、ごく身内だけの宴会が始まった。
 ルヴァは当初少々堅苦しいものを想像していたが、蓋を開けてみれば言葉通りの意味での宴会だった。
 さほど畏まった様子のない、ある種素朴な料理が続々と運び込まれてくる。ずらりと並べられた料理の中から、めいめいが好きなように取るスタイルのようだ。真っ先に子供たちが辺りを賑わせながら料理をつまんでいる。
 これはリュカにも言える事だが、一国の第一王子だというのにざっくばらんなその性格は、長年の苦労が作り上げたものなのかはたまた元からかは分からないが、とても話しやすく好感が持てた。
 葡萄酒を片手にしたヘンリーがルヴァとアンジェリークが来た経緯を聞き口を開く。
「へえ、お二人は違う世界からいらしたと。それでは文化から何から違っていてお困りだったでしょう。リュカのところで滞在なさっているのは正解ですよ。何せおれの子分ですから」
「あーはいはい、まだ言ってるのか親分」
 呆れたように片眉を上げてヘンリーを軽く睨むリュカにも、ヘンリーは平然と涼しい顔をしている。ルヴァはそんな二人の様子に穏やかな笑みを浮かべていた。
「ええ、本当に良くしていただいて助かっています。そろそろ帰るための何がしかの手掛かりが見つかればとは思うんですが……」
 そこへ、ヘンリーの横にいた妻マリアがルヴァの杯に葡萄酒を注ぎながら、おずおずと言葉を紡いだ。
「あの……一冊の本がこちらへ来るきっかけになったのですし、帰りのお導きも世界のどこかにある本がきっかけになるのではないでしょうか」
 思いがけない人からの意見に、ルヴァの両眉が上がった。暫し呆気に取られたようにまじまじとマリアを見つめてしまい、マリアが酷く居心地悪そうに頬を染めて縮こまってしまった。
「はあ、確かに……ええ、確かにその通りですよねぇ。それは思いつきませんでした……!」
 ルヴァの表情が驚きからゆっくりと感動へと変わり、その瞳には期待が宿った。それとは対照的にアンジェリークには困惑の表情が浮かぶ。
「でもルヴァ、本って言ってもこの世界全体からよ……探すだけで一苦労だわ」
「それは……うーん、それもご尤もな意見ですねー……さてどうしたものでしょうか」
 カナッペを口に運び、何かいい案はないものかと思案に暮れるルヴァ。そこへポピーが話しかけてきた。
「ルヴァさまー」
 ポピーの手にした皿には果物が山積みになっていた。どうやら果物全般が好みらしい。
「おやポピー、どうしましたかー」
「お話中ごめんなさい。あの、これ知ってますか」
 テーブルに皿を置き腰に下げた袋の中から何かを取り出して、ルヴァの手のひらにころんと小さな石のようなものを乗せた。見覚えのあるそれは瞬時にルヴァの中にある柔らかな思い出を刺激する。
「ああ、これは……砂漠の薔薇ですかー。懐かしいですねえ……」
「やっぱり知ってらしたわ! ねっ、だから言ったじゃない、お兄ちゃん」
 ぷうとふくれっ面をさせ、ティミーがぶうたれた。
 どうやら子供たちはルヴァに珍しいものを見せてみたかったらしい。
「ちぇっ、さすがに知らないだろうと思ったのになー。だってそれ探すの結構苦労したしさ」
 この色彩豊かな世界にも砂漠があるのか────小さな驚嘆と共に、見に行きたい気持ちが湧き上がっていく。
「この砂漠の薔薇はね、かつて水があった場所に出来るんです。……私の故郷でもね、よく見かけたものですよ」
 ルヴァが目を細めて砂漠の薔薇をそっと撫でる姿に、ポピーは何とはなしに熱砂の国の風景を思い出した。
「テルパドールにいた人も同じこと言ってました。ルヴァ様の故郷も砂漠の国なんですか?」
「ええ、国というか世界全部が砂だらけでしてねー」
 ティミーはふうん、と返事をしながらローストビーフのようなものをフォークでつつき回してビアンカに無作法を窘められている。
「世界中どこに行っても砂漠なの? なんか想像できないや。そういえば砂漠の薔薇を探しに行ったときね、サンチョがぜえぜえ言ってて面白かったんだよー。ね、お父さん」
「暑さにへたばってたんだからそう笑ってやるなよ、サンチョは塔に登ってもぜえぜえ言うよ。……あ」
 父と息子で何気に酷いことを言いつつ、何かを思いついた様子ではたとリュカの目が見開かれた。
「そうか……テルパドールか。アイシス様なら、お二人のことを予見して下さるかも知れないぞ」
 ぱちりと指を鳴らして葡萄酒を口に含むリュカ。
 首を傾げるアンジェリークとルヴァに、ティミーが説明してくれた。
「アイシス様はね、予知の力があるテルパドールの女王様なんだ」
 前に美人だってお父さんが褒めてたらお母さんがしばらく怒ってたらしいから、お兄ちゃんも気をつけてね、という微妙な情報まで堂々と耳に入ってきて、すかさずリュカの突っ込みが入った。
「ティミー。その話を誰に聞いたのか、あとでじっくり聞かせてもらうからな……ああすみません、こっちの話です。えっと、もしアイシス様に予知していただけたなら、たくさんの本の中から候補を絞り込めるかも知れません。明日早速お連れしましょう」
 行ってみたいと思った矢先に突如訪れた幸運に、ルヴァは言葉を失っていた。
 どういう顔をしていいのやらと困ったルヴァの耳元へ、アンジェリークが口を寄せてそっと囁いた。
「……良かったわね、ルヴァ」
「何がです?」
「砂漠。行きたそうにしてたから」
 くすりと笑うアンジェリークに何もかもお見通しなのだと悟り、その目に柔らかい笑みが宿った。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち